本田の背中を追った北京五輪「圭佑は違う」 3戦全敗…「怒り」どん底から救った空港での言葉
FOOTBALL ZONE / 2024年7月30日 12時10分
■【2008年北京五輪|グループリーグ敗退】安田理大「ターニングポイントかも」日本サッカーを変えた“敗戦”
強烈な個を持つ世代だった。反町康治監督率いる北京五輪代表は、オーバーエイジ(OA)なしで臨みグループリーグ3戦全敗。ムードメーカーで予選から招集され続けた元日本代表DF安田理大氏に本大会を振り返ってもらった。世代を牽引してきた本田圭佑をはじめ、長友佑都、香川真司、内田篤人……。のちに、日本代表を支えていった世代が痛感した“悔しさ”を語る。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞)
◇ ◇ ◇
グループリーグ3連敗。OAなしで臨んだ北京五輪。同世代だけで戦ったチームで強烈なリーダーシップをとっていたのが本田だった。
「OAがいなくても、俺らには(本田)圭佑がいたから。ホテルでも、ご飯が出てきて現地のホテルの調理スタッフに『ちょっとこの米柔らかすぎるからもうちょっと水少なくして』とか指示しに行っていた」
2008年8月7日、日本はアメリカとの初戦に臨んだ。だが当時、オランダ1部VVVフェンロに所属していた本田以外のメンバーはJリーグ所属。アジア予選や年代別のワールドカップ(W杯)など経験はあったが、国を背負う「大舞台」のプレッシャーは想像以上だった。
「これはあかんな……」
ベンチスタートだった安田氏はそう感じた。
「佑都も結構緊張していて、前半相手の右サイド(長友のサイド)にやられていた」
前半20分を過ぎた頃、安田氏は反町監督に呼ばれた。「1回アップしろ!」。指揮官が序盤でそう決断するほど、流れは良くなかった。後半に入ってすぐ失点。結局チームはそのまま0-1で敗戦した。前半からアップを続けていた安田氏は、1度もピッチに立つことなくアップだけで試合終了のホイッスルを聞いた。「初戦のあとは悔しさよりも感情としては怒りだった」。だが、18人で臨む強行日程の五輪。すぐさま切り替えなくては2戦目のナイジェリア戦に向かうことができない。ピッチに立った11人だけでなく、ベンチメンバーも含めた18人の力が必要だった。
「よく覚えているのがアメリカ戦に負けたあと、宿舎のリラックスルームで岡ちゃん(岡崎慎司)と当時の代表コーチだった井原(正巳)さん、(総務の)平井徹さんと4人でいて。初戦で負けたけどそこですごくポジティブな話し合いができた。岡ちゃんがオリンピックの本番になって『実は国歌の歌詞全部分からない』とか言い出して。みんなで練習したり(笑)。井原さんは相手チームのスカウティングも担当していたから、コーチだけど客観的に見ているところもあって。話を聞いてもらって切り替えられた」
ナイジェリア戦ではメンバー変更も図った。だが、チームは1-2で敗れ、予選敗退が決定。3戦目のオランダ戦も敗れて、まさかの3連敗で大会を去ることになった。
「五輪ってほかの競技の人もいて、より『日本を代表している、国を代表している』という気持ちになる。それでも、3戦とも負けてしまって『これじゃあかん』と。俺らの時は圭佑しか海外でやっている選手がいなかった。18人全員がもっともっと上に、世界に行かなあかんと思ったと思う。五輪のガチンコバトルで世界を肌で感じた」
それはたった9日間で幕を閉じた大会から帰国後、成田空港で反町監督が放った言葉にも通ずる。日本に戻っても誰もが下を向いていた。響き渡るのは監督の声だけ。
「北京五輪の活動が終わる。ここから先も日の丸を背負うとなると、もうA代表しかないぞ」
その言葉にハッとした。この先は本当に世界に勝っていかなければならない。海外でプレーしていた本田だけでなく、もっと日常から「世界」を感じなければいけない、と。
「みんな結構分かっていた。圭佑だけはやっぱりちょっと存在感が違うな、と。だからこそみんな活躍していきたいというギラギラ感があった。それをこの世代に見せてくれたのが圭佑。圧倒的に世界に対しての経験値が足りなかった」
本田に続くように、世界へ飛び出した。そして大会に招集された18人中17人が日本代表に上り詰めた。この敗戦がきっかけで、日本サッカー、北京五輪世代は大きな危機感を持つことができた。「ある意味ターニングポイントなのかもしれない」。ロンドン五輪、リオ五輪、東京五輪、そしてパリ五輪と若くから海外へ渡ることが徐々にスタンダード化し、大きく経験を積むことができた。
もちろんメダルを目指して、頂点を目指して戦う五輪。だが、それだけではない。その後、A代表でどう気持ちをぶつけるか。日本サッカーを引き上げることになったのは北京五輪の“負け”があったからかもしれない。(FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)
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