厳しい叱咤に…周りから「きつく言うなよ」 名門校で“伝統の14”継ぐ逸材の苦悩「悩みました」
FOOTBALL ZONE / 2024年11月8日 11時10分
■前橋育英3年生MF石井陽、伝統の背番号14を継いだ今季の過程
黄色と黒の縦縞の伝統のユニフォームの前橋育英にとって、14番は特別な番号だ。チームを全国トップクラスの強豪校に仕立て上げた就任42年目を迎える山田耕介監督が、世界的な名手と知られるヨハン・クライフを心酔していたことから、クライフの14番を自チームのエースナンバーにしたのが始まりだった。
これまで山口素弘、松田直樹、鈴木徳真(ガンバ大阪)、秋山裕紀(アルビレックス新潟)ら錚々たるメンバーが背負ってきた伝統の番号を今年引き継いだのが、3年生MFの石井陽だ。
「人もボールも動くサッカー」を伝統として掲げる前橋育英は、ボランチに一番のキーマンを置くことになっている。石井のポジションも当然ボランチだ。158センチと小柄だが、豊富な運動量と高いボールキープに加え、危機察知能力と球際の強さを生かしたボール奪取はチームにおいて大きな武器となっている。
14番を背負うにはプレーさえ良ければいいわけではない。チームリーダーとしてピッチ内外で周りを牽引していかないといけない。キャプテンマークも託された石井は、シーズン前にチームとして大事にするべき「5原則」を掲げた。
「トランジション(切り替え)、デュエル(1対1のバトル)、ハードワーク、声、ファースト・セカンドボール(競り合いとセカンドボールの回収)」
これは石井が「憧れの代」と口にする2017年度の選手権初優勝のチームが掲げていたものだった。
「記事に載っていたのを読んで、ずっと印象に残っていたんです。前橋育英を優勝に導いた代がこれをしっかりやったうえで結果を出したからこそ、僕らもこの5原則を徹底することで、全国で結果を出したいと思ったんです」
シーズン開幕前に自らの口でこれを伝え、新チームは船出した。しかし、プレミアリーグEASTで開幕3連敗を喫するなど、いきなり大きく躓いてしまった。この状況を打破するべく、石井も厳しい言葉を投げかけて奮起を促すがうまくいかない。彼自身も大きな苦しみからのスタートとなった。
「僕が厳しく言うことで逆に雰囲気が崩れてしまって、周りも『そんなにきつく言うなよ』という声が聞こえてきた。自分が良かれと思ってやっていることがチームの士気を下げることに直結してしまっているのかと悩みました」
ここで彼が取った行動はチームメイトとの対話だった。同級生、後輩関係なく自ら話しかけ、いろいろな意見を耳にした。「厳しく言うべきところは言うべきだけど、褒めるところはきちんと褒めてほしい」という意見も受け入れて、言葉の強弱も意識するようになった。徐々にプレミアEASTで結果が出始めるが、それでもインターハイ予選では準決勝で共愛学園にPK戦の末に敗れるというショッキングな出来事が起こった。
「まだ自分からのコミュニケーションが足りないと思った。より個人個人と話をしながらチームのあり方を見つめ直した」
その時に石井の中で柱となったのが、自らが掲げた5原則だった。
「どんなことがあってもあの5原則は崩したらいけないし、それに基づいてみんなや監督、スタッフと話し合って、映像を見ながら、自分たちのあるべき姿を見失わないで前に進むことができた」
■「積み上げてきた僕らの5原則をしっかりと披露したい」
インターハイ予選を境にチームは劇的に変わった。全員が攻撃と守備の意識を持ち、ボールを奪われたら石井を中心に即時奪還をして、2次、3次攻撃につなげていく。インターハイ予選後のプレミアEASTでは6勝2敗2分の成績で、下位から一気に5位に浮上。プレミア3連勝の中で今予選を迎えた。
初戦となった準々決勝の前橋商業戦こそ、プレミアと県予選の戦い方の違いに戸惑い、延長戦の末になんとか勝ちを掴んだが、準決勝ではプリンスリーグ関東1部に所属する県内最大のライバル・桐生第一に3-0の快勝を収め、4連覇に向けてあと1つとなった。
「僕はみんなに言う分、攻守において5原則を一番体現できる選手にならないといけないと思っています」
その言葉どおり、桐生第一戦でも躍動を見せた石井は、9日の共愛学園との決勝戦に向けてこう口にした。
「インハイ予選準決勝で負けているので、リベンジの気持ちをみんな持っている。絶対に勝って、その後のプレミアリーグ、選手権へとつなげたい。これまで積み上げてきた僕らの5原則をしっかりと披露したいと思います」
1年間で心身ともに逞しくなった前橋育英の背番号14。これは石井自身のパーソナリティーによるものか、それとも14番という伝統が彼を強くさせたのか。その答えは間違いなく両方だ。前橋育英の心臓となった彼は、まだまだ自分に試練を科しながら残りの高校サッカーを駆け抜ける。(FOOTBALL ZONE編集部)
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