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プレミアでなぜ…絶滅危惧種となった“闘将”タイプ 地元で「大人しい子が増えている」の声【現地発コラム】

FOOTBALL ZONE / 2024年9月1日 8時10分

■従来的なイメージのキャプテンが減りつつあるプレミアリーグ

「生き物」とも言われるサッカーは、時代とともに変わるもの。変化の過程では、「絶滅危惧種」という言葉が使われることもある。

 ターゲットマン的なCF(センターフォワード)は、「偽9番」の増殖以前から減少方向にあった。徐々に「偽SB(サイドバック)」が増える近年は、タッチライン沿いを上下動するオーソドックスなSBが居場所を失い始めている。

 これらは、戦術的な「進化」とも理解できる。では、キャプテンという「種」に関してはどうなのか?

 今季プレミアリーグの20チーム中、従来のイメージが当てはまるキャプテンがいるチームは、せいぜい半数程度だろう。ピッチ上での実力のほかに、窮地で発揮される強烈な牽引力、対戦相手も一目を置く威厳、そして、見せかけだけではないクラブ愛を持つキャプテンのことだ。

 今季の「半数」に、7年前までジョン・テリーがいたチェルシーは含まれない。現キャプテンのリース・ジェームズにその資格は十分。だが、怪我でピッチに立てない試合が多いためだ。開幕前に再びハムストリングを痛めた今季の代行役は、エンソ・フェルナンデス。国内メディアで、「誤断」と言われても仕方のない人選だ。

 大方の批判は、今夏にアルゼンチン代表の一員として物議を醸した人種差別動画に基づいたもの。個人的にも、移籍2年目の23歳が持つ「キャプテンの資質」に疑問を覚えている。

 キャプテンマークを付けて先発する姿を初めて観察したのは、開幕前週のプレシーズン最終戦。インテル・ミラノと引分けた90分間では、チームの攻撃が形にならずに終わると、不満を露わにする姿が目に付いた。声は出ていたと言えるが、周囲を鼓舞する類の声には感じられなかった。

 人種差別問題は、大先輩のテリーも疑惑をかけられたことがある。とはいえ、ピッチ上で見せるリーダーシップに疑いの余地はなかった。一緒に戦うチームメイトにとっては極めて頼もしく、対戦相手にすれば喧嘩はしたくない、親分肌の猛者だった。

■ビジネス化がもたらす影響

 テリーがユースから1軍に上がった1990年代後半、プレミア最強と言えたマンチェスター・ユナイテッドには、ロイ・キーンという闘将がいた。最大のライバルだったアーセナルには、「ミスター・アーセナル」ことトニー・アダムス。プレミア無敗優勝を成し遂げた2003年当時のパトリック・ビエラも同類と言える。

 同年からリバプールの正キャプテンとなったスティーブン・ジェラードなどは、チームを超えたクラブの「象徴」と位置付けられた。チェルシーに続いて強豪に成り上がったマンチェスター・シティのキャプテンは、ピッチ外では温厚だが、ピッチ上では猛烈だったバンサン・コンパニ。2015-16シーズンにリーグ優勝の奇跡を起こしたレスターは、快速の主砲ジェイミー・バーディと同等以上に、最終ライン中央にどっしりと構える主将、ウェズ・モーガンのいるチームだった。

 往年の名キャプテンたちは、クラブでの年数も長かった。名前を挙げた7人の中では、ビエラの9年が最短だ。対照的に、「ミスター◯◯」が生まれにくい現状には、クラブ経営のビジネス化による影響がある。

 例えば、東ロンドンから北ロンドンへのデクラン・ライス移籍。ウェストハム一筋でもあったマーク・ノーブルから、同じアカデミー卒業生へのバトンタッチは完璧に思えた。しかし、アーセナルが当時の国内最高額となる移籍金を用意したことにより、ライスのキャプテン歴は1年で終了となった。

 この観点から考えると、百歩譲ればチェルシーの判断も理解できなくはない。8月22日にホームで行われた、カンファレンスリーグ・プレーオフでのセルベット戦第1レグ(1-1)。前半は温存されたE・フェルナンデスが後半にベンチを出ると、キャプテンマークが回ってきた。ピッチ上のイレブンでは、彼を含む昨年1月移籍組4名が、チェルシー最古参というチーム事情でもあるのだった。

 その前日、昨季はユース時代からの盟友ジェームズに代わって腕章を巻いたコナー・ギャラガーが、移籍金収入を必要とするクラブに追い出されるようにして、アトレティコ・マドリードへと移籍していた。小学生時代からのチェルシーで、入魂のパフォーマンスを繰り返したギャラガーもまだ24歳。どちらかといえば、自らのプレーで周りを励ますキャプテンだった。

■今季のキャプテン注目銘柄

 背中で引っ張るタイプ自体に問題はない。今季も優勝の有力候補とされるシティとアーセナルでは、その足でこそ雄弁に語るプレーメイカー、ケビン・デ・ブライネとマルティン・ウーデゴールがキャプテンを務めている。

 ただし、実際に発破をかけるタイプが以前よりも少ない背景には、一般社会レベルでの時代の違いもあるように思える。

 若い世代は、メール、バーチャル、リモート、チャットアプリなどが当たり前の環境で育っている。誰かに怒鳴る機会はもとより、面と向かって話す機会そのものが旧世代に比べれば少ないに違いない。西ロンドンの地元サッカースクールに通う子どもを持つイギリス人夫婦から、「大人しい子が増えているみたい」とも聞いている。

 とはいえ、やはり檄も飛ばせるキャプテン像の魅力は捨て難い。チームの先頭に立ち、胸を張って入場する姿だけでも、スタンドの「12人目」に勇気を与えるようなオーラの持ち主。現役組では、リバプールのフィルジル・ファン・ダイクが貴重な代表例だろう。

 国際的な名声では敵わないが、ルイス・ダンクをキャプテンと呼べるブライトンのファンも幸せだ。ユース、そして3部時代からの生え抜きは、「家宝」と呼ぶキャプテンマークの重さをハートでも理解している。

 今季のリーダーシップが注目されるキャプテンは、ユナイテッドのブルーノ・フェルナンデスだろうか。移籍5年目のポルトガル代表MFは、チーム一のクオリティを持つ選手が指名を受けているパターンだ。

 だが正キャプテン1年目の昨季は、リーグ8位に終わったチームで、チャンスメイカーとしてではなくチームリーダーとして消えてしまう試合が見られた。チームのトップ4復帰には、キャプテンとしての一貫性も必要だ。

 応援したいキャプテンは、プレミア復帰を果たしたサウサンプトンのジャック・スティーブンス。吉田麻也(現LAギャラクシー)の相棒だった若手として、日本のプレミア・ファンも覚えているかもしれない。

 その彼も、30歳のベテラン。吉田とのCBコンビでウェンブリー・スタジアムのピッチに立ち、ユナイテッドを相手に惜しくも敗れた2017年FAカップ決勝メンバー唯一の生き残りだ。

 17歳での加入後は、レンタル移籍先で過ごすシーズンも多かったが、2部での昨夏に戻ると、誇りにあふれるキャプテンとして昇格バトルでチームを牽引した。プレミア昇格を懸けた昨季プレーオフ決勝後には、7年前には「悔し涙に暮れた」というウェンブリーで嬉し涙を浮かべ、声を詰まらせながら「サッカー人生で最高の気分」と、テレビカメラの前で語っていた。

 今季のサバイバル・レースも勝ち抜いてもらいたいものだ。プレミアで減少傾向にある、“伝統的キャプテン種”の1人としても。(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)

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