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「なんとか続けていけないか」資金難の子ども食堂が迎えた最後の日にやってきたまさかの救世主たち

Finasee / 2025年2月11日 11時0分

「なんとか続けていけないか」資金難の子ども食堂が迎えた最後の日にやってきたまさかの救世主たち

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

50代の早苗はとある弁当屋で働いている。売り上げは芳しくない。理由は近場にできたショッピングモールである。同じ商店街にある商店も次々と閉店していた。

弁当屋を潰すわけにはいかない。その一念で早苗はパートを続けていた。

早苗には週に2回の楽しみがあった。弁当屋のイートインスペースを活用した子ども食堂である。貧しいため食事にありつけない子どもや、働く親を尻目に、一人孤独に食事をとらねばならない子どものため、栄養のある食事を届けることが早苗の生きがいだった。

しかし、そんな子ども食堂にも終わりの日が近づいてきた。原因は運営資金の中心を担っていた弁当屋の売り上げ不振だった。

何かできることはないか……。早苗は子ども食堂存続の道を模索する。

前編:再開発でできた大型ショッピングモールに押しやられ…子ども食堂を営む弁当屋にやってきた避けがたい危機

よく頑張った

SNSを使った宣伝や駅前でのビラ配り。早苗は弁当屋の売り上げを伸ばすためだけではなく、子ども食堂を助けてくれる支援者を募った。

しかし効果が上がったのかは分からず、少なくとも状況を変えることはできなかった。

早苗にはもう、子ども食堂閉店の投稿を作るほかにない。弁当の写真にスマホの画像加工アプリで〈お知らせ〉の四文字を配置する。キャプションには簡潔に、今月末で子ども食堂を閉めなければならないことと、感謝と謝罪の言葉を打ち込んだ。
しかたがない。しかたがない。

早苗は自分に何度もそう言い聞かせた。

その日、早苗が家に帰ると日曜だったこともあってか、家にいた竜次が食事を作って待っていた。

「どうしたの?」

驚く早苗をよそに、テーブルにカレーライスを並べた竜次は珍しくワインを出してくる。カレーにワインってどういう組み合わせなんだと思わなくもないが、早苗には竜次の気持ちがちゃんと伝わっている。

「……ありがとう」

「味の保証はできないけどね。さ、手洗っておいで」

早苗はテーブルにつき、食事を始めた。不格好な大きさの人参も、まだ固いジャガイモも、やたらと甘口のカレールーも、愛おしかった。夫が早苗のために作ってくれたカレーは、どんなカレーより美味しかった。

「早苗は本当によく頑張ったよ」

竜次の優しい声に涙がこぼれた。カレーがしょっぱくなるじゃない。頭に浮かんだ言葉は声にはならなかった。

最後までよろしく

「おはようございます!」

早苗は店の裏口のドアを開ける。仕込みをしていた店長が顔を上げる。

「おはよう。吉田さん、すまなかったね……」

「いえ、仕方のないことですから。むしろこれまで、何年も私のわがままを聞いていただいてありがとうございました」

「あと2回、最後までよろしく頼むよ」

荷物を事務所のロッカーのなかに仕舞い、エプロンと三角巾を身に着けてお店に出る。カウンターを磨き、レジのなかの現金をチェックする。出来上がった弁当をキッチンから運んでカウンターのガラスケースのなかに並べる。いつもと変わらないルーティンのはずなのに、いつもよりずっと身体が重く、頭がぼんやりとした。

準備を終え、11時の開店まであと15分と迫ったころ、閉め切ってあるシャッターをノックする音がした。

「私が出ます」

店長に声を掛け、シャッターの鍵を開ける。

「すいません、まだ開店前で……」

腰の高さくらいまで上げたシャッターの下をくぐって表に出ると、商店街の面々が店の前に揃っていた。八百屋の山崎さん。精肉店の佐藤さん。個人商店の倉田さん。金物屋の上野さん。立ち飲み屋の立川さん。そして、商工会の渡辺会長。なじみの顔が勢ぞろいしていた。

「どうしたんですか、皆さん、そろいもそろって」

「いや、子ども食堂、やめるって聞いてさ」

渡辺さんが言う。

「ああ、そうなんですよ。駅前にできたモールのせいで、売上も厳しくて」

改めて口に出すと、現実が肩に重くのしかかる。商店街全体が苦しいことはみんなも肌で感じていることだから、表情は暗く沈んでいる。

「仕方のないですよね、こればっかりは。店長に迷惑をかけるわけにもいきませんし」

早苗はわざと明るい声で言った。これ以上暗く沈んだ空気になるのはいやだった。

「でもあと2回、今週いっぱい、しっかりやり切ろうと思います」

「そのことなんだが、子ども食堂、地域でも好評でな。お節介かもしれないとは思ったんだが、なんとか続ける方法がないか、僕らも考えてみたんだ」

「え」

早苗の口から間の抜けた声が漏れる。知らなかった。喜んでもらえている声が商工会に届いていることも、みんなが動いてくれていることも。

早苗が驚いて言葉を失っていると、集まったみんなが口々に言った。

「不揃い品で出していた野菜、よかったら使ってもらえないかな」と山崎さん。

「切れ端とかでよければ、肉も譲らせてもらおうと思ってるんだ」と佐藤さん。

「弁当にお菓子とか詰めたんじゃ、やっぱりおかしいもんかね」と倉田さん。

「食器、使い捨てじゃなくしたら経費節約になったりしないと思ってさ」と上野さん。

「大した額にはならんが、お客さんとか知り合いあたって、寄付金募ってみたんや」と立川さん。

「みんな、子ども食堂を続けてほしいと思ってるんだ。これからは、この商店街全体で協力して、なんとか続けていけないかね」

渡辺さんの表情は真剣だった。早苗の目には、思わず熱いものがこみ上げた。みんなの真剣な顔が、あっという間に滲んでいった。

「ありがとうございます、ありがとうございます」

子ども食堂 復活

「それじゃ、みんなまたおいでね」

ランドセルを上下させながら、子どもたちは走って帰っていく。早苗は彼らの背中が見えなくなるまで手を振った。

息つく間もなくスマホを取り出しながら、散らかったイートインスペースを見渡す。子どもたちが帰ったあとは、少し寂しい。だが寂しいということは、それだけたくさんの笑顔で、この子ども食堂が賑わった証拠でもある。

早苗は弁当の写真にいつも通り〈お知らせ〉の四文字を並べ、新しい投稿を作っていく。

〈先日、閉店をお伝えした子ども食堂ですが、商店街の皆さんが協力を申し出てくださり、続けられることが決まりました!

野菜は山崎青果店さん

お肉はサトウミートさん

食器は金物うえのさん。

居酒屋たつさんからは寄付をいただき、今後は倉田商店さんからのお菓子を食べることもできるようになります!

商店街の力でパワーアップする子ども食堂をお楽しみに!

またのご来店、お待ちしております!〉

Finasee マネーの人間ドラマ編集班

「一億総資産形成時代、選択肢の多い老後を皆様に」をミッションに掲げるwebメディア。40~50代の資産形成層を主なターゲットとし、多様化し、深化する資産形成・管理ニーズに合わせた記事を制作・編集している。

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