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わずか4分間の大逆転劇 なでしこJに垣間見えた“本来の姿”…主将が円陣でかけた言葉の意味【現地発】

FOOTBALL ZONE / 2024年7月30日 16時50分

■ブラジル戦敗戦濃厚から劇的な逆転勝利

 頼もしいキャプテンの一撃で、試合の流れは一気に日本に傾いた。現地時間7月28日のパリ五輪女子サッカーのグループリーグ第2戦ブラジル戦、すでに時計の針はアディショナルタイム2分、交代で入ったなでしこジャパン(日本女子代表)の谷川萌々子(FCローゼンゴード)が仕掛けた際、相手のスライディング時にハンドが認められ、プレーは続行されていたが、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)判定で日本にPKが与えられた。

 誰が蹴るのか——。熊谷紗希(ASローマ)がボールを置く。珍しいシーンに、キャプテンとしてボールを置いたのかと二度見してしまった。しかし集中した熊谷がしっかりと前を見据えている。どうやら彼女が蹴るようだ。前半から決定機を外し、PKも外し、大ブレーキのかかったエース田中美南(ユタ・ロイヤルズ)ではなく、池田太監督はVAR判定中に熊谷紗希を指名していた。

 熊谷がPKに臨もうとするそのうしろで祈る田中の想いを乗せて、なでしこジャパンを長く率いてきたキャプテンは落ち着いてGKが動いた逆に流し込んだ。

「(田中の大不調があった)だからこそ、決めたかったのもあります」

 熊谷は田中の心情をおもんぱかった。誰よりも悔しく、今この時、自分に何が起きているのかも理解できないであろう状態でも田中はチームのためだけに前線から全力でプレスをかけ続けていた。もしこの試合を落とせば、一気に決勝トーナメント進出が危うくなる。その時、田中が感じるに違いない責任はとてつもなく大きく、ツラいもののはずだ。「あの状況で勝ち点1が獲れるかどうかっていうすごく需要なところ」(熊谷)でのキッカーを任せられるのは確かに、熊谷しかいなかった。

 展開から見れば、同点としただけでも正直御の字だった。しかし、諦めていなかった19歳が大きな一撃で仕留めてみせた。パスミスをさらった谷川が放ったロングシュートが誰に軌道を邪魔されることなく、豪快にゴールネットを揺らしたのだ。

 熊谷のPKから谷川のロングシュートが決まるまで、わずか4分の出来事だった。久しく見ていなかったなでしこたちの大逆転劇を、オリンピックの大舞台で披露してくれた。


試合後に笑顔を見せた谷川萌々子と熊谷紗希【写真:早草紀子】

■熊谷が円陣で口にした「次につなげよう」の言葉

 終焉を告げるホイッスルの後、殊勲の2人、谷川と熊谷が一番に抱き合う。次々と2人の周りに歓喜の輪が広がっていった。嬉し涙、悔し涙、安堵の涙……それぞれが込み上げてくる感情を偽ることなく交わし合っている。

 池田監督を中心に円陣を作る。勝っても負けても、いつもの光景だ。そしてスタンドへの挨拶を終えた時、熊谷が隣に立つ清家貴子(ブライトン)、古賀塔子(フェイエノールト)と肩を抱き、残りの選手たちに声をかけた。次々に熊谷の周りに選手たちが集まり、再び円陣ができた。

「(清水)梨紗の怪我とか(藤野あおばのメンバー外などの)アクシデントがあって、いろんなことがいっぱいあってここを迎えてて、今日もビハインドの苦しい時間帯もあった。まだ2回戦だけど、この時点ですでに総力戦だった。本当にみんなの力で勝ち取った勝ち点3だと思ってたので、みんなにありがとうという言葉と、次につなげようと伝えました」

 円陣の最後はみんなで締めるはずだったと熊谷は笑う。しかし、一度目のその締めは上手くいかず、「違う違う!」と円陣では笑いが起きた。

「ちゃんとシナリオはあったのに、みんなが間違った(笑)。やり直して、上手く締まりました!」

 苦しんだ末の逆転劇——大舞台ではこういう勝利の掴み方が最も勢いを生む。しばらくなでしこジャパンでは見ることができなかった風景。まさに最後まであきらめなかった者だけが掴むことができる瞬間だ。

「見ている人の心も裏返せたと思う。こういう試合で自分たちもですけど、見てる人たちの心を動かせたらすごく嬉しいし、それこそ意味のあるもの。大きな大きな勝ち点3でした」

 チームの危機を救った頼れるキャプテンは晴れやかな表情で、大きな勝利を嚙みしめていた。(早草紀子 / Noriko Hayakusa)

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