J1前半戦の明暗…顕著な傾向は? 必然だった町田首位ターンと苦戦クラブの原因【コラム】
FOOTBALL ZONE / 2024年6月26日 10時30分
■1第19節の浦和×鹿島戦、ポゼッションの数値は前後半で同じも中味は激変
J1の第19節、前半戦を締めくくる埼玉スタジアムの一戦は、前後半で完全に主役が入れ替わった。
前半主導権を握ったのはアウェーの鹿島アントラーズだった。最終ラインを押し上げてコンパクトなゾーンを保ち、鈴木優磨を起点に次々に効果的な攻撃を繰り出す。それに対し浦和レッズは、ボール保持こそ6割を超えていたが、中央を攻略する術を持たず単調に外壁をなぞるようなパス回しに終始。結局、鈴木の2ゴールで鹿島がリードして折り返した。
Jリーグで指揮を執るのが鹿島で5チーム目になるランコ・ポポヴィッチ監督が語った。
「私も日本での指導歴が長いが、前半の出来はその中でもベストと言えるほど完璧だった」
それに対し4-3-3でスタートした浦和のペア・マティアス・ヘグモ監督は「45分間で改善が見られない」と判断し、後半は4-4-2に変更してスタートする。DFの要アレクサンダー・ショルツの故障は誤算だったが、概ね5人の交代選手たちの個性も活きて武田英寿の2ゴールで引き分けに持ち込んだ。
前半の浦和は、安居海渡をアンカー、伊藤敦樹と岩尾憲の2人をインサイドハーフと、本来ボランチの3人をMFで同時に起用。しかし「プレスが上手くいかず、ビルドアップにも苦しんだ」(ヘグモ監督)ため、フォーメーションとメンバーを変えながら反撃の糸口を探り「ボールを動かし、お互いにスペースを作り出し、ボールホルダーの前で活発な動きが見られるようになった」(同監督)と総括した。
前後半ともにポゼッションの数値はほぼ変わらないのに、ゲームの中味は激変だった。
端的に浦和が豊富な戦力を活用し、総合力で巻き返したと見ることもできる。実際に、チアゴ・サンタナ→ブライアン・リンセン、オラ・ソルバッケン→前田直輝、岩尾→武田、大久保智明→大畑歩夢というカードの切り方は、他チームではなかなか望むべくもない贅沢なものだ。
だが裏返せば前半戦最後の試合だというのに、この夜の鹿島戦でもスタメンで完全に後手に回ったように、依然として基盤を模索中という疑問も湧く。新監督の招聘は、戦力を洗い直し改めて競争を促すメリットはあったかもしれないが、致命的な出遅れを招いた可能性もある。
逆に鹿島は、優勝争いをするような戦力を保持しているようには見えなかったが、ポポヴィッチ監督は現有戦力を巧みに活用し2位で折り返すことに成功した。ただし「完璧だった前半」と後半の落差は著しく、浦和に支配され始めると流れを押し戻す術を持たず勝ち点1に止まった。
■前後半で激変する試合も多い今季のJ1、鍵は交代枠やターンオーバーの有効活用
今年のJ1は、こうして前後半で主導権が入れ替わる試合が珍しくない。とりわけ顕著だったのがACL(AFCチャンピオンズリーグ)で決勝まで進んだ横浜F・マリノスで、スタメンが元気な間は盤石の強さを発揮するが、過密日程を考慮したハリー・キューエル監督が後半主力を代えると途端に脆さを露呈。それが現在の低迷につながっている。
一方、川崎フロンターレやFC東京なども、浦和に勝るとも劣らない戦力を保持しているように映るが、ピッチに立つメンバー次第でパフォーマンスが一変し安定感を欠く。
鹿島のポポヴィッチ監督が語った。
「私もスペイン、タイ、インドなど、さまざまな国で仕事をしてきたが、その中でも日本の夏の消耗は最も激しい。その中でもコンパクトさや強度を保つには、頭を使い効率的にプレーしていく必要がある」
しかし反面それは一朝一夕で克服可能な課題ではなく、やはり現実的にシーズンを通して安定的な成績を収める鍵になるのは、交代枠やターンオーバーの有効活用だろう。豊富な戦力、競争力を持つチームが方向性を探しあぐね、逆に横浜FMのように瞬発力のあるチームは持久力に不安を残す。こうした状況を鑑みれば、チーム全体にコンセプトが浸透し、不安なく次々に交代メンバーを送り込めるFC町田ゼルビアの首位折り返しが必然だったことが分かる。(加部 究 / Kiwamu Kabe)
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