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高校サッカー名門校指導者→中国の育成現場へ…大国で眠る逸材たちの存在「日本でプロになれる選手も」【インタビュー】

FOOTBALL ZONE / 2024年8月1日 19時30分

■中国成都市サッカー協会のU-18、U-19チームを指導した朝岡隆蔵監督が語る現場

 アジアを中心に、日本のサッカー指導者が海外で活躍する例が増えている。異なる文化、環境は、日本のサッカーの強みや課題、現在地を知るうえでも貴重な視点となる。昨季、中国の成都市サッカー協会でU-18、U-19チームを指導した朝岡隆蔵監督(今季から、ふたば未来学園高校サッカー部監督)の話からは、古くから多くの人が情熱を持って作り上げて来た育成環境の強みと、歩み続けなければすぐに他国が追い付いてくる状況が見えてきた。

 海外での挑戦は、良い刺激ばかりでなく、想像できない難しさも伴う。それは、選手に限らず、指導者にも言えることだ。朝岡監督は「私が現地に行く直前、2021年から日本人指導者招致の責任者となっていた、成都市サッカー協会の会長と副会長がお金の問題か何かで逮捕されてしまい、本当に大丈夫なのかと不安でした」と明かした。朝岡監督は、2011年から18年まで母校である市立船橋高校で指導。19年からジェフ千葉U-18監督を4年間務めた。退任後、中国へ渡ったきっかけは、JFA経由で派遣の話を受けたことだった。(取材・文=平野貴也/全5回の5回目)

   ◇   ◇   ◇   

「中国が日本に求めているのは、インストラクターやダイレクターの仕事。そういう面で求められるものがありました。成都市のサッカーが発展するために、何が課題か、どうすればいいのか。そんな話を、新しい副会長としていました」(朝岡氏)

 中国のサッカー関係者は、弱小国からアジアの強国に成長した日本に強化のヒントを得ようと考えている。しかし、日本とは育成環境が大きく異なる。朝岡監督が指導した成都市サッカー協会のチームは、中国全土から選手を募る組織だ。連係先である地元のプロチーム、成都蓉城足球倶楽部に優秀な選手を送り込むことが1つの大きな目的になっている。しかし、厳しい競争で高みを目指す集団とは言い切れないと朝岡監督は感じていた。

「サッカー選手としての道を選ぶかどうか。実力によって振り分けられているかというと、半分くらいという印象でした。実力があるのに勉強を選ぶ子供も当然いますが、中国では、勉強に進んでしまうと、もうプロアスリートになるのは難しくなってしまいます。一方、サッカーを選んだ選手の中には、勉強は苦手で運動のほうが得意だから選んだだけで、競技に対する熱意がそこまで強いわけではない子もいます。学生であっても、サッカーでお小遣いがもらえるし、いわゆるクビになることもなく、入って満足してしまっている選手もいると感じました。プロに進む選手を発掘する段階で、日本のようにみんなで競争を続けて、常々評価されて選ばれていく形にはなっていませんでした」(朝岡氏)

 若年層で、サッカーで生活する世界に進むことがゴールになってしまう。あとは、その世界の人間で形成するプロリーグでのプレーを仕事とすれば、生活は成り立つ。中国1部である超級リーグに属する成都蓉城足球倶楽部は、1試合平均4万超の観客数を誇る。サッカー選手という仕事を選べたことで一定の満足を得ることが可能で、それ以上の夢を描きにくい部分があるようだ。

 一方、日本はJクラブのジュニアユースやユースのセレクションに漏れた選手が、中学・高校の部活動や町クラブといった広い裾野から再挑戦を続け、高卒でプロに進めなかった選手も、大学経由で再挑戦できる環境がある。どこに行っても、プロを目指すような熱意のある指導者や仲間がいることの強みを感じる部分だ。


中国の育成年代への指導で感じたこととは?【写真:平野貴也】

■走行距離が日本の高校生の半分程度?

 また、育成年代における強化については、選手を選抜したチームで強化を行うことが、中国の広い国土とマッチしないと朝岡監督は感じたという。中国全土から参加するリーグで移動が大変なため、集中開催。23年シーズンは、2週間で5、6試合を行う試合期間が年に6回設けられるシステム。6~7チームが参加するリーグ戦を1回毎に昇降格させる仕組みだった。公式戦以外では、近隣に実力が拮抗したチームが存在せず、1時間半ほどかけて大学生のチームと試合を行うことくらいしかできず、強化試合を組むことも難しい環境だ。

 近い距離でライバルとの競争が続くなか、新しい強化法を採り入れ進化する文化があることも、日本の発展の土台になっている。日本は、育成年代であっても、それぞれに欧州サッカーを学びの材料としている。朝岡監督が中国で指導を始めた当初、選手の1試合あたりの走行距離は、日本の同年代の半分強にあたる7キロ程度。互いの最終ラインの動きが乏しく、前線への蹴り合いとなり、中盤の攻防が省略されていたという。

「ちょっと場当たり的なプレーが多い印象はありました。こうやってボールを動かして、ここから崩したい、というような狙いが見えませんでした」(朝岡氏)

■長身でスピードのある選手が珍しくない、中国が秘めるポテンシャル

 ただし、選手個々を見てみると、やはり人口の多い大国で選抜されているだけに、運動能力の高い選手は多いという。

 朝岡監督は「日本のように、それぞれの指導者が目指すものを描いて指導するスタイルは、おそらく中国では組織しにくいのだろうと思います。でも、選手の能力自体は高い。身長が180~190センチあって、しかも足が速いというような選手が珍しくない。私が見ていたチームだけでも、これくらい能力があったら、日本でプロになれるなと思う選手が3人くらいいました。育成の環境が整備されれば、一気に成長する可能性はあると思います」と中国が秘める可能性に触れた。

 23年4月から12月まで、高い潜在能力を有する中国の若い選手に、どうやってサッカーを教えるか。通訳を介する指導の難しさを感じ、言葉の選び方を工夫したり、デモンストレーションを増やしたりと工夫をしたという朝岡監督の話からは、自発的に学び続ける関係者が多い日本の強みが感じられるとともに、まだ大きな成長の余地を残している他国が、今後一気に台頭してくる可能性も感じるものだった。

[プロフィール]
朝岡隆蔵(あさおか・りゅうぞう)/1976年生まれ、千葉県千葉市出身。市立船橋高で第73回全国高校選手権に出場。日本大学卒。千葉県で教員となり、2008年から母校の市立船橋でコーチを務めた。11年から18年まで監督を務め、11年に第90回全国高校サッカー選手権で優勝。13年、16年にインターハイで日本一に輝いた。プロ指導者に転向し、19年から22年までジェフ千葉U-18で監督。23年は中国で四川省成都市サッカー協会にてU-18、19を指導。24年から日本サッカー協会による派遣で、福島県立ふたば未来学園高校のサッカー部監督を務める。(FOOTBALL ZONE編集部)(平野貴也 / Takaya Hirano)

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