「父は俺にすべてを任せると言っていた」父親の書斎で見つかった新旧2通の遺言書、最終的に優先されたのは…
Finasee / 2025年2月5日 18時0分
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Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
都内に住む田中義一さん(仮名・享年80歳)が亡くなった。長男の太郎さん、次男の次郎さん、長女の美咲さんの三兄弟は遺品整理を進めていた。
そんな中、義一さんの書斎で遺言書と思われる封筒が2つ見つかる。1つは2010年の日付、もう1つは2020年の日付だ。古い方には「全財産を長男の太郎に相続させる」、新しい方には「自宅を長女の美咲に、預金を次男の次郎に相続させる」と記されていた。
兄弟間でどちらの遺言書を信じるべきか意見の相違が起こり、まともな話し合いができず数カ月が経過。決定的な亀裂が生じてしまった。
●前編:【「こんな遺言書はおかしい!」亡き父親の遺品整理で見つかった2通の遺言書…兄弟が翻弄された「驚きの内容」】
2つの遺言書はどちらが優先されるのか?「どうすればいいんだ……」と悩む中、3人は専門家たる私を頼ってきた。私は遺言書については2通とも、義一さんからの依頼で作成をサポートしている。遺言の有効性や法律については専門家の意見が必要だと判断したようだ。
私は状況を確認し、次のように説明を始めた。
「まず、今回作成した遺言書は自筆証書遺言といわれるものです。詳細は割愛しますが、要は手書きの遺言書です」
そう前置きをしたうえで続ける。
「自筆証書遺言の場合、一般的には後から作成された遺言書が有効とされます」と、結論を述べる。「はい」とうなずき続く説明を待つ美咲さんを見て私はさらに続ける。
「その理由は、自筆証書遺言は作成後いつでも撤回や変更が可能だからです」
つまりは新しい遺言書が古い遺言書の内容を撤回したものとみなされるわけだ。
「今回の状況に即して考えれば2020年の日付の遺言書が、2010年の遺言書を撤回する意思を示している可能性が高いです。遺言書の内容が矛盾していれば、最新のものが優先されることになるでしょう」
この説明により、次郎さんと美咲さんは少し安心した様子を見せた。しかし、太郎さんは納得できない。
「父は俺にすべてを任せると言っていた。それなのに……どうしてそんな簡単に撤回できるんだ?」
私はさらに説明を続けた。
「太郎さんの気持ちはよく分かります。ただ、法律的には遺言者の意思が最優先されます。そしてその意思を示す最新の遺言書がある以上、基本は最新の遺言書の内容に従うのが原則です」
太郎さんが何か言いたげだったが私はなおも続ける。
「そもそも、遺言が口頭と書面とがある場合は時期に関係なく書面の方が優先されます」
太郎さんは「そうですか……」とだけつぶやく。自分の意見が完全に間違っていたことを悟り、それ以降は何も言わなくなった。
改めて3人で話し合うことにとはいえ、遺産分割においては事実上、相続人間で話し合いの余地がある。最新の遺言書では「自宅を美咲さんに」「預金を次郎さんに」と指定されているが、その後の財産の処分までは縛られない。確かに相続としての財産の帰属先は決まっているが、当事者間で話し合い、その後自分の財産として実質的に遺産を分け合うことは可能だ。
太郎さんは深く考え込んだ後、「父の意思を尊重しつつ、自分も納得できる方法を考えたい」と提案した。
私は3人が冷静に協議できる場を設定し、聞き役に徹しながらも話し合いの様子を書面にまとめていった。
その後の田中家は…今回、田中一家の遺産相続については遺言書のとおりの内容となった。新しい遺言書が古い遺言書を撤回する意思を示していると認められ、法律的にも新しい遺言書が優先されたのだ。
しかし、話し合いの結果、相続とは関係なく、次郎さんと美咲さんから太郎さんへ現金が支払われる形で最終的には決着した。結局のところトラブルを解決する際には、遺言者の意思を尊重しつつ、家族間の話し合いを通じて柔軟に対応することが重要だろう。
遺言書は家族間の不安や争いを避けるために作成されるものだが、内容をアップデートする際は古いものをしっかり処分しなければ逆に混乱を招くこともある。今回の田中家はまさにそれだ。
田中家の場合はなんとか専門家の助けを借りながらであるが、冷静に解決に向けて話し合うことで、家族全員が納得できる結果にたどり着くことができた。
だが、現実には新旧それぞれの遺言を見比べて都合の悪い方が破棄されてしまったり、争いが法廷に持ち込まれたりなど、古い遺言が残っていたことで大変な事態が招かれることもある。
「自分たちが遺言書を作り直す時は、絶対に古い遺言は破棄するようにします」
3人は口をそろえて言う。
読者諸兄もどうか、遺言書を作り直す際は古い方の遺言書の取り扱いについて軽んじないでいただきたい。その軽率さが自身の大切な家族に無用な争いを生じさせてしまう可能性があるのだから。
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。
柘植 輝/行政書士・FP
行政書士とFPをメインに企業の経営改善など幅広く活動を行う。得意分野は相続や契約といった民亊法務関連。20歳で行政書士に合格し、若干30代の若さながら10年以上のキャリアがあり、若い感性と十分な経験からくるアドバイスは多方面から支持を集めている。
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