試合中に嘔吐、動悸…両親に告げた「終わるかも」 現役Jリーガーが苦悩、ストレスと向き合う今【インタビュー】
FOOTBALL ZONE / 2024年11月4日 7時50分
■カターレ富山のMF坪川潤之が告白、ストレスと向き合いながら戦うプロ生活
SNSを通じ、自らの弱みを公にするJリーガーがいる。J3カターレ富山でプロ5年目を迎えた坪川潤之は大学時代、原因不明の吐き気や動悸に見舞われ、その症状を抱えながら、念願のプロ入りを果たした。今も完治はしていない。それでもある出会いをきっかけに笑っていられる日々を送る現在に迫った。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・橋本 啓)
◇ ◇ ◇
「ストレスに弱いJリーガー」――坪川のX(旧ツイッター)を見ると、真っ先にこの文字が飛び込んで来る。紹介文には「試合前、練習中でも吐き気してます。大学時代には吐き気の治療に専念しすぎて単位落としまくってます。体調崩すと扁桃腺すぐ腫れます。それでも毎日闘ってます。だからメンタルは強いかもです」と、赤裸々に綴る。
北海道生まれの27歳プロ5年目。高校時代は全国大会の常連校として知られる矢板中央高(栃木県)で過ごし、東洋大学に進学した。坪川がXの紹介文に綴ったような症状に悩まされたのは、大学2年生の夏頃だった。スタメンでのデビュー戦。大学のトップチームでプレーする重圧に晒されたなかで、ハーフタイム明け、後半戦が始まったタイミングで、身体に違和感を覚えた。
「いつもの自分の身体じゃない状態っていうのを感じて。後半始まったら、動悸がより強くなって後半始まって15分くらいで交代したんですけどなんかおかしいぞと。そこからトレーニング中にめまいがしたり、嗚咽が頻繁に起きたりするようになって、ついには試合中に吐いてしまって……」
試合中やトレーニングの最中に嘔吐し、脱水症状も引き起こした。水分不足で足が攣り、思い切ってサッカーに打ち込めない日々が大学3年生になっても続く。「これはなんとかしないといけない」。チームメイトに同じような症状を持つ者は見当たらず、悩みを打ち明ける勇気はなかった。そこで総合病院へ出向いたが、血液検査をしても異常はなし。メンタル面の問題だとうっすら分かってきた一方で、「根本的な原因は見つからなくて、大学3年生の最初の時期は悩みながらプレーしていました」と苦悩を明かす。
さすがに迷惑がかかると思い、大学の監督に症状を打ち明けた。
「僕、今こういう状況でプレーしていますって。1つ対策として、試合中にガムを噛ませてほしいと。大学生だったのでガムを噛むのがイメージ的に良くないっていうのもあって許可を取って、それが1つ気を紛らわせるっていう意味ではいいアイテムだったかなと。ただ大学生の間は特に改善はなく、いい時もあれば症状が頻繁に起こる時もある感じで。それでも監督に打ち明けたことで気持ちが楽になったので、残りの期間は思い切ってプレーできました」
■「メンタルのスポーツコーチング受けてみないか」の助言が転機に
治療法が分からぬまま、大学生活を送る日々。吐き気を催す症状により、「実力以外のことでサッカーを諦めないといけないのかと考えた時は、本当に絶望した」と、当時を振り返る。思い悩みながらも「サッカーは続けたい」という気持ちはぶらさず、大学4年目は春先からプロクラブの練習参加を重ねたが、オファーは一向に届かなかった。
キャプテンを務めた4年時、チームは関東大学リーグ2部降格という憂き目に遭う。プレー面では目立った成績を収められず、プロ入りは諦めかけた。両親には電話口で「ここでもう終わるかもしれない」と告げた。「実際、就職活動もしっかりやっていた」というなかで、10月に入って吉報が届いた。AC長野パルセイロからの契約オファーだった。
「強化担当の方に言われたのはプレーもそうだけど、キャプテンとしての振る舞いを評価してもらってくれたみたいです。自分がチームのためにしていた行動まで見てくれて、評価いただけたのはすごく嬉しくて。一時期、自分の人生がどうなるんだっていうふうに悩んだ時を思えば、諦めずにやってきて良かったなと。プロからレターが届いた時はすごく嬉しかったのをめちゃめちゃ覚えてます」
2020年のプロ入りとともに、症状改善へ光が差し込んだ。大学時代からの悩みをプロ入りのタイミングで代理人へ打ち明けると、あるアドバイスを受けた。「メンタルのスポーツコーチング受けてみないか」。どんなものなのかイメージが湧かなかったが、症状改善へつながればと思い「ぜひ話を聞いてもらいたい」と二つ返事で行動に移す。すると、坪川の視界が一気に開けた。
「自分の症状を理解してもらえる人があまりいなかったんですけど、メンタルコーチの方に話すと、笑いながら『普通だよ』『たくさんいる』って言われて。そういう選手を何人も改善させてきたから問題ありませんっていうことを言ってもらった時は、『あ、俺治るんだ』ってなりましたね。そこでしっかり理解してくれる人が現れたのは大きくて、そこからそのコーチングを受けながら、少しずつ、症状が緩和しました。治ったというよりは、コントロールできるようになった感覚ですね」
2023年シーズンからプレーする富山でも緊張感から突然、嗚咽することはある。ただ、「自分のメンタル面をうまくコントロールできてないことが原因」と分かった今、不安に襲われていたかつての思いは一掃された。
「今は正直、その緊張感とか プレッシャーがむしろワクワクするというか、緊張しないほうが恐ろしい。嗚咽が来るからやばいってわけではなくて、笑っていられるというか、今日はそういう日なんだみたいな感じで、それを受け入れられているんです。特になんかそれをネガティブに意識してない分、楽にプレーしています」
大学以上のプレッシャーに晒されるプロの舞台で27歳のJリーガーはストレスと向き合いながら、プロ5年目の挑戦を続ける。
[プロフィール]
坪川潤之(つぼかわ・ひろゆき)/1997年5月15日生まれ、北海道出身。矢板中央高校―東洋大学―AC長野パルセイロ―カターレ富山。2020年に東洋大から長野入り。同年6月の富山戦でJリーグデビューを飾る。22年シーズン後に契約満了となり長野を退団。翌年から富山へ完全移籍し、在籍2シーズン目を迎えている。(FOOTBALL ZONE編集部・橋本 啓 / Akira Hashimoto)
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