なぜ日本スパイクメーカー「YASUDA」は中国市場へ進出したのか 「人と人をつなげる」願い【コラム】
FOOTBALL ZONE / 2024年5月12日 7時50分
■2021年に中国YASUDAがスタートし、販売やプロモーションに尽力
日本のサッカーファンのみなさま、こんにちは。久保田嶺です。今、中国サッカー界で奮闘する日本メーカーがあります。「YASUDA」。2本の「く」の字マークが印象的な日本サッカー界では広く知られる国産スパイクメーカーで、かくいう私も学生時代にYASUDAスパイクを履いていたことがあります。
YASUDAは2002年に1度破産してしまうものの、2018年にクラウドファンディングを成功させて復活。その後、2021年のコロナ禍にYASUDA初の世界展開として中国へ進出しました。最近ではチームや選手へのスポンサー契約を加速させています。なぜあのYASUDAが中国市場へ進出したのか、今後の戦略など、中国YASUDAへ取材しました。
◇ ◇ ◇
「コロナ禍で日本で全く活動ができない、そんななかで生まれたご縁から中国YASUDAは始まりました」
こう話してくれたのは、中国YASUDAの代表である飯高直人氏です。飯高氏はプライムコンサルティング(中国)エンタープライズ有限公司(以下プライム社)の社長で、このプライム社とYASUDAが中国販売代理店契約を結んでいます。プライム社は中国蘇州を拠点とし、人材コンサルティングを主軸とした事業を展開。その中の1つで日系企業の中国進出をサポートしています。
「初めのきっかけはコロナ禍でした。私には息子がおり、ある日本のサッカークラブに通っているのですが、そのチームのコーチにYASUDAで勤めている人がいました。当時は2021年で、YASUDAは復活したもののコロナの影響により日本国内で思うような活動ができない日々でした。逆に、中国はゼロコロナ政策が上手く行っている時で、商業活動なども通常通りできました。それで中国展開はどうだろうか、と話が進んでいきました」
蘇州康力サッカークラブの代表でもある中国YASUDAの浅野伸太郎氏【写真:久保田嶺】
その後2021年11月正式に契約が結ばれ、中国YASUDAがスタート。飯高氏と元々つながりがあり、同じく蘇州を拠点とする蘇州康力サッカークラブの代表である浅野伸太郎氏も参画し、販売やプロモーションを進めてきました。
「私たちの目標は『強い中国人選手はなぜかYASUDAを履いている』という状況にすること、そのためにできることをしてきました。開始当初は逆に中国でロックダウンが始まってしまい活動ができず、元々浅野さんのネットワークがあった成都のサッカークラブへ営業を行ったり、日本人のサッカー大会へのスポンサーなどをしていました。より活動を活発化させたのは去年からになります」
中国YASUDAは今季から三菱重工フライングライオンとスポンサー契約を結ぶ【写真:久保田嶺】
■今年4月には中国2部で活躍する王夕傑と契約
2024年1月、中国4部リーグを戦う三菱重工フライングライオンより、今シーズンのスポンサー発表があり、そこにはポカリスエットや三菱重工空調といった日本企業に加え、YASUDAの名前がありました。飯高氏は、スポンサーを務める意図をこのように語ります。
「今シーズンからスポンサー契約を結んでいます。狙いとしては、もちろん三菱の選手たちを通じてYASUDAの認知度を上げることですが、それ以上に三菱重工グループの大きさにメリットを感じました。同じ日系企業であり、中国でも60近くのグループ企業、多くの社員の方々がいます。そこへアプローチできるのは大きいです。YAUDA自体の訴求もですが、弊社の人材開発事業ともシナジーがあります。そういった面から今シーズン支援をしています」
また、今年4月には中国YASUDAとして初めて中国のプロ選手とのスポンサー契約を発表。中国YASUDAのある蘇州の蘇州東呉サッカークラブ(中国2部)所属、王夕傑選手を支援しマーケティングしています。元々は浅野氏のSNSへ王選手から直接連絡があり、契約に至ったそうです。
「私のSNSでも中国YASUDAの情報発信をしていますが、そこへ彼から連絡がありました。同じ蘇州にいるとのことでまずは食事をすることになり、そこでYASUDAへの情熱を話してくれました。私たちが進出する前から自分で日本にいる友人に頼んでYASUDAを履いていたそうで、リーグ戦でも履いてくれていました。そのYASUDAへの情熱とプレーも確認し、王選手であれば第一号にピッタリだと契約することに決めました。選手との契約は日本同様今後も進めていきたいと考えており、今も交渉中の選手が何名かいます」
中国YASUDAは中国2部で活躍する王夕傑とスポンサー契約を締結【写真:中国YASUDA】
そして、最後に中国YASUDAの今後の展開や目標を聞くと、単に中国市場でスパイクを販売して終わりというものでなく、より大きな目標を話してくれました。
「現在は中国で販売できるYASUDAのラインナップも増えてきましたので、まず浅野さんのサッカークラブなどを通じ、子供たちへ拡大できればと思っています。そしYASUDAブランドでの日本サッカー留学やイベントなども行なっていき、最終的にはYASUDAを通じ日中の人と人をつなげていけたらと考えています。メーカーとしてスパイクを売って終わりではありません。そこが最終的なゴールです」
日本で復活を遂げたYASUDA、その海外初挑戦の舞台に選んだのは中国サッカー市場。日系企業同士でのスポンサーシップや始まった選手との契約で、独特の存在感を放っています。日本同様に欧米ブランドが割拠する中国サッカー市場ですが、そこに割って入ることができるか、今後の動きにも注目です。(久保田嶺 / Rei Kubota)
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