「罵詈雑言を浴びてもやり続けようと」 長かった3か月未勝利…宇佐美貴史が“共存”した苦しみ
FOOTBALL ZONE / 2024年10月6日 6時50分
■宇佐美は今季11ゴール目で9年ぶりの2桁得点をマーク
ガンバ大阪は10月5日、J1リーグ第33節で北海道コンサドーレ札幌と対戦して2-1で劇的な逆転勝利を飾った。途中出場のFW宇佐美貴史が後半アディショナルタイムに2ゴール。自身は2015年以来の2桁得点に乗せ、チームは10戦ぶりの白星を飾った。殊勲の宇佐美は涙をこらえきれず、苦しかった約3か月。7月14日の第23節サガン鳥栖戦(2-0)以来の勝利を噛みしめた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞)
◇ ◇ ◇
長い、長い道のりだった。「This is 宇佐美貴史」というまさに“劇場”。宇佐美自身がPKを沈めて今季10ゴール目で同点としたのが後半49分。すぐさま次に切り替えた。カタール人のアブドゥルハディ・アルルアイレ主審に「あと何分ある!?」と確認する。「2分取る」。チャンスはあると確信し、もう1点を取りに行った。
MF山田康太からボールを受けた宇佐美が1人をかわしてペナルティーエリアへ。相手DFが来る。「打つか、切り返すか、打つか、切り返すか」。決めた。切り返して右足を振り抜き、ネットを揺らした。勝ち越し弾に吠え、芝生に突っ伏し、泣いた。涙が止まらなかった。
「抜くところまでは良かったけど、打つか、切り返すかと言うせめぎ合いがあった。あの瞬間で5、6回は悩んでいましたし、最後の最後まで見た結果、これスライディングしてくるなというのが分かった。だから絶対に切り替えしかない、と。頭はめちゃくちゃ落ち着いている。でも心はすごく慌てている感じ」
ここまで苦しかった。優勝争いをしていたチームの勢いが止まり、なかなか勝てない。引き分けが積み重なり、9戦未勝利で6分3敗。前節ではセレッソ大阪とのダービーに敗れ、プライドも傷ついた。
「泣いていました。非常に苦しかったのでここ数か月。僕だけじゃないですけど。全員本当に苦しかったですけど、逃げずに立ち向かい続けようと何度でも、負けても、どんな罵詈雑言を浴びせられ、ゴール裏でどんな苦しいこと言われても、やり続けようということを僕自身も言っていましたし、ただ言いながらもすごく自分自身も苦しいところもあった。結果で示さないと、とかチームに今何を言葉として掛けられるかとかいろいろ考えていた中で、一番すっきりとした形、姿というのをチームに見せつけることができた」
これがエース。そして牽引する主将。背番号7の重みを誰よりも知る男は悩んで、向き合い、G大阪のためを思ってきた。
「苦しむことは当たり前で、何か上に行こうと思ったり、成長しようと思ったり、自分は今多くのタスクをピッチ内外でも背負っていますし、やっぱりそれをすべてこなそうと思ったら苦しさというのは当然出てくる。結果を出さなければチームとしても個人としても矢面に立つのは自分なので。苦しさがあるというのは分かっていた。その苦しさと共存してどれだけ頑張れるかで今日みたいな日が来るというのを自分に言い聞かせ続けてやってきました」
昨年主将に就任。だが、昨シーズンは、チームが残留争いを強いられ最終的には7連敗の16位でフィニッシュ。個人としても一昨年の負傷の影響を拭えずに調子を上げられなかった。主将で7番の1年目は本当に試練だった。そこで行き着いたのが苦しみと「共存」することだった。
だからこそ、この約3か月も「共存」し続けた。次また苦しいかもしれない、次こそ勝てるかもしれない。手探りでも苦しみと手を取り合いながら、確実に1歩1歩進んできた。
「また次から苦しむことになるかもしれないし、またヒーローになるかもしれない。どうなろうがやり続けるってことだけは止めない」
まだシーズンは終わらない。10戦ぶりの勝利を噛みしめるだけでなく、次にステップアップしていかなければ意味がない。感情を揺さぶったこの一戦は確実に伝説になる。だが、宇佐美はそれをも超える未来を作り出してくれるはずだ。(FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)
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