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情報過多の時代に…「小・中学生に戦術を教えすぎる」弊害 高校サッカー日本一監督が警笛【インタビュー】

FOOTBALL ZONE / 2024年7月31日 18時10分

■名門校を率いた朝岡隆蔵氏「大事なのは原理原則を理解し、状況を把握して考えること」

 近代サッカーの戦術分析を、育成と指導にどう落とし込むべきか。インターネットの発展と、スマートフォンの普及により、現代では子供が多くの情報に触れる時代になった。試合の一部を切り取って戦術的な解説をする動画を見ているサッカー少年も少なくない。学びを得る機会が増えたメリットはあるが、デメリットに警戒心を示す現場指導者もいる。

 2011年に監督就任1年目で母校の市立船橋高校を全国高校サッカー選手権の優勝に導いた朝岡隆蔵氏は、今季から福島県のふたば未来学園高校で監督を務めている。市立船橋で多くのプロ選手を輩出してきた朝岡監督は「インターネットの発達で情報を得やすくなり、サッカーを知っている人間、指導者が増え、戦術論に触れる機会も多くなっています。ただ、小・中学生にサッカー、特に戦術的な部分を教えすぎではないかと思う部分もあります」と警笛を鳴らす。ピッチ上での問題を、授けられた理屈で解決しようとする選手が増えていると感じる部分があるという。(取材・文=平野貴也/全5回の4回目)

   ◇   ◇   ◇

「高校年代でも、Jユースを筆頭に、プレーモデルだ、コンセプトだと、戦術的な要素が増えています。ただ、先日、指導者研修会でも話題になっていましたが、近年はサイドバックが中盤の中央に入って行く動きを使ってビルドアップをするスタイルのチームが増えていますが、選手が『その形が有効』だと思ってしまっている傾向があります。本来は、状況を把握して、スペースを把握して、狙いを持つことでポジションを判断するべき。前段階を分からないまま、教わったことをやってしまう傾向があると感じています」(朝岡監督)

 理解しやすく、より具体的に、指示をする。欧州に追い付け、追い越せと近代化するなかで求められてきた指導の要素だ。しかし、戦術の明示と遂行への意識ばかりが強くなると、選手が自分で正解を探す力が身に付かない。相手が、この位置にボールを動かしたら……とチーム全体の守備のポジショニングを決めて理解しても、実際には、そのボールを受ける相手の仕草1つで、やるべきプレーは変わる。

 朝岡監督が例に出したのは、サイドハーフがファーストディフェンスでプレッシャーをかけに行く場面だ。具体的に言うなら、サイドハーフが前に出た分、いなくなったスペースをFWが下がって埋めるように指示をすることになる。しかし、相手のボールホルダーが、コントロールを失っていたら、FWは前に出るべきかもしれない。

 朝岡監督は「誰が、その(サイドハーフが出て行って空いた)スペースを埋めるんだ? と言ったら、指示は抽象的で曖昧。でも、選手は状況を見て判断できますし、その個人戦術を持っていることが重要。チームコンセプトの理解は大事だけど、より大事なのは原理原則を理解し、状況を把握して考えること。戦術にしても大事なのは、形ではなくて、理由。事前に描いた形にできたかどうかではなく、状況を解決できたかが大事」と語る。

 戦術を伝えて理解させる前に、その戦術が考案される前提や理由となる原理原則を教え、ピッチ上で判断させていくことで、選手の個人戦術が磨かれる。そうした個の集まりとなることで、チーム戦術は、ある程度のイレギュラーに対応可能なものとして機能することになる。

 日本サッカー協会(JFA)は、今後進もうとする道を示しているジャパンズウェイに「どこに行っても、いかなる監督、システム、戦術の中においても自身の強み、個性をチームのために発揮できる選手」と記している。戦術の形ばかりを覚えていては、適応力を欠く。

 朝岡氏は「情報が増えている今、個の育成に立ち直らないといけないと感じています。状況に応じた判断、即興性が減ってきている。高校年代では、状況判断を大事にしたい」と、自身も注意をしながら指導にあたる姿勢を示した。

※第5回へ続く

[プロフィール]
朝岡隆蔵(あさおか・りゅうぞう)/1976年生まれ、千葉県千葉市出身。市立船橋高で第73回全国高校選手権に出場。日本大学卒。千葉県で教員となり、2008年から母校の市立船橋でコーチを務めた。11年から18年まで監督を務め、11年に第90回全国高校サッカー選手権で優勝。13年、16年にインターハイで日本一に輝いた。プロ指導者に転向し、19年から22年までジェフ千葉U-18で監督。23年は中国で四川省成都市サッカー協会にてU-18、19を指導。24年から日本サッカー協会による派遣で、福島県立ふたば未来学園高校のサッカー部監督を務める。(平野貴也 / Takaya Hirano)

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