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再開発でできた大型ショッピングモールにおいやられ…子ども食堂を営む弁当屋にやってきた避けがたい危機

Finasee / 2025年2月11日 11時0分

再開発でできた大型ショッピングモールにおいやられ…子ども食堂を営む弁当屋にやってきた避けがたい危機

Finasee(フィナシー)

吉田早苗はため息をついた。時計は13時を指している。かつてなら昼食を買いに来る人たちでにぎわっていた弁当屋の活気は、今ではもう見る影もない。

それどころか、商店街全体が閑散としている。お昼時のピークに当てて作られた弁当が減る様子はない。このままだと、今日も大量の廃棄が出るだろう。

「吉田さん、休憩入っちゃって」

キッチンの片づけをしていた店長に声をかけられ、早苗はエプロンを外す。昨年50代に入った早苗にとって、立ち仕事は決して楽な仕事ではなく、最近は腰にもしんどさを感じるようになったが、やりがいのある仕事だと思っている。

お店の裏手にあるベンチに座り、残ってしまうからと自分で購入したのり弁当を食べる。味は間違いない。とびきり美味しいわけではないが、オーソドックスで安心できる味だ。食材の値段は高くなったが、六七〇円の値段だってそのままだ。

それなのに閑古鳥が鳴いているのには訳がある。

再開発により駅前にできた大型のショッピングモール。買い物客も、昼休みのサラリーマンも、そこに奪われてしまった。

しかたのないことだとは思う。時代の流れというやつだ。すでに3軒となりのパン屋は閉店し、よく分からない質屋になった。向かいの定食屋が閉店したのはつい先月のことだ。

だが弁当屋を潰すわけにはいかない。早苗には、いちパートながら弁当屋を続けていく責任がある。

休憩もそこそこに切り上げ、早苗は店内の小さなイートインスペースの掃除を始めた。普段は使っていないスペースだが、週に2回、火曜と木曜だけ、この場所は子ども食堂になるのだ。

売り上げが厳しい

下校時刻になると、子どもたちがやってくる。子どもたちはカウンターに設置されている箱のなかに百円を入れたり、入れなかったりしたあとスタンプカードに判を押してもらい、弁当を受け取る。お金は払えるときに払えばいいことになっている。

経済的に苦しい家庭のため夕食を食べられなかったり、親が忙しいせいで孤独に食事をしなければならない子どもたちが、楽しく栄養のある食事ができるよう、すべて早苗が考えたことだった。

17時過ぎになり、帰っていく最後の子どもを見送ると、店長は早苗のことを呼んだ。子ども食堂を片付けていた手を止めて事務所に入ると、店長は苦々しい表情で唇を噛んでいた。

「吉田さん、本当に申し訳ないんだけど、これ以上、子ども食堂を続けるのは難しい。最近は弁当も売れないし、売り上げが厳しいと、どうにもね……」

店長は早苗に向けて深く頭を下げた。

「やめてください、店長」

覚悟はしていた。子ども食堂の運営資金の中心は、もちろんお店の売り上げだ。始めた当初は支援になるならと弁当を買いに来てくれる人も多かったが、最近ではそういう人もめっきりと減った。行政からの補助金などに頼りながらなんとか続けてきた子ども食堂だったが、限界ということだ。

「もちろん今すぐってわけじゃない。辞めるにしても、告知とかあるだろうし、ただ、今月いっぱいで子ども食堂を閉める準備をしてほしい」

「……」

分かりました、と言いたかったが、いくら覚悟をしていてもショックは大きく、早苗はただうなずくことしかできなかった。

できる限りのことはやってみる

「そうかぁ、まあでもここまでよくやったんじゃないか?」

夕食のあと、コーヒーを飲みながら今日店長に言われたことを話すと、夫の竜次は眉を寄せて呟いた。

「そうかもしれないけどさ……って何笑ってるの」

「いや、そうは言ってもやめるつもりはないんだろうなと思ってさ。変わらないよな、早苗は昔から。これと決めたら、死にもの狂いでやり抜こうとする」

「それじゃあすごい頑固な人みたいじゃない」

早苗は冗談っぽく竜次のことをにらみつける。竜次は楽しそうに笑う。

「でも翔平のためなんだろう? なら、とことんやってみたらいい。俺にできることがあれば協力するからさ」

早苗は竜次の視線をたどる。電話台のとなりのキャビネットには、7歳のときに交通事故で亡くなった息子・翔平の写真が飾ってある。

「そうね」

早苗はうなずいた。

「できる限りのことはやってみる」

あの子ども食堂は、ちょうど翔平と同い年くらいの子どもがお腹を空かせていたことがきっかけで始まった。早苗自身、子ども食堂で触れる子どもたちの笑顔に救われてきた。その恩返しは、まだできていなかった。

●支援者を募るためSNSでの宣伝や街頭へのビラ配りに奔走する早苗だったが、検討むなしく、「子ども食堂閉店」が一歩、また一歩と近づいてくる。そんなとき、思わぬ救世主が現れる。後編:【「なんとか続けていけないか」資金難の子ども食堂が迎えた最後の日にやってきたまさかの救世主たち】にて詳細をお届けします。

Finasee マネーの人間ドラマ編集班

「一億総資産形成時代、選択肢の多い老後を皆様に」をミッションに掲げるwebメディア。40~50代の資産形成層を主なターゲットとし、多様化し、深化する資産形成・管理ニーズに合わせた記事を制作・編集している。

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