2度の大怪我でプロ諦め…ふと目に入った「町田インターン募集」 夢破れ歩んだ紆余曲折【コラム】
FOOTBALL ZONE / 2024年11月7日 18時10分
■町田の篠崎友広報は子どもの頃は東京都選抜に入るほどの選手だった
あなたが大学を卒業してJクラブに就職したとしよう。
入社して部長を含めて3人の広報部に配属された。社会人になって迎えた初めてのシーズン、クラブは開幕直後から好調で報道陣がどんどん増える。多くなった報道から次々に取材環境を整えてほしいなどの要望が出されててんてこ舞い。
「取材用の胸から下げるパスカードがほしい」
「取材の際の受付ノートがほしい」
「待機できる場所を増やしてほしい」
「取材できるエリアを広げてほしい」
「練習後に○○選手のコメントを取らせてほしい」
チームスタッフと話し合ってそんな対応をこなしながら、ニュースリリースを次々に出し、SNS用の素材も集めなければならない。練習ではカメラで選手たちを追いながら、来ているメディアからの取材要望を選手に伝えて調整を行う。複数のリクエストを整理しつつ、さらに報道してもらう案も考えなければいけない。
2年目は優勝争いに絡んだことでメディアの数がさらに増えた。練習公開日には30人以上の報道陣が押しかける。リリースの数も爆発的に増え、1人増員された4人体制で立ち向かっていくものの、試合と試合の合間の1週間があっという間に過ぎていく。
そんな状況にいるのがFC町田ゼルビアの広報・篠崎友だ。篠崎は新入社員だった去年のことを聞かれ、ハッとした顔で「当時はやりながら仕事を覚えていくという状態だったので、これからどんなことが待っているか想像できないまま走り出していました。今になって『あの当時はよくいろいろやっていた』と思います」と振り返った。
「僕が言うのもおこがましいのですけど、今年のチームはスタッフ、選手、そしてフロントもより一体感を増してきました。それからファンサービスエリアも整備されて多くのファン・サポーターと交流できたことで、よりファミリー感ができたと思います」
今はそうやってチームの裏方として働く篠崎も、かつては華やかな舞台で活躍する選手を目指していた。
「小学校の頃、ありがたいことに東京都選抜に選んでもらいました。その頃からJリーガーになるのが夢になりましたね。高校は山梨の帝京第三高校に進学して、3年の時は総体で県大会に優勝したのですが、選手権は県大会の決勝で日本航空に負けて全国大会に出場することができませんでした。そして付属の大学である帝京大学に進学したんです」
大学生活のスタートは順調だった。ところが2年生になると度重なる怪我に悩まされる。
「ハムストリングと後十字靱帯を怪我して、保存療法を選んで復帰するまでに8か月かかりました。ところが、すぐに2度目の怪我をしてしまって。その時は酷くて、ピッチに戻るまで1年かかるだろうということでした」
■プレーする側から「運営する立場」への思いが強くなったきっかけ
結局、この怪我で篠崎は幼い頃からの夢だったプロサッカー選手を諦めることになった。その辛い決断をした時、篠崎が思い出したのは、高校時代に遠征で行ったスペインのスタジアムの光景だったという。ゴールが決まった瞬間、近くの知らない老婦人が喜んでハイタッチしてきたのだ。スタジアムが沸騰する雰囲気が心の中で蘇って、篠崎は考えを変えた。
「今までプレーする側だったけれど、今後はチームを支える側になって、日本でもあんな風景が生まれるようにするのもいいかもしれない」
そんな思いが芽生え、プレーをする傍ら、チームを運営する立場としての仕事にもより積極的に関わるようになる。そして、主務としてサッカー部全体を支える立場となった。そうしてサッカー部の縁の下の力持ちになった3年生の終わり、将来を思い描いた時にいろいろなJリーグクラブのインターン募集が目に入った。
篠崎は書類選考に応募し、面接を受けて、いくつかのクラブのインターンに参加した。その中の1つが町田で、篠崎は主に運営担当補助として働いた。
「自分が想像していた以上にさまざまなことを任せていただきました。経験も積ませてもらいましたし、時給もいただいたことで余計に責任も感じました。卒業する時、みんなは一般企業への就職や大学院に進みましたが、僕はJリーグクラブへの就職1本に絞りました」
篠崎はそのまま町田に入社することになる。入社直後からいろいろな仕事を任され、そして指導を仰ぎながらではあるが、さまざまな権限も与えられて日々を過ごしている。
「今は少しでも早く一人前になってクラブに恩返しをしたいというのが願いです。自分がサッカーを通して夢や希望、生きがいを与えてもらったように、これからは自分がFC町田ゼルビアを通してファン・サポーターのみなさんへ、そういったものを与えられるような存在になりたいと思っています」
この時期になると町田はインターンとして学生スタッフを募集する。その募集リリースを書きながら、篠崎はもう一度初めて町田に来た時のことを思い出す。そして、今の学生に向けてこう語る。
「自分はあの時一歩踏み出して本当に良かったと思います。FC町田ゼルビアは自分のような新人や学生にもさまざまなチャンスを与えてくれますし、自分が挑戦したいと相談すれば、やらせてくれる環境なので、少しでも『Jリーグクラブに興味がある』『Jリーグクラブで働きたい』という思いがあれば、みんなにもぜひ踏み出していただきたいと思いますね」(森雅史 / Masafumi Mori)
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