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快挙近づくJ1町田…高体連出身監督ならではの「最も目的に即し効率的な仕事」【コラム】

FOOTBALL ZONE / 2024年7月19日 6時40分

■常道とは“真逆”だった黒田采配、チーム内で徹底された「守備のコンセプト」

 FC町田ゼルビアが、ともにJ1昇格を果たした東京ヴェルディとの対戦で3ポイントを堅持。追いかける鹿島アントラーズやヴィッセル神戸がつまずいたこともあり、また一歩、初昇格初優勝の快挙に近づいた。

 町田は前半戦のホームゲームでは、東京Vに5-0と大勝している。しかし第23節のアウェー戦で黒田剛監督が見せたのは、石橋を叩いて間違いなく勝利を手繰り寄せる采配だった。滑り出し好調の町田は、開始7分に早々と先制した。ロングフィードを前線で藤尾翔太が収めると、左サイドから林幸多郎→下田北斗→仙頭啓矢とショートパスで運び、右サイドバックの鈴木準弥へとつなぐ。そして右から鈴木がクロスを送ると、藤尾が飛び込み相手のオウンゴールを誘った。

 この夜の町田は、むしろスタメンに勝るとも劣らないレベルの選手たちをベンチに残していた。しかも東京Vは、前戦で圧倒した相手である。早い時間でリードを奪えたら、さらに勝利の可能性を高めるためにも追加点を奪いに出るのが常道だ。

 ところが黒田采配は真逆だった。

「あの先制点は効いた。1-0は十分すぎるほどのリード。もちろん相手陣内でゲームをコントロールするプランもあったが、それ以上に避けたいのは、やってはいけないリスクを冒すことだった。だからハーフタイムでは、相手を引きつけすぎて事故を起こすことなくシンプルに裏を狙い、1点を死守することを優先するように伝えた」

 一転して後半に入り主導権を握ったのは東京Vだった。実際に枠内も含めたシュート数でもホームチームが上回り、同点になってもおかしくない場面が何度か訪れた。しかし東京Vは後半だけで約15本のクロスを送りながらフィニッシュに精度を欠き、町田のGK谷晃生の圧倒的なパフォーマンスもあり、最後まで1点が遠かった。

 あえて「1-0」を選択した黒田采配を支えていたのは、チーム内で徹底された「守備のコンセプト」だったという。町田は、ここまでJ1では唯一クロスからの失点がない。逆にクロスからの得点のほうは第22節まででアビスパ福岡、FC東京と並んで「10」でトップ。両ゴール前での制空権の優位性は如実に表れており、自陣でのポゼッションの比率が最も低く、ロングカウンターが多くて中央突破が少ないなど明白な戦い方の指針が見て取れる。

「DFもクロスボールに対応しやすい配置をして連係も徹底。GK谷も思い切ってプレーできていることは数字にも表れている」(黒田監督)

■ノックアウト方式で勝ち抜いてきた黒田監督の決断

 わずか1点のリードで、堅守優先の指示を出す指揮官は少ないはずだ。サッカーでは、逃げ切ろうとしてブロックを下げて守りに徹した結果、ゲーム内容が一変してしまうケースも少なくない。だが黒田監督は、ピッチ上の選手たちのコンディションや実際のパフォーマンスを見極めて決断を下した。それは負けたら終わりのノックアウト方式で勝ち抜いてきた高体連出身の監督ならではの判断なのかもしれない。

「予想以上に疲弊が早い。2点目を取るより1点を死守する」

 結局チーム全体の走行距離を見ても、後半攻勢に転じた東京Vのほうが3km以上多く、町田は省エネに成功している。

 海の向こうでは、圧倒的なポゼッションを誇るスペインが欧州選手権(EURO)で全勝優勝を遂げた。だがJ1では対照的に、ポゼッション型のチームが苦戦を強いられており、保持率のトップ5で10位以内につけているのは9位の浦和レッズのみ。これまでリーグを牽引してきた横浜F・マリノスや川崎フロンターレの低迷が目立ち、前夜もポゼッション首位のアルビレックス新潟が63%もボールを保持しながらFC東京に敗れた。

 プロビンチャでJ1初挑戦の町田に必要なのは何より結果だ。一方美学や娯楽性を追求するには、それに見合った予算や選手の質、さらには伝統という時間が要る。そう考えれば、今、就任2年目の黒田監督が、最も目的に即して効率的な仕事をしていることは間違いない。(加部 究 / Kiwamu Kabe)

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