町田のロングスローが批判の的に 短いことの是非も…“世界への武器”となり得るAPT【コラム】
FOOTBALL ZONE / 2024年11月1日 10時57分
■アクチュアル・プレーイングタイムを短くしているとされる町田のロングスロー
今年のJリーグでは「アクチュアル・プレーイングタイム」が話題になった。先日のJリーグ理事会でも野々村芳和チェアマンが言及するなど、この時間の長さについて語られている。
「アクチュアル・プレーイングタイム」とは、大雑把に言えば試合時間からプレーしていない時間を引いた長さ。ヨーロッパの主要リーグではおおよそ60分程度だと言われており、Jリーグでは2009年から計測を始め、その当時は平均で55分程度だった。
東京ヴェルディの城福浩監督は2023年の段階でこんな見解を述べていた。
「日本人は身体的にも精神的にも持久力があるので『アクチュアル・プレーイングタイム』が延びれば、世界への武器になると思っています。プレミアリーグは『アクチュアル・プレーイングタイム』が60分程度で、我々もそこを目指しているのです」
このアクチュアル・プレーイングタイムが注目されるようになった発端は、2023年のFC町田ゼルビアのロングスローだった。黒田剛監督が青森山田高の指導者時代に多用していたこのスローインをJリーグに持ち込み、さらに首位を独走したことでロングスローの際にタオルでボールを拭いて投げる動作が目立つようになった。
実はそれまでもいろいろなチームでロングスローの際にタオルを用いていたが、町田によって一気に注目を集めたと言える。町田と同じようにスローインのたびにタオルを拭いていたチームもあったが、町田が積極的に戦力補強を行い、急激に強くなっていたこと、そして、SNSの普及により多くの人がこれを知るようになったことで「アクチュアル・プレーイングタイム」を短くしていると批判を浴びるようになった。
そんな多くの声を集約したのが、同じく城福監督が2023年に語ったこのコメントだと言える。
「天皇杯のFC東京戦では我々もロングスローを1回行いましたが、ロングスローを武器にするチームだと、1回ごとにスロアーが逆サイドまで行ってボールを拭いて、センターバックが上がっていって、と、長いときには40秒ぐらいかかることがあるんです。しかも、コーナーキックと違って10回、20回とあるわけです」
ロングスローが1試合に10回以上あることはめったにないとは思うが、このスローインの時間がサッカーの魅力を削っているという考え方は一理ある。
一方でロングスローをコーナーキックと同じように考えるべきだという意見もある。コーナーキックの時はキッカーが両方のコーナーまで走って行き、ボールをセットして、蹴る前の攻防をレフェリーが監視し、そこからボールが蹴られる。ロングスローも同じようにゴール前に放り込むため、同じようなものだという考え方だ。
どちらの考え方になるかは、ロングスローを重要な武器の一つとして考えるかどうかで分かれるだろう。ただ、どちらにしても、本来、理想なのは、コーナーキックもスローインももっと素早く行われることだろう。
■町田は「故意にスローインで時間をかけているのでは」と思われている
町田に対する批判が集まったもう1つの原因は、町田がタオルで拭く行為が意図的にプレーイングタイムを削るために使っていると思われたからではないか。確かに町田のアクチュアル・プレーイングタイムはJ1の20クラブ2番目に短い(48分53秒)。その点もあって故意にスローインで時間をかけているのでは、と思われている
この点については、2023年ならそう思われても仕方がなかった。実際、天皇杯では西村雄一主審からタオルで拭く行為を短くするように注意された。そのこともあったのか、2024年は前年に比べれば拭く回数は明らかに減っている。それでも他チームに比べると目立ってしまい、余計に時間を稼いでいると受け取られたと考えられる。
では、根本的に、アクチュアル・プレーイングタイムは長ければいいのか。エンターテインメント性は高くなるだろう。逆に言えば、アクチュアル・プレーイングタイムが短いというのは、そういったエンターテインメント性を削って、勝負に徹しているとも言える。
たとえば、弱いチームが強豪を相手に1点を先行したとき、逃げ切るために時間稼ぎを続ければ、アクチュアル・プレーイングタイムは必然的に短くなる。日本が強豪国を相手にリードを守るため、ボールを蹴り出し続けてタイムアップを狙ったとしたら、おそらく日本国内では称賛されるだろう。アクチュアル・プレーイングタイムが短いチームというのは、そういう戦いを繰り返しているに過ぎない。
対してアクチュアル・プレーイングタイムが長いチームというのはプレーを続けることで相手を、特に相手の思考力を疲れさせようとする。短いチームは連続してプレーすることに慣れていないからだ。つまり、アクチュアル・プレーイングタイムは勝負における駆け引きの材料だとも言える。
アクチュアル・プレーイングタイムが長く、観客がピッチから目を離すことのできる時間が短いゲームは楽しいが、勝負を優先して考えれば、短いのにも意味がある。特に優勝や残留がかかるこの時期は、どうしても勝ち点を奪うために、時間稼ぎが増える。
アクチュアル・プレーイングタイムが長くなるのは大いに結構。だがこの終盤戦においては一旦、目をつむって“勝負”を楽しむのが正解ではないだろうか。
アクチュアル・プレーイングタイムを金科玉条のように追い求めることは、あまりに生真面目で、勝負の彩を無視しているように思える。そしてアクチュアル・プレーイングタイムについて論じようとしたこのコラムも、こうやってやたらと真面目なものになってしまった。(森雅史 / Masafumi Mori)
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