韓国サッカーに油断は禁物 J1優勝経験クラブに2連勝…異端児監督&関係者の策略【コラム】
FOOTBALL ZONE / 2024年10月4日 12時20分
■ACLEで光州FC(韓国)が川崎を撃破し好調を維持
川崎フロンターレは10月1日、AFCアジアチャンピオンズリーグ・エリート(ACLE)リーグステージMD2の光州FC(韓国)戦を戦い、0-1で敗れた。前半の川崎は不安定でパスミスを連発し、同21分にPKを与えてしまったのが敗因と言えるだろう。同時に、光州FCの流動的なポジションチェンジと連動性が目立った試合でもあった。光州FCは初戦で横浜FMを7-3と撃破しており、これで2連勝と上々のスタートを切った。
その光州FCを率いているのがイ・ジョンヒョ監督で、韓国サッカー界の「壁」をぶち破った人物として知られる。韓国語版「Four Four Two」の編集長を務めたこともあるホン・ジェミン記者はイ・ジョンヒョ監督のことを「彼は見えない壁(GARASU-KABE:見えないが、上流階級に上り詰めると立ちはだかる壁)を取り払った」と表現する。
韓国サッカー界でたびたび話題になるのが「監督問題」だ。今年1月のアジアカップで複数の韓国人記者が嘆いていたのは、「代表チームや大きなクラブの監督になるためには、現役時代にスター選手だったという名声が必要」という状況だった。
だが、イ・ジョンヒョ監督は高名なスター選手というわけではなかった。韓国の放送局「KBS」のインタビューでは「ネームバリューがなくても、努力を続ければプロの監督になるという夢を見られると希望を与えたい」と自ら語っている。
率いている光州FCも大きなクラブではない。基本は市民チームであり、1部(Kリーグ1)と2部(Kリーグ2)を行ったり来たりしているエレベータークラブ。そしてKリーグ2に降格した2022年、イ・ジョンヒョ監督が就任すると40試合でわずか4敗という成績で昇格を果たす。そして2023年シーズンはKリーグ1で3位になり、ACLEプレーオフへの出場権を獲得している。
イ・ジョンヒョ監督はホン・ジェミン記者のインタビューの中で、Kリーグ2時代はコーチと2人体制だったこと、Kリーグ1に昇格してやっともう1人スタッフが増えたが足りず、2024年はさらに1人増やそうとしていることなどを明かしている。
多くのことを自分でこなしながら急激にチームを引っ張り上げた力量は、韓国内で「韓国でヨーロッパのサッカーを見せることができる唯一の監督」と表される以上のものがある。「勝とうとする」よりも「ゴールを狙う」ことに重きを置き、ゴールになるまでのプロセスを大切にするという考え方は、試合後の記者会見でも貫かれた。
そんな独特な感性を持つ監督だからこそ、試合後に川崎の選手が光州FCのファンのところまで行って挨拶したことに気付き、「今まで見たことがないですし、こういったカルチャーはすばらしいものだと感じています。川崎の選手やスタッフにもすごく感謝しています」という感想を述べたのだろう。
■翌日に蔚山現代は横浜FMに敗戦も…メディアオフィサーが積極的行動
この韓国サッカー界の異端児が、光州広域市という土地で台頭してきたのは偶然ではないかもしれない。光州は1980年、市民が軍事独裁政権に抵抗した「光州事件」の舞台。その先進性が光州FCの土壌になっているとも考えられるのだ。
この川崎vs光州の試合の翌日となる10月2日、今度は横浜F・マリノスが現在Kリーグ1でトップを走る蔚山現代と対戦し、4-0と大勝を収めた。蔚山は6日にリーグ2位の金泉尚武FCとの試合を控えており、そのため先発から主力を3人外し、本来のポジションではない場所に別の選手を起用したことが試合の流れを決めた。
ただ、試合の内容とは別に蔚山が一流クラブだと感じさせる場面があった。それは蔚山のメディアオフィサー、カン・ハン氏の行動だ。
昨シーズンもACLで日本に来た蔚山は、自チームの選手紹介のパンフレットを日本語で作って日本メディアに配布していた。今年はパンフレットこそなかったものの、たとえばハーフタイムでは選手起用の裏側について日本メディアに説明したり、ハーフタイム後に蔚山が2トップにしたときは、その戦術変更をいろいろな報道陣に伝えたりしていた。
日本クラブの広報担当者も報道陣にいろいろな情報を出してくることはあるが、蔚山のように海外の記者に対してまで説明しているのは、まだ見たことがない。それだけ蔚山は多くの国で自分たちのことを正しく知ってもらおうとしているのだろう。ビジネスとしての海外戦略を持ってACLに臨んでいるという姿が見えた。
近年は日本代表が各カテゴリーで韓国に互角以上の戦いを続けており、日本サッカーが一歩リードしたかのように思える部分もある。だが過去の風習を打破する監督が出てきたり、世界戦略をもってACLを捉えたりという姿を目の当たりにすると、決して目を離してはいけないということがよく分かる2試合になった。(森雅史 / Masafumi Mori)
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