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絶対的な権力に歯向かったらどうなるか…マンション管理組合の役員を務めた30代女性が戦慄を覚えた「ムラ社会の呪縛」

Finasee / 2025年2月3日 18時0分

絶対的な権力に歯向かったらどうなるか…マンション管理組合の役員を務めた30代女性が戦慄を覚えた「ムラ社会の呪縛」

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

橋爪あゆみさん(仮名)はIT企業の総務部に勤務する会社員です。長女を出産後、現在は育休中。橋爪さん一家は長女が生まれる前、コロナ禍に都内の小規模新築マンションを購入し、引っ越してきました。マンション内で親しい友人もできて新米ママ生活を満喫していたそうです。

そんな時、橋爪家にマンションの管理組合の役員が回ってきます。しかし、これが災難のきっかけになります。管理組合は301号室の津島さんの管理費未納問題について、代々“見て見ぬふり”をしてきたというのです。

この問題に、橋爪さんの友人で、正義感の強い中村さんが抗議の声を上げましたが、思わぬ波紋を呼ぶことになります。

●前編:【なぜ4年も放置? マンション管理組合の役員を引き受けた女性が仰天…“見て見ぬふり”をされてきた「厄介すぎる問題」】

マンションの理事会役員になり、大トラブルに巻き込まれる

私は営業マンの夫と満1歳を迎えたばかりの長女の唯奈の3人家族です。東京の郊外の小さなマンションに入居して4年が経ちました。

3階建て、総戸数が12戸と本当にこじんまりしたマンションですが、その分、入居者間の距離は近く、入居してすぐに同世代のファミリー2組と親しくなって家族ぐるみの付き合いを続けていました。

2023年末に唯奈を出産後、産休を経て育休を取得中ということもあって、緑豊かでレジャー施設も多い郊外での新米ママ生活を満喫していたのです。マンションの管理組合の役員が回ってきたのは、そんなタイミングでした。

コロナ明けからぐんと仕事が忙しくなった夫は、完全に私にお任せモード。それでも引き受けたのは、親しいママ友の中村さんも役員候補になっていたからです。

同い年の中村さんは帰国子女で、語学力を活かして自宅で翻訳の仕事をしています。中学生までアメリカと日本を行ったり来たりしていたというだけあってネイティブに近い流ちょうな英語を話すだけでなく、正義感が強くはっきりとモノを言うので頼りになる存在でした。

理事会の運営自体は、大手不動産系列の管理会社が手取り足取りサポートしてくれるらしく、マンション管理の素人の私たちでもさして問題はなさそうでした。しかし、歴代の役員から先送りされてきた大きなトラブルが1つありました。それが、301号室の津島さんの管理費未納問題です。

未納額が膨らむにつれてマンションの運営も逼迫

津島さんはマンションの地権者の一族ですが、居室を借りている立場で、実質的なオーナーである奥さんのお兄さんとどちらが管理費や修繕積立金を負担するかで揉めているようでした。

とはいえ、未納額は既に200万円を超え、マンションの運営はそんな個人的な事情に構っていられないほど逼迫しつつありました。小規模マンションだけに、1戸の未納が与える影響はバカにならないのです。

私が役員に就任して初めて開催された理事会で、管理会社の担当者から津島さんの未納問題について、これまでの経緯が説明されました。管理組合としても管理会社を通して支払いの催告をしてきたけれど、暖簾に腕押しだったこと。さらに問題なのは、管理費未納には5年という時効があり、協議もできず債務承認書も取れないため、このまま放置しておくと時効消滅によって回収できない管理費が出てくるという話も出ました。

これにいち早く反応したのが中村さんでした。

「どうして4年以上も放置してきたんですか? すぐに訴えるべきです!」

さすが中村さん! 私も声にこそ出しませんでしたが、心の中で快哉を叫びました。

津島さんは60代後半くらいのご夫婦で、30代が多いこのマンションの住民の中では浮いた存在です。マンション規約に違反する大型犬を飼っていて、朝晩の散歩の行き帰りには堂々とエレベーターに乗せたりしています。私も一度、犬と連れた奥さんとエレベーターに乗り合わせ、唯奈と怖い思いをしたことがありました。

いくら地権者一族だからといって忖度するにも程があります。そんな気持ちで、「法的にはどうなんでしょうか? 管理組合として訴訟を起こすことはできるんですか?」と尋ねると、担当者は訴訟も可能だという見解を示した上で、「必要なら当社が契約する弁護士から説明してもらいます」と応じました。

1カ月後の総会で恐るべき大逆転劇が…

これに慌てふためいたのが会計担当理事の井畑さんです。

「訴訟なんて費用もかかるし、そもそも、そんな大ごとにする必要があるんですか?」

「管理費未納問題に対して法的手段を採ったケースは幾つもありますよ。そもそも、管理組合として何らかのアクションを起こしておかないと強制執行もできないはずです」

中村さんの対応は冷静で論理的なものでしたが、井畑さんは感情的になり、「強制執行?あり得ない!  訴えるって誰を訴えるんですか? まさか、津島さんのお兄さん?」と声を上ずらせます。

「訴訟の対象になるのはオーナーでしょうね」と中村さんが言うと、井畑さんは「そんな大事なこと、私たちだけで決めるわけにはいきませんよね? 他の住民の方々の意見も聞いてみてください」と食ってかかってきました。

マンションの規約上は理事会決議に基づく提訴が可能だったのですが、井畑さんが強硬に主張して、総会を開催することになりました。

そしておよそ1カ月後に開かれた総会で、私たちは恐るべき大逆転劇を目にすることになったのです。

予兆はありました。最初の理事会から1週間もたたないうちにマンション内のもう1人の友人、桑原さんからランチに誘われました。その席で、「津島さんの件、あまり事を荒立てない方がいいと思うよ」とやんわり釘を刺されたのです。

これは何かあるな、と思いました。

案の定、総会には全12戸中9戸が出席。反対7票で管理費未納の請求に関する提訴はあっさり否決されました。驚いたのは、桑原さんも反対に票を投じていたことでした。

この一件以降、私たち仲良しグループの関係も微妙になりました。誰かの誕生日にはホームパーティーを開いたり、レストランの個室を借り切ったりしてお祝いしていたのに、全く声がかからなくなりました。

マンション内や出先のスーパーなどで顔を合わせれば話はしますが、それだけです。夫も不穏な雰囲気を察したようで、「桑原さんや中村さんとけんかでもしたの?」と真顔で聞いてきたくらいです。

地元の名士の影響力で脅かされる身の安全

中村さんから転居の話を聞かされたのは、くだんの総会から数カ月経った11月のことでした。表向きは長男の小学校進学に合わせて都心にいい物件が見つかったからとのことでしたが、最後に会った時、こんなふうに言われました。

「唯奈ちゃんは地元の幼稚園に通わせない方がいい。できれば、なるべく早く引っ越した方がいい」

その後、唯奈を毎週連れていく児童館のママ友から、中村さんと長男が地元の幼稚園で村八分の状態だったという話を聞きました。陰惨なイジメもあったようです。

幼稚園は地元の寺の経営で、津島さんのお兄さんはその寺の総代。それだけでなく、地主で地元の名士でもある一家は、地域社会に大きな影響力を有していたのです。

中村さんと私は、その絶対的な権力に歯向かったという認識なのでしょう。

東京の郊外にもこんなムラ社会があったことに戦慄を覚えました。夫にもすぐに詳しい話を伝えると、「そんなことがあるんだ!」と驚愕していました。

最近は週末になると引っ越し先を探しに遠出しています。家を売っても数百万円のローンは残りますが、身の安全には代えられません。

当初は居心地がいいと思った郊外のマンションですが、今はここを購入したことを心から後悔しています。

※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。

森田 聡子/金融ライター/編集者

日経ホーム出版社、日経BP社にて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は雑誌やウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に、投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく伝えることをモットーに活動している。

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