「午後10時に寝ればいい」にカズも苦笑 選手と対立も厭わず…ブラジル人らしからぬサッカーを追求した異色の監督【コラム】
FOOTBALL ZONE / 2024年7月20日 7時30分
■名GKとして名を馳せたエメルソン・レオンは負けることを徹底的に嫌った
ブラジル人の一般的な気質は陽気で情熱的。そして、細かいことはあまり気にしないといったところだろうか。しかし、これはあくまでも一般的な目線から見た気質で、人の性格というのはさまざまであり、当然だがブラジル人の中にも驚くほど几帳面で厳格な人間もいる。
そんなブラジル人は1993年のJリーグ誕生から、助っ人としてピッチを沸かせた選手だけでなく、指導者の立場からも日本のサッカーの発展に大きく貢献してきている。そのなかにブラジル代表の一員として1970年のメキシコ・ワールドカップ(W杯)にも出場し、名ゴールキーパー(GK)として広く知られていたエメルソン・レオンがいる。
彼は日本プロサッカーリーグ参加のために発足した清水エスパルスの2代目の監督として、Jリーグ元年を戦うことになる。清水を離れたあとはヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ)、ヴィッセル神戸の指揮も執っている。
現役時代のエメルソン・レオンはブラジルサッカー界にあって屈指のGKとして名を馳せ、指導者となってからは勝負の真理を独自の物差しで見極め、チーム構築において独善的な自己判断を貫き通していく。
尊大で絵に描いたような頑固者だったエメルソン・レオンは、自らがGK出身ということで、指導者としてもこのポジションには特に厳しい目を向けた。当時、清水でレギュラーだった日本人GKのミスが続くとリザーブへと降格させ、コーチだったシジマール(現ヴィッセル神戸コーチ)を選手に復帰させ起用する。ブラジル人の特徴でもある、サッカーにおいて負けることを徹底的に嫌う精神は、こうした選手起用に表れていた。
■ファインダー越しにも伝わってきた勝負師としての凄み
そして、96年にV川崎の監督の就任が決まると、お互いに譲ることのできないサッカーに対する信念から、ある選手との対立が浮き彫りになる。当時のV川崎にはラモス瑠偉が所属しており、2人は相容れない状況にあった。セレソンの称号も手にしたエメルソン・レオンにしてみれば、日本サッカーで存在感を発揮しているとはいえブラジルでは無名だった選手など、なにするものぞという思いがあり、ラモスの日本での活躍には批判的だった。
さらに、同じサッカー大国出身にもかかわらず、目指すスタイルのベクトルが正反対を向いていたことも、2人の間に溝を作る原因だったと思う。エメルソン・レオンが信じる勝利の方程式はブラジル人でありながら、現役時代のポジションに基づき守備を重視し、ロングボールを多用してゴールを目指すスタイルだった。そこに選手個人のテクニックを存分に発揮して華麗に攻撃を仕掛け、相手の守備網をキリキリ舞いさせるという、人々が思い描くブラジル的なサッカーはない。
テクニックを駆使した美しさを追求するラモスは自分を批判し、そしてブラジルらしくないスタイルを志向するエメルソン・レオンを受け入れることができず、チームを去ることになる。日本に帰化し、母国では無名だったラモスがブラジル的なサッカーへのこだわりを見せていたことに対して、セレソンまで上り詰めた男がこの美しきスタイルを信条としなかったことは、勝利するための絶対的な方法がないサッカーというスポーツの難しさを物語っている。
V川崎の指揮官となったエメルソン・レオンは、ピッチにおける手堅いサッカーだけでなく練習も規律を重んじ厳格に行った。一般的な開始時間から考えると早い午前8時からの練習を選手たちに課した。
当時、チームのスターであった三浦知良は「(朝8時からの練習のために午後)10時に寝ればいいだろうと(エメルソン・レオンから)言われたが、寝ないといけないと思うとプレッシャーで寝られない」と指揮官が決めた練習スタイルへの取り組み方を苦笑しながら話していた。
午前8時から練習をする意味はあまりない。それは選手たちへの支配欲を満たすための行為だったように思う。そんなエメルソン・レオンは、やはりカメラのファインダーを通して見ても実に扱いづらそうな男だった。
しかし、その好戦的な視線は世界のトップレベルで戦ってきた勝負師としての凄みがみなぎっていたことも事実だ。(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
黒田監督は「プロの世界の中では珍しいタイプ」 町田主将が語る「根本を一度も緩ませない」手腕【インタビュー】
FOOTBALL ZONE / 2024年7月17日 18時20分
-
ブラン招へいのアル・イテハド、昨夏に続き大型補強画策? 指揮官教え子らが候補
超ワールドサッカー / 2024年7月12日 18時25分
-
[7月11日 今日のバースデー]
ゲキサカ / 2024年7月11日 6時0分
-
J助っ人遅刻に呆れ「やっぱり来てない」 さぼり常習、年齢詐称発覚も…「憎めない」リーグ席巻の悪童【コラム】
FOOTBALL ZONE / 2024年7月9日 7時40分
-
“カズ”三浦知良、ポルトガルでプレーし再発見 1対1で果敢に仕掛けることを約束「ベテランらしくないプレーを」
ORICON NEWS / 2024年6月25日 15時54分
ランキング
-
1エース不在の体操女子日本代表 4人で決戦の地パリ入り
スポーツ報知 / 2024年7月19日 23時10分
-
2五輪を辞退した宮田笙子について青学大の原晋監督が私見「飲酒、喫煙は残念。ただ、五輪に出られないのは酷。再起のチャンスを」
スポーツ報知 / 2024年7月19日 18時49分
-
3《19歳飲酒・喫煙でパリ五輪辞退》体操女子・宮田笙子の実家は「400年以上の歴史を誇るお寺」エースが抱えていた「精神面での課題」
NEWSポストセブン / 2024年7月19日 18時10分
-
4他の選手の飲酒・喫煙の有無を確認へ パリ五輪出場辞退の宮田笙子は「1度だけ」…日本体操協会、緊急記者会見で説明
スポーツ報知 / 2024年7月19日 15時8分
-
5「たかがタバコで何を騒いでいる」 猪瀬直樹氏、喫煙疑惑「体操女子」19歳・宮田笙子に私見「こんな些細なことで19歳の夢を潰すつもりか」
J-CASTニュース / 2024年7月19日 10時54分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)