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高卒プロで屈辱「力が足りねぇ」 海外修行先で痛感「J1にいたら何点取れるんだ」【インタビュー】

FOOTBALL ZONE / 2024年10月20日 9時30分

■元日本代表FW川又堅碁、自らを変えるきっかけとなったブラジル武者修行を回想

 かつてJ1の舞台でゴールを量産し、日本代表にも名を連ねたFW川又堅碁はプロ17年目を迎えた今、J3アスルクラロ沼津の一員として戦い続ける。J2ファジアーノ岡山で18得点を挙げ、一気にその才能が開花したストライカーにとって、キャリアの分岐点はそれ以前にあった。プロ入り後、壁にぶち当たっていた20歳の時、ブラジルへ武者修行。そこで見た光景は、今でも鮮明に焼き付いている。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・橋本 啓/全3回の3回目)

  ◇   ◇   ◇ 

 川又のプロキャリアを振り返ると、プロ6年目で記録した23得点という圧倒的な数字が目に留まる。2008年、高卒でアルビレックス新潟へ入団し、そこから4年目まで得点を奪えなかった男が12年に期限付き移籍先ファジアーノ岡山で18得点。翌13年シーズン、新潟で冒頭の数字を残し、ベストイレブンにも選出されるほど大きく飛躍を遂げた。

 プロでその得点能力を開花させた岡山でのキャリアは川又にとって、1つの分岐点とも捉えられる。ただ本人曰く、自らを変えるきっかけは、これとは別の時期にあったようだ。

「20歳の時にブラジルに行くことにしたんですけど、すごい刺激を受けて……。やっぱり日本に帰ってきた時には、プロで生き抜いていくっていうところへの意識は変わっていったかなと。そこは本当に分岐点かなっていうのはすごく感じていました」

 プロ3年目を迎えようとしていた2010年、当時20歳だった川又はブラジルのサンパウロ州2部リーグに所属するカタンドゥヴェンセへ半年間、期限付き移籍することに決めた。いわゆる、武者修行を決断した背景には高卒プロ入り後、結果が出ない日々を送ったなかで、力不足を痛感させられる出来事があった。

「シュートには自信があったし、プロでもいけるもんだと思ってたんですよね。でもどの試合だったかは忘れてしまったんですけど、インアウトしたんすよ。途中出場、途中交代。その時にやっぱりプロの壁っていうんですかね、通用するには全然力が足りねぇなっていう。練習試合ではかなり得点はしていましたけど、やっぱり点取るだけじゃないんで、すべての面で高めないといけないっていうところもあった。下手っぴなんで」

 もともと新潟とプロ契約を締結した際、「キャプテン翼に憧れていた」という理由で「ブラジルに武者修行させてほしい」という条件を盛り込んでいたという。そうした経緯もあって、クラブ伝手でカタンドゥヴェンセへ加入。すると、そこで目にした光景に衝撃を受けた。「プロ選手として飯を食うとはこういうことなのか」。まだ20歳だった川又の心が揺れた。

「どんなことがあっても結果を残さないといけない。変な話、ブラジルだと味方を削ってでも自分のポジションを確保しようとする。練習中に平気で悪質なファウルをするぐらい。それが良いか、悪いかは別として、家族を養うためにはサッカーで成功するしかないっていうぐらいの環境だったわけです。裕福じゃない選手も多くて、すごい刺激を受けました」

 王国ブラジルの人々はサッカーで成功を収め、裕福な家庭を築くサクセスストーリーを夢見る。チームで活躍すれば稼ぎは増え、逆に、目立たなければ立場を失う。シビアな世界がそこにはある。貧困層から這い上がろうとする選手たちから漲るそのハングリー精神に、川又はプロ選手としての在り方を学んだ。衝撃を受けたのはそれだけではない。

「僕がいたのは州の2部だったんですけど、J1にいたら何点取れるんだっていうぐらいの身体能力の高い選手がいたり、2部で給料も全然もらえてないような選手たちでさえ、日本で感じたことないぐらいのレベルだったり……。そういうのを肌で感じた時はびっくりしました。すげぇ国やなと」

 ブラジルへの半年間の武者修行を終え、新潟に戻った川又は10年、11年と無得点だったが、その翌年にようやくその才能が開花した。「ブラジルに行って良かったなと思います」。14年前に思いを巡らせたストライカーの表情に、充実感が浮かんでいた。

[プロフィール]
川又堅碁(かわまた・けんご)/1989年10月14日生まれ、愛媛県出身。小松高―アルビレックス新潟―カタンドゥヴェンセ(ブラジル)―アルビレックス新潟―ファジアーノ岡山―名古屋グランパス―ジュビロ磐田―ジェフユナイテッド市原・千葉―アスルクラロ沼津。Jリーグ通算318試合98得点。2013年にJベストイレブンにも輝いた生粋のストライカー。怪我を乗り越え、昨夏加入した沼津でプロ17年目を迎えた今も奮闘を続ける。(FOOTBALL ZONE編集部・橋本 啓 / Akira Hashimoto)

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