主将倒れ涙…元Jリーガー導いた名門校の「復活」 凋落から15年、やっと掴んだ選手権
FOOTBALL ZONE / 2024年11月17日 8時1分
■かつての高校サッカー界を席巻した「カナリア軍団」帝京高が選手権出場
帝京が冬の高校サッカーに帰ってくる。全国高校選手権の東京大会決勝が16日、東京・駒沢競技場で行われ、Aブロックで帝京が国学院久我山に2-1(前半1-1)と逆転勝ち。70~80年代に高校サッカー界を席巻した「カナリア軍団」が、15大会ぶりに35回目の全国大会出場を決めた。
ようやく掴んだ選手権切符。終了のホイッスルとともに帝京主将の砂押大翔(はると、3年)はピッチに倒れこみ、涙を流した。「15年ぶりに出場権が獲得できて嬉しい」。復活までの長い道のりを表すにように、この日も苦しい試合だった。
国学院久我山は昨年、一昨年と準決勝で敗れている相手。一昨年は2-3の逆転負け、昨年はPK戦の末に選手権への道を閉ざされた。「悔しい思いをしてきたけれど、今日は相手が久我山だということを意識しないようにした」。砂押はそう言って試合を振り返った。
前半18分に先制を許し、同34分にFW森田晃(3年)が同点ゴールを決めて1-1で前半を終えた。ピンチをしのぎながらも終了間際の後半39分に得たPKを土屋裕豊(3年)が決めて勝ち越し。その後も猛攻に耐えての勝利。就任1年目の藤倉寛監督は「今年1番の試合でした」と選手を称えた。
かつて、国立競技場で躍動するカナリア色のユニホームは「冬の風物詩」でもあった。74年度に選手権初優勝、開催地が首都圏に移行した2年目の77年度に2度目の大会制覇を果たすと、その後も常に上位に食い込み高校サッカー人気を牽引した。選手権優勝6回は国見(長崎)と並ぶ戦後最多タイ。もっとも、その栄華は長くは続かなかった。
Jリーグ開幕を控えた91年度、四日市中央工との両校優勝(当時はPK戦決着なし)を最後に、頂点から遠ざかった。東福岡に雪の決勝戦で敗れた98年度以降はベスト4にも残れなかった。それどころか、09年度を最後に選手権の舞台を踏むことさえなかった。
復活を託されて15年には元Jリーガーの日比威氏が監督に就任。現役引退後にマネジメント会社に務め、裏方としてトップ選手の海外移籍やJクラブの遠征などに携わってきた異色の監督が、チームを変えた。
もともと、帝京サッカーの強みは「堅守からの速い攻め」だった。全国から集まったタレントを猛練習で鍛え上げ、強靭なフィジカルとメンタルで相手を圧倒する。昭和の時代は主流だった「蹴って走る」サッカー。日比監督が最初に取り組んだのは「脱帝京サッカー」だった。
「パスをつなぐサッカー」を掲げてスタイルを一新。それまでの朝練を廃止し、長かった練習時間も90~120分に抑えた。選手の自主性を重視し、練習準備や部活掃除など雑用は1年生ではなく2年生に任せた。そして何よりもサッカーを「楽しむ」ことを大事にした。
■昨年限りで退任した日比監督の後を継ぎ、98年度準優勝時の主将がチーム指揮
今の高校生は、かつての栄光は知らない。「帝京」の名で入部してくる選手もいない。高校選びで重視するのは選手権の成績ではなく「どのリーグ所属か」。15年には東京都リーグだったチームは日比監督就任4年目でプリンスリーグに昇格。東京都の高校で唯一のプリンスリーグチーム(当時)となり、選手が集まるようになった。
21年には高校総体への出場を果たし、22年には準優勝で日本一まであと一歩と迫った。しかし、選手権出場は遠かった。日比監督は昨年限りで退任し、母校でもある順大の監督へ転身。98年度準優勝時の主将だった藤倉寛氏があとを託された。
藤倉監督は日比監督の築き上げたスタイルを踏襲しながら、少しずつ変化も加えた。パスでの局面突破に加えてサイドからクロスも増やした。この日同点ゴールを決めた森田は「みんなはうまいけれど、僕は泥臭いプレーしかできない。クロスが増えたのは僕には良かった」と話した。
ミーティングでメンタルも変わった。砂押主将は「勝つことは義務ではなく欲求、と言われたのが響いた」という。これまでの「勝たなければ」がシンプルに「勝ちたい」に変わった。「日比監督がベースを作ってくれた。藤倉監督がメンタルな部分を強くしてくれた」と2人に感謝した。
藤倉監督自身は「僕は何もしていないので」と話し「日比監督のおかげ。受け継いだバトンを落とさなくてよかった」と、謙虚にいいながら笑顔を見せた。就任1年目で選手権キップ。「15年ぶりというのは意識しないで臨みたい」と全国を目指して話した。
選手権6回、高校総体3回、カナリア色のユニホームの左胸には「日本一」を表す9個の星が輝く。91年度の選手権制覇から33年、02年の高校総体優勝からも22年経つ。「選手権優勝しか掲げていません」と砂押主将。15年ぶりの選手権舞台で、10個目の星を手にするための戦いに挑む。(荻島弘一/ Hirokazu Ogishima)
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