遺族年金、65歳過ぎると減額に!? 老齢年金と遺族年金の関係とは
Finasee / 2021年7月2日 2時0分
Finasee(フィナシー)
相談者のプロフィールとお金データ
【島田悦子さん(仮名)プロフィール】 54歳、5年前に夫に先立たれ、パート勤務をしながら、1人で暮らす(子どもたちは既に独立している)。神奈川県在住。 【寄せられたお悩み】 「遺族厚生年金※を受け取っています。夫が亡くなった当時の蓄え(夫死亡による遺産、確定拠出年金の死亡一時金などを含む)は子どもの学費などに使ったため、あまり残っていません。 とりあえず現在は、遺族厚生年金(寡婦加算付き)が年間150万円弱あります。また、夫存命の頃から、扶養の範囲内でパート勤務し、今もそのパート勤務の収入があります。国民年金や国民健康保険の保険料を差し引いて、お給料の手取りは年間90万円程度です。 そんな中、パート先で正社員登用の打診もあって、正社員になれば手取りの給与が年間210万円になりそうですが、その場合、年金がどうなるかよく分かりません。 あと10年ほどで65歳。将来1人で老後を迎えようとする中、働き方と年金の受給について知りたいですし、勤務先にこれといった企業年金制度がないため、これまで加入したことのないiDeCo(個人型確定拠出年金)での運用についても考えたいです。 なお、現在、毎月国民年金保険料を納めていますが、20歳から短大卒業までの6か月分だけ年金制度への加入がありません。自宅に届いた『ねんきん定期便』によると、私の65歳からの老齢年金の見込額は老齢基礎年金が77万円程度、老齢厚生年金が3万円程度、年間合計約80万円です」 ※ 会社員等として厚生年金保険に加入している被保険者が死亡した際、遺族(今回の場合、島田さん)が受け取ることのできる年金。 【お悩みの論点】 ①老齢年金も受け取れる65歳になると、現在受給中の遺族年金はどうなるのか? ②パートから正社員になって、厚生年金に加入したほうがよいか? ③iDeCoでの運用について知りたいが、今からでもできるか?そのポイントは?資産状況や月々の収支など
世帯の金融資産額(運用中の投資額と預貯金を合わせた金額):300万円 内訳 預貯金:300万円 収支 <収入> 世帯の毎月の手取り収入:20万円 手取りの年収:240万円 <支出> 毎月20万円 月々の支出内訳 住居費5万円、水道光熱費3万円、食費5万円、交通費1万円、通信費2万円、貯金3万円、趣味・交際費1万円
お子さんは既に独立し、これからお一人での将来の生活を考えたい島田さん。教育費の心配はなくなったものの、ご自身の将来の生活や収入が気になるところですし、今後の急な出費が発生した時にも備えたいところですね。
年金の受給や働き方、iDeCoでの運用についてイメージできるようご提案していきます。
65歳前と65歳以降で年金が変わる!
現在、遺族厚生年金を受給しているとのこと。再婚等がなければ生涯受給することも可能です。その金額が現在、中高齢寡婦加算(約58万円)※1という加算込みで150万円弱ですが、65歳を迎えると老齢年金(老齢基礎年金と老齢厚生年金)の受給できる年齢になり、65歳から年金の内訳が変わります。
※1 遺族厚生年金への加算給付の一種。夫が死亡したときに40歳以上で、18歳到達年度末日までの子どもがいない妻が受け取ることができる給付。ただし、妻が65歳になると打ち切られる。
65歳から、まず、老齢基礎年金(見込額:約77万円)と老齢厚生年金(見込額:約3万円)の受給を開始します。そして、遺族厚生年金はどうなるかというと、老齢年金と一緒に受け取ることができますが、減額されることになります。中高齢寡婦加算が65歳でなくなり、残り約90万円になりますが(150万円弱-約58万円)、この約90万円となった年金もそのまま受給できるわけではありません。ここからさらに、島田さんご自身の老齢厚生年金を差し引いた残りの分が遺族厚生年金として支給されることになります。
したがって、90万円から3万円を差し引いた残りの87万円程度が65歳からの遺族厚生年金となります。
結果、老齢年金80万円と差額支給の遺族厚生年金87万円の合計167万円が合計受給額となる見込みです。65歳以降は今の150万円弱よりは増えることにはなるでしょう。
厚生年金に加入すると老齢厚生年金は増えるが、遺族年金はその分減る「ねんきん定期便」に表示されている、65歳からの老齢年金の見込額は、現在の年金加入条件が60歳まで続いた場合の額です。現在はパートでお勤めされ、厚生年金は未加入、国民年金保険料を納め続けているとのこと。つまり、国民年金保険料の納付を前提とした見込額ですが、これから正社員になりますと厚生年金に加入することになるでしょう。
厚生年金に加入すると、これまでの定額の国民年金保険料(2021年度:月額1万6610円)ではなく、給与額・賞与額に応じた厚生年金保険料として負担することになります。老齢基礎年金だけでなく、老齢厚生年金(報酬比例部分)も増え、2階建てで年金が増えることになります。
しかし、65歳からの遺族厚生年金は老齢厚生年金を差し引いた分の支給ですので、厚生年金加入によって老齢厚生年金が増えると、一方でその分の遺族厚生年金が減る計算になります。
特に60歳以降の厚生年金加入では老齢基礎年金が増えなくなる代わりに、それに相当する経過的加算額が報酬比例部分に併せて増えますが、この経過的加算額は老齢厚生年金の一種です。報酬比例部分・経過的加算額と併せた老齢厚生年金相当額の遺族厚生年金が減額となり、つまるところ、やはり合計受給額では変わりなしとなります。
正社員になって収入を増やせば、将来の備えに回せるお金も増える
それでも、正社員になればパートよりも給与収入が増えますので、その分、将来への備えに回すことができます。
現在の手取りの収入は合計で年間240万円とのこと。遺族厚生年金(+寡婦加算)150万円、手取り給与は年間90万円程度になりますが、例えば正社員になって手取り給与が年間210万円であれば、65歳まで遺族厚生年金(+寡婦加算)と足して年間360万円(150万円+210万円)になります。また、65歳以降も勤務できれば、年間377万円(167万円+210万円)になります。厚生年金被保険者になっても、給与収入が増えても、遺族厚生年金と老齢基礎年金はそのまま受給できてカットはされませんし、在職老齢年金制度※2のある老齢厚生年金についてもその給与額ではカットされないでしょう。
※2 60歳以降、働きながら(=厚生年金に加入しながら)受け取る老齢厚生年金を在職老齢年金と呼び、年金額と収入に応じて年金額が減額(あるいは支給停止)されること。
正社員で長く勤めるほど、収入面ではより安心と言えます。お子様も独立して家事の負担も少なくなったのでしたら、正社員になるのもよろしいのではないでしょうか。
iDeCoにも加入して来る老後に備える!
個人型確定拠出年金(iDeCo)に関心があり、私的年金でも将来に備えたいとのこと。
確定拠出年金は自己責任で運用商品を選んで運用し、将来運用結果に基づいて給付を受ける制度です。制度改正により、2022年5月から、個人型確定拠出年金(iDeCo)には最大65歳まで加入することができるようになりますが、60歳以降の加入については国民年金被保険者であることが条件です。
正社員となり、厚生年金加入中ということになると、65歳まで国民年金第2号被保険者となり、65歳までiDeCoに加入することができます。これから厚生年金加入後、手取り収入が月額30万円(年間360万円)になれば、現在より月額10万円ほど増えますが、このうちのいくらかをiDeCoの掛金に回すこともできるでしょう。
ただし、現在の国民年金保険料を納める第1号被保険者としての掛金上限は6万8000円ですが、厚生年金被保険者となった場合は2万3000円になりますので、掛金上限には注意が必要です。
加入後は実際に運用商品を選ぶことになりますが、たくさん商品が並ぶと、その選び方に迷うこともあるでしょう。もし、「年齢的にあまりリスクを取るのが難しい」、「元本割れはできるだけ避けたい」とお考えでしたら、国内債券型の投資信託など比較的リスクの低い商品を中心に組まれてはいかがでしょうか。
運用した際の運用益については非課税になっています。また、掛金についても小規模企業共済等掛金控除として全額所得控除の対象になりますので、正社員になって所得が増えたとしても、控除により税金(所得税・住民税)が軽減されることになります。
55歳から加入した場合、63歳から受け取りができますが※3、その時期は63歳~75歳までの間で選べるようになります(ただし、65歳前にiDeCoの老齢給付金の受給を始めると、国民年金被保険者であってもiDeCoの加入者にはなれなくなります)。
※3 投資信託で運用していた場合、それまで積み立て運用してきた資産を売却し、現金化すること。
また、遺族年金は非課税である一方、公的年金の老齢年金とiDeCoからの老齢給付金(年金)は雑所得として課税対象になりますが、受給の際も公的年金等控除の対象になり、65歳以上であれば110万円が控除額となりますので、受給時も税制上優遇されています。
以上のように、働き方次第で収入を増やすことができ、さらに私的年金の活用により、将来にも備えられることになります。長生きすることも想定して、今から備えられれば安心ですね。
五十嵐 義典/ファイナンシャルプランナー
よこはまライフプランニング代表取締役、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、特定社会保険労務士、日本年金学会会員、服部年金企画講師。専門分野は公的年金で、これまで5500件を超える年金相談業務を経験。また、年金事務担当者・社労士・FP向けの教育研修や、ウェブメディア・専門誌での記事執筆を行い、新聞、雑誌への取材協力も多数ある。横浜市を中心に首都圏で活動中。※2024年7月までは井内義典(いのうち よしのり)名義で活動。
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