中村敬斗はなぜ「凄い」? フィジカル、走力…”メンタル崩壊”烙印から成長を遂げた訳【コラム】
FOOTBALL ZONE / 2024年6月12日 11時5分
■6月シリーズ2試合通して135分間プレーし2ゴール1アシスト
森保一監督率いる日本代表(FIFAランク18位)は6月11日、ピースウイング広島で初の国際試合となる北中米ワールドカップ(W杯)アジア2次予選でシリア代表(同89位)戦に臨み、5-0で勝利を収めた。6日のミャンマー戦(5-0)に続いて攻撃的場3バックにトライ。2試合連続でスタメンのピッチに立ったMF中村敬斗(スタッド・ランス)は極上アシストと圧巻スルーパスで2ゴールを演出。前半45分でお役御免となった。左ウイングバックで新境地を開拓した23歳はなぜ「凄い」のか――。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞)
◇ ◇ ◇
広島の夜が5ゴールで彩られた。20年ぶりの代表戦、新スタジアムでは初めての国際試合。森保監督がサンフレッチェ広島時代から願い続けたサッカー専用スタジアムが設立され、日の丸を背負った選手たちが躍動した「舞台」となった。なかでも、23歳中村は異彩を放っていた。
序盤からサイドを効果的に使っていた日本は前半13分、左サイドで中村が縦に仕掛けて左足で上げた絶妙クロスにFW上田綺世が打点の高いヘディングでゴール。続く19分には再び中村がアウトサイドからMF久保建英へピタリとつけるドンピシャのスルーパスパスを供給。久保から受けたMF堂安律がカットインして左足シュートで追加点を挙げた。この2ゴールで勝負あり。2戦連続スタメンという森保監督の期待に応えたプレーを見せて、45分間でピッチを退いた。
「(クロスは)試合前から上田選手と話していた。中で待っていてほしいと言っていたのでそれが実って実現できて良かったです。(久保へのパスは)ビルドアップのところで、自分が少し低い位置で受けて、前で組み立てていくというのは練習でやっていましたし、実際そこの斜めのパスは、すごく久保選手の声聞こえていた。右足で持っていたので、うまく速いパス、縦パスつけられて良かったですね」
ミャンマー戦から今シリーズでプレーした135分間。2ゴール1アシストの結果以上に大きな印象をもたらしたと言える。シュートの上手さはA代表デビューから10戦8発の数字が示しているものの、2戦通して「タフで戦える」選手であること、「縦に仕掛けられる」選手であることを示すことができたのは大きい。
2018年にガンバ大阪へ17歳で入団。デビュー当初からその才能を当時のレビー・クルピ監督に見出され、重宝されてきたが、夏に成績不振で退任となり、後任で就任した宮本恒靖監督(現JFA会長)に厳しく鍛えられた。宮本監督からはフィジカル面、走力、精神面を指摘され、プロの厳しさを突き付けられた。
18歳で海外移籍を実現させたが、オランダ1部トゥウェンテではセカンドチームで奮闘する時期もあった。退団時には事実と全く異なる「メンタル崩壊」報道が現地でされるなど、不本意なこともあった。それでも、何度でも這い上がる強い心、ベクトルを常に自分自身に向ける真摯さは絶対に忘れないのが中村だ。
念願の5大リーグへ移籍した今シーズン。初めて挑戦したスタッド・ランスでは日本人のMF伊東純也がすでにチームの“王様”として君臨していたものの、先輩に頼り切りではなく、自ら積極的に持前の高いコミュニケーション力で信頼を得ていった。それも、G大阪時代17歳の時に初キャンプで同部屋がブラジル人FWアデミウソンだった時から変わらない中村の“明るさ”と“ノリの良さ”だ。
リーグ・アンではまずクロスへの入り方を徹底した。そこで磨かれたのがスプリント。逆サイドの伊東からのクロスに合わせるため、ペナルティーエリア内へ走り込む。S・ランスでは居残りのシュート練習などが制限された代わりにトレーニング時間内でのスプリントは強度を上げた。これが新境地を切り開いた今回のウイングバック起用にもつながっているはず。
縦へ仕掛ける意識はベスト8で敗退したアジアカップでの壁にぶつかり、半年間自らのテーマに掲げていた。
「フランスリーグという個の強いリーグでプレーしているんで、やっぱり絶好の場所に身を置けている。上手く成長できたかなと思います。まだまだですけど」
フィジカルがない、走れない、メンタルが子供と宮本監督に言われた6年前から、課題を分析して取り組んできたからこその2試合の結果。それでも「前に潰す場面というのは普段なかなかやる場面がすごく少ないので、ちょっとまだ不慣れなのかなと感じはした」と次なる壁を探していた。
W杯は2年後。必ず言えるのは25歳になった中村がステップアップしているということだ。(FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)
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