1人の選手で「日本人の評価は激変」 欧州組急増のキッカケ…代表OBが挙げる“革命児”の存在【インタビュー】
FOOTBALL ZONE / 2024年11月14日 18時30分
■【専門家の目|大津祐樹】日本人選手の渡欧急増の背景を考察
今や日本人選手が欧州でプレーすることに違和感を覚える人物は誰1人としていないだろう。むしろ、日本代表に定着するうえで、1つのノルマになりつつある。一方で、Jリーグで活躍していたひと昔前の代表メンバーが海外挑戦に及ばなかったかといえば、そうではない。日本人選手の渡欧が急増した背景には、欧州市場における評価の“革命”があった。では“革命児”は誰か? 元日本代表FW大津祐樹は、栄光の背番号「10」の名を挙げた。(取材・文=城福達也)
◇ ◇ ◇
現在、80人以上の日本人選手が欧州リーグで戦っている。マンチェスター・シティやFCバルセロナといった世界最高峰のビッグクラブを相手に日本人選手がインパクトを残すのは、ひと昔前では一大事件の扱いだったが、現在に至ってはそれほど驚くことがなくなった方々も多いのではないだろうか。それほど、日本人選手は欧州の舞台に溶け込みつつある。とりわけここ10年間ほどで、欧州クラブにおける日本人選手の評価に変動が起こった印象だ。
「1番は海外のマーケットで価値がついたこと。日本市場よりも欧州市場のほうが金額面で上回るようになってきた。僕らの世代の代表メンバーは、日本よりも欧州のほうがマーケットプライスが低かったから移籍しないという部分が大きかった。当時はJリーグで活躍すれば代表の主力になれることもあった。代表に選ばれるというのはステータスになる。海外に挑戦しなくても代表で戦えて、海外よりも日本でプレーするほうが年収が高かった。海外に挑戦する=年収を落とす、というのがベースになっていた」
大津氏が日本代表に初選出されたのは2013年。当時はオランダ1部VVVフェンロに在籍していた。すでに代表メンバーには、本田圭佑、長谷部誠、岡崎慎司を筆頭に、華々しい海外組が顔を揃えていた。当時から欧州でプレーする選手たちが主力を張っていた一方、Jリーグ組もレギュラーとして活躍していた。しかし、現在の代表は主力全員が海外組。ただ、欧州クラブに在籍しているだけでは事足りず、戦力として結果を残してる者だけが招集されるハードルの高さにまで到達した。日本サッカーにとってまさに変革の時代だ。
「15年くらい前までは、日本人は海外でプライスがついていなかったから、若い選手しか海外で挑戦しなかった。でも、その若い選手たちの何人かが海外で活躍できて結果を残し始め、その選手たちがベテランになり、代表を引っ張る存在となる。彼らを模範に若い選手たちの多くが海外に挑戦するようになる。そうなると、若手ではない選手たちも、代表に選ばれるために海外で挑戦するマインドになる。今の日本代表には、そういった循環が生まれている」
大津祐樹氏が日本人の欧州行きについて話した【写真:Football Assist】
■日本代表の”新基準”が生んだ「相乗効果」
当時は25~26歳から海外に挑戦するといった事例が多くはなく、日本で立場を確立していれば、そのまま日本でプレーするというキャリアの描き方がスタンダードだった。一方で、現在は海外でプレーし、なおかつ結果を残していることが代表選出の基準となりつつある。そのため、日本でキャリアのピークを迎えている選手たちも、海外挑戦の選択肢を選ぶようになる。
今夏に自身初となる海外挑戦を決断したFW大橋祐紀が良い例と言えるだろう。28歳にして、サンフレッチェ広島からイングランド2部ブラックバーンへの移籍を決断し、即座に結果を残したことで、今年10月に日本代表の初招集が叶った。
「当たり前だが、選手であれば全員、日本代表になりたい。日本で結果を残しているだけでは、代表に定着できない。だから海外に挑戦する。このサイクルは、個人的にはポジティブなサイクルだと思っている。今まで海外に挑戦してきた層が結果を残し、海外でプライスをつけてくれて、新たに有望な選手たちが海を渡ってまた結果を残してくる。日本代表にとって素晴らしい相乗効果となっている」
一方で、ひと昔前の代表メンバーにとって海外移籍は高き壁であったかといわれると、そういうわけではない。あったとすれば、それは実力面ではなく、待遇面の壁だ。欧州市場には、まだ日本人選手を評価する土俵がなかった。
「強調しておきたいのが、当時の代表選手たちが海外で戦えなかったと言うわけでは決してないということ。ここだけは勘違いしてはいけない。海外で通用する選手たちも非常に多かったと思う。当時は、わざわざ海外挑戦の選択肢をとる必要がなかったということ。日本代表の主力としてプレーできている立場で、年収ダウンしてまで海外のオファーを受けるというのは、実際に大きなリスクではあったと思う。欧州で日本人選手の評価が低かったというのがすべてだった」
■「真司くんのおかげで、僕はドイツに移籍できた」
では、欧州市場で日本人選手の評価が覆るきっかけはなんだったのだろうか。答えは即答で返ってきた。「間違いなく真司くん。真司くんのおかげで、僕はドイツに移籍できた」。“革命児”に挙げたのは、日本代表で背番号「10」を身につけていたMF香川真司の名だった。
「もちろん、中田英寿さんを筆頭に、先駆者として欧州への道筋を切り開いてくれたレジェンドは数多くいる。その中でも、真司くんの存在は非常に大きかったと思う。日本人のマーケットプライスを高めた立役者なのは間違いない。真司くんがドルトムントで圧倒的な活躍を示したことで、ドイツ国内における日本人の評価は激変した。こうやって誰かが欧州で活躍すれば、日本人全体の評価も高まって、あとに続くことができる」
2010年にボルシア・ドルトムントに移籍した香川は、加入直後からチームの顔となる活躍でリーグ優勝の立役者に。日本からやってきた無名のヒーローに、ドイツ国内だけでなく世界が衝撃を受けた。香川がブンデスリーガにおける日本人選手の価値を飛躍的に高めた影響もあり、翌年の2011年に大津の元にボルシアMGのオファーが届くことになった。
それから十数年の時を経て、欧州全域で日本人選手が活躍する時代へと突入している。「ここ数年間はベルギーで活躍する日本人選手が増えたことで、マーケットがさらに拡大した。プレミアリーグで三笘選手や遠藤選手が活躍することで、イングランド内でさらに日本人がリストに載るようになる」。大津氏は、さらなる日本人選手の躍進を見据えていた。(城福達也 / Tatsuya Jofuku)
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