久保建英は「短剣」…バルサ番記者絶賛 レアル移籍から紆余曲折の“理想郷”【現地発コラム】
FOOTBALL ZONE / 2024年11月13日 11時10分
■久保建英も自画自賛「最高の試合の1つ」…バルサ戦で示した圧倒的な存在感
「攻撃だけでなく守備においても、僕がこのクラブのユニフォームを着てプレーしたなかで最高の試合の1つ」
久保建英が試合後に語ったこの言葉に、FCバルセロナ戦のすべてが集約されている。
シーズン開幕から不振に喘ぎ、ラ・リーガ11位と低迷するレアル・ソシエダは、年内最後の代表ウィーク直前に行われた第13節で首位バルセロナをホームに迎えた。
イマノル・アルグアシル監督はこの大一番に向け、ビクトリア・プルゼニ戦(1-2)からのスタメン変更はわずか3人のみ。久保は公式戦3試合連続でスタメンに名を連ね、いつも通り4-3-3の右ウイングでプレーした。
対するバルセロナはマルク=アンドレ・テア・シュテーゲンやロナルド・アラウホなどを長期で欠きながらも、公式戦7連勝中と絶好調。ラミン・ヤマルがUEFAチャンピオンズリーグ(CL)レッドスター戦(5-2)の怪我が回復せず、キックオフ直前にメンバーを外れるアクシデントがあったなかで、この一戦に臨むことになった。
注目度の高い一戦とあってチケットは完売だったものの、ラ・リーガの「ホーム成績最低チーム」と「アウェー成績最高チーム」の対決に対し、現地では圧倒的な攻撃力を誇示してきたバルセロナ有利との見方が強かった。
その予想どおりにラ・リーガ得点ランキングトップのロベルト・レバンドフスキが早々にゴールネットを揺らすも、VAR介入後にオフサイドで取り消しとなった。
バルセロナの攻撃が形となったのはここまでだった。そのプレーで気を引き締め直したソシエダがそれ以降、流れを奪い返して今季最高のゲームを展開し、特に久保が攻守に渡って粘り強いプレーを見せ、再三にわたってバルセロナの頭痛の種となった。
キックオフから積極的に相手DFに激しいプレスをかけ続け、右サイドからクロスを狙う。前半30分にはカットインしてボックス内でアレハンドロ・バルデとペドリを振り切ると、強烈な左足のシュートでルベン・ペーニャを脅かす。さらに前半終盤間際、ミケル・オヤルサバルのシュートチャンスの起点となり、ブライス・メンデスの決定機をスルーパスで演出した。
後半に入っても久保の存在感が薄れることはなかった。いきなりシェラルド・ベッカーに好パスを送り、イニゴ・マルティネスのイエローカードを誘発。後半28分にはCKからダイレクトシュートを打ち、バルセロナの猛反撃を受けた終盤は前半にベッカーが挙げたゴールを死守するため、守備ブロックの一員となってチームに貢献した。
バルセロナ戦が行われたレアル・ソシエダの本拠地レアレ・アレーナ【写真:高橋智行】
■スペイン紙も驚き「最高の久保を思い出させた」「閃きのおかげで試合の流れが変わった」
最後まで集中力を切らさなかったソシエダは1-0で勝利して今季のホーム2勝目を挙げただけでなく、バルセロナに1本も枠内シュートを打たせず、クリーンシートを達成した。これで順位も今季最高の8位にまで浮上している。
アルグアシル監督は、「試合開始1分から95分まで我々が上回っていたので、この勝利は妥当な結果」と試合内容に大きな手応えを感じていた。おそらく今季最高の出来となった久保も、「フィジカル要素が強くなってきた現代のサッカーの中で、フィジカルの部分でバルサに負けなかったというのはチームとして特に自信になる」と満足げに語った。
マッチMVPには唯一の得点者であるベッカーが選ばれるかと思われたが、フル出場で攻守に渡る活躍ぶりが評価された久保が2節連続で選出された。今季ラ・リーガやCLで圧倒的な力を示してきた相手に大きなインパクトを残したことを考慮すると、久保がこの日の最優秀選手に輝いたのは当然と言えるだろう。
久保のここまでのラ・リーガ成績は13試合(先発9試合)、873分出場、3得点0アシスト。5年前のマジョルカ時代に始まったバルセロナとの公式戦通算成績は、11試合(先発7試合)、695分出場、2勝9敗。随所に良いプレーを見せているが、得点、アシストともにまだ一度も記録していない。
この日の久保にスペインメディアは賛辞を惜しまなかった。クラブの地元紙「エル・ディアリオ・バスコ」は、「最高の久保を思い出させたスター選手の試合だった。電光石火の動き、決定的な役割、制御不能なパフォーマンス。強烈なシュートを放ち、オヤルサバルが2-0にして試合を終わらせるべきだったカウンターを仕掛け、後半開始直後に完璧なパス出した。さらにCKからシュートを狙い、違いを生み出した」と大絶賛し、最高の5点を与えた。ほかにイゴール・スベルディアとナイフ・アゲルドのセンターバックコンビと、決勝点を決めたベッカーが最高点だった。
もう1つの地元紙「ノティシアス・デ・ギプスコア」は久保をベストプレイヤーに挙げ、「右サイドで短剣となり、すごい試合をやり遂げた。プレッシャーをかけ続けただけでなく、彼の電光石火の動きやモチベーション、閃きのおかげで試合の流れが変わった。CKからのシュートを外したのは残念だった」と評し、アゲルドと並びほぼ満点の9点(最高10点)。全国紙の「マルカ」「AS」も最高の3点をつけていた。
スペインラジオ局「カデナ・セル」でバルセロナ番を務めるリュイス・フラケル氏が久保建英を称賛【写真:高橋智行】
■バルサ番記者も指摘「ベストと言える場所」
試合後に話を聞いたバルセロナの番記者も久保を高く評価。スペインのラジオ局「カデナ・セル」でこの試合を実況したリュイス・フラケル氏は次のような感想を持っていた。
「久保は今日、本当に素晴らしい試合をしたと思う。スペイン内外で結果を出している強豪相手にゴールこそ決められなかったが、彼のハードワークや作り出した数々のチャンス、無尽蔵のスタミナに支えられてプレッシャーをかけ続けたことにより、ラ・レアルの大きな武器となり、バルサを大いに苦しめた。実際、私たちも中継で久保をMVPに挙げたんだ。彼は今日、文句なくラ・レアルで最高の選手だった」
またフラケル氏は久保がバルセロナ戦で活躍できた要因として、ソシエダ加入が鍵になったことを強調した。
「久保は輝きを放つための理想的な環境を、レアル・ソシエダでようやく手に入れることができた。レアル・マドリード移籍は彼が期待したようなものにはならず、ラ・レアルに辿り着くまでにいくつものチームを転々とせざるを得なかった。そうした苦労や努力の甲斐あって、彼はここで今、私たちみんなが“久保ならそうなれる”と感じている姿になれることを示しているし、そうなるために必要な、ベストと言える場所を見つけることができたと思う」
ここに来て昨季前半戦のようなトップフォームを取り戻しつつある久保はバルセロナ戦後に、「今年を良い形で締めくくりたい」と語っていた。その願いを叶えるためには、チーム一の長距離移動を余儀なくされる年内最後の代表戦で、フィジカル面に大きな問題を抱えることなく戻ってくることが必須となるだろう。
チームはこの後、代表ウィークを経て、21日にスペイン東部の洪水被害により延期された国王杯1回戦ホベ・エスパニョール戦、24日にラ・リーガ第14節アスレティック戦、そして28日にUEFAヨーロッパリーグ(EL)リーグフェーズ第5節アヤックス戦と、短期間で負けられない試合が続く。特にバスクダービーと欧州の古豪相手に久保の力は必要となるため、万全の状態でチームに復帰できるかどうかが鍵となる。(高橋智行 / Tomoyuki Takahashi)
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