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海外サポーター“ピッチ雪崩込み”なぜ許容? 日本なら大問題でも…「過剰問題視」されない理由【現地発コラム】

FOOTBALL ZONE / 2024年5月19日 8時30分

■【日本×海外「サッカー文化比較論」】優勝時などに見られるファンのピッチ雪崩込み

 日本と海外を比べると、文化的な側面からさまざまな学びや発見を得られる。「FOOTBALL ZONE」ではサッカーを通して見える価値観や制度、仕組み、文化や風習の違いにフォーカスした「サッカー文化比較論」を展開。今回取り上げるのは、ファンがピッチに雪崩込む光景について。日本ではタブー視され、海外ではなぜ許されているのか。ドイツを例にその理由を探る。

   ◇   ◇   ◇   

 現地時間4月14日のドイツ・ブンデスリーガ第29節。ホームのバイ・アレーナでヴェルダー・ブレーメンと対戦したバイエル・レバークーゼンはこの試合を5-0で制し、シーズンを5試合残した段階でクラブ史上初のリーグ優勝を成し遂げた。それとともに、長年同国で栄華を極めてきたバイエルン・ミュンヘンのリーグ12連覇を阻止している。

 この試合ではゲーム中から優勝へのカウントダウンを始めていたサポーターたちがピッチへフライングで侵入し、正式に試合が終わると数千人に及ぶサポーターたちが一斉に雪崩込んで歓喜の雄叫びを上げた。またスタジアム外にいたサポーターたちも出入り口のゲートを突破して入場するなど、現場は大混乱の様相を呈したように見えた。

 ただ、事前に警備体制を強化していた地元警察の対応は至って穏便だったという。のちに警察関係者はこのようにコメントしている。

「祝賀セレモニーは平和でリラックスした雰囲気だった。試合終了のホイッスルが鳴る直前には最初のストーム(嵐)に見舞われたが、現場では冷静に上手く対処することができた。試合後もすべて順調に進み、(アウェーの)ブレーメン・サポーターの退場もスムーズに行われた」

 ハイテンションなサポーターたちを無理に制御すると、むしろ感情を逆撫でして暴動のリスクが増すと判断されたのだろう。警察の読みどおり、“祝宴”は平穏ながらも大変盛り上がって大団円を迎えた。

 何かをきっかけにしてサッカーファン・サポーターがスタジアムのピッチに雪崩込むのはドイツサッカー界の風物詩になりつつある。一方で、日本サッカー界でのピッチ侵入は試合に負けた時などの抗議行動といったネガティブなイメージがある。ただ、ドイツの場合の多くは優勝や昇格、残留といった歓喜のシチュエーションが多い。

 日本人選手が歓喜をもたらしたケースとしては、2021-2022シーズンのブンデスリーガ最終節、シュツットガルト対ケルンの後半アディショナルタイムに遠藤航(現リバプール/イングランド)がヘディングシュートを決めて劇的な1部残留を決めたゲームが挙げられる。この時もシュツットガルトサポーターが試合終了のホイッスル直後にピッチへ雪崩込んだ。選手やコーチングスタッフらは喜々とした表情で、それでも一応未然に危険を防ぐためにロッカールームへ駆け込んでいった。

 また、板倉滉が所属していた2021-2022シーズンのシャルケはブンデスリーガ2部第33節のザンクトパウリ戦で勝利して1部返り咲きを果たし、その時もシャルケサポーターがピッチへ雪崩込んで記念とばかりにゴールネットを引きちぎって持ち帰る、またはゴールポストを破壊するなどの行為に及んだ。しかし、こちらも結局誰かが危害を加えられることなく“宴”が続き、板倉もサポーターから渡された日本国旗を羽織って、ピッチ内を練り歩いた。

 最近の例では、今季ブンデスリーガ2部第33節での2位キールと3位デュッセルドルフの直接対決。1-1のドローに終わったことでキールが自動昇格圏の2位以内を確定させ、クラブ史上初の1部昇格に歓喜したホームのキールサポーターがピッチへ侵入し、その試合で先発出場した町野修斗も喜びに頬を緩ませていた。

 糠(ぬか)喜びになってしまったケースもある。2022-2023シーズンのブンデスリーガ2部最終節でのことだ。2位のハイデンハイムと自動昇格の権利を争っていた3位のハンブルガーSV(以下、ハンブルク)はザントハウゼン戦で勝利し、後半アディショナルタイム時点でレーゲンスブルクに1-2でリードされていたハイデンハイムの結果をアウェーの地で待っていた。

 もしハイデンハイムが敗戦、もしくは引き分けに終わった場合はハンブルクの自動昇格が決まるなか、ザントハウゼンのスタジアムアナウンスがハイデンハイムの敗戦とハンブルクの昇格決定を告げたことで、ハンブルクサポーターがピッチへ入り込んで祝杯を上げ始めたのだ。しかし、程なくしてそれが誤報であると判明した。なんとハイデンハイムがアディショナルタイムに2点を挙げる劇的な逆転勝利で昇格を決め、ハンブルクは1部16位のシュツットガルトとの入れ替え戦に回ることになった。ザントハウゼンはのちに誤報に関してこんな謝罪の声明を発表している。

「スタジアムのアナウンサーが、ハンブルガーSVが昇格したと誤って思い込んでしまいました。スタジアム内の緊張を和らげるために、彼はゲストであるハンブルクの昇格を祝福してしまいました。ザントハウゼンはこのような発表によって起こったリスクと結果を認識しており、ハンブルガーSVとスタジアムのファンへの誤った発表について謝罪します」

 ちなみにこのシーズンのハンブルクは入れ替え戦でシュツットガルトに敗れて1部昇格のチャンスを逃している。

■祝祭的な雰囲気でのルール逸脱はドイツならでは

 サポーターがピッチへ雪崩込んでしまうことについて、ドイツメディアは過剰に問題視していない。もちろん敗戦に怒ったり、選手のプレーに不甲斐なさを感じてフラストレーションをぶつけたりとネガティブな動機によるものは厳しく糾弾するし、当該クラブやリーグからペナルティーを課せられることもある。だが、祝祭的な事象は往々にして許容される傾向がある。

 ちなみに、ドイツサッカー界隈でも暴動や犯罪行為は起こる。特に同地域を本拠地とするチーム同士のダービーマッチや、UEFAチャンピオンズリーグやヨーロッパリーグなどの国を跨いだカップ戦などはイザコザが起こる要素をはらんでいる。

 筆者のような日本人在住者にはドイツの日本領事館から試合前日などにメールが届き、当該地域へ近づかない、または不要不急の外出を控えるようにとの注意喚起がなされる。実際に、過去には市内中心部で当該サポーター同士のいさかいが発生して殺人事件が起こってしまった事例もある。その場合は容赦なく警察が介入して厳しい処分が下される。

 ただ、先述したレバークーゼンの例でもそうだったように、祝祭的な雰囲気でのルール逸脱が許されるのもドイツ特有の傾向だと思う。それはこの国や民衆が培ってきた風土、文化、慣習などが大きく関わっているのではないだろうか。

 ブンデスリーガの試合に向かう道中ではサポーターたちが電車、バス、トラムといった公共交通の車内でビール瓶を掲げて気勢を上げているシーンに度々出くわす。ドイツ国内でも州によって条例が異なっていて車内への飲食の持ち込みが禁止されているところもあるが、町中で両サポーターが同じ車両に乗り合わせ酒盛りしている姿はブンデスリーガ試合当日の日常的な光景だ。ドイツではこのシチュエーションでそれほど揉め事が起こらない。その安全を担保に、彼らは公共の場で羽目を外す。

 ドイツでは歓喜や熱狂を抑制しないムードがあるなかで、一定程度の自制も働く。これまで紹介してきた“雪崩込み”のケースでは、試合が終了する前にサポーターがスタンドからピッチへ降りてきてしまうことが多々あった。ただ、例えば選手がサポーターに一時の我慢や辛抱を促したりすると、彼らはスポンサー看板の背後まで後退して待機を図ったりする。最低限のルールを遵守する規律はヨーロッパでもドイツ特有の文化だと思われ、誰かに危害を及ぼすか何かを破損することがない限り、その行為が寛容され、慣習化されていく傾向が感じられる(記念と称してピッチの芝やゴールネットを持ち帰る輩もいるが……)。

■優勝したレバークーゼンサポーターに抱いた感情

 筆者は先日、ブンデスリーガ第33節のボーフム対レバークーゼンの取材に赴いた。ボーフムとレバークーゼンはいずれもノルトライン=ヴェストファーレン州に属する町を本拠地としており、れっきとしたダービーマッチである。従って最寄り駅やスタジアム周辺はいつもより警備が厳重で、多くの警察官が待機する姿があった。試合はブンデスリーガ残留を目指すホームのボーフムが試合開始早々に退場者を出し、すでにリーガ優勝を決めていたレバークーゼンに0-5で大敗した。不満を募らせたボーフムのゴール裏サポーターは試合中に発煙筒だけでなく花火まで打ち上げる狼藉に及んだが、試合後は一転して大人しく帰路についた。

 取材を終えた筆者が最寄り駅まで歩いていると、警察に先導されて練り歩く勝者のレバークーゼンサポーターと出くわした。さぞかしご満悦だろうと彼らの所作を観察すると、なんとも余裕綽々(しゃくしゃく)で、大声でがなり立てることもなく、泥酔しているわけでもなく、ただただ和やかに談笑しているだけだった。この試合で公式戦50試合無敗を達成したチームと同じく、すでに彼らは勝ち癖が付いているのか、良い意味で一喜一憂することなくダービーマッチの余韻を楽しんでいるように見えた。

 すでにイベントと化しているドイツサッカー界のピッチへの“雪崩込み”。もし日本のJリーグでこのような自体が起こったら何らかのペナルティーが課せられるのは必至だろう。とはいえ、その良し悪しにかかわらず、ドイツのサッカーファン・サポーターは各々の人生をこの競技に投影させ、純粋にその思いを露わにしているのだなと思う。(島崎英純/Hidezumi Shimazaki)

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