57歳で現役の三浦知良が“引退”に触れた瞬間 20年前…吐露した率直な心境「あと2、3年」【コラム】
FOOTBALL ZONE / 2024年11月17日 20時30分
■【カメラマンの目】京都でプレーしていた三浦知良が自身の引退に言及していた
11月11日、国立競技場で行われたJFL第28節クリアソン新宿対アトレチコ鈴鹿の試合後、報道陣が待つミックスゾーンに三浦知良はスーツ姿で現れた。残念ながら試合には怪我のためメンバー外となったが、カズは報道陣の前に立ち、現役選手として来シーズンも鈴鹿でプレーすることを明言した。
来シーズンを戦うカズは58歳になる。常識的に考えれば、プロ生活40年を数えることになる選手が存在するのは驚きでしかない。そして、本人であるカズ自身でさえ30代前半のころは、ここまで現役を続けるとは思っていなかったのだ。それを裏付けるエピソードがある。
1999年12月30日ブラジルのサンパウロ。友人のブラジル人カメラマンから連絡があり、カズがブラジルに来ていることを知らされた。翌日の大晦日に地下鉄リベルタージ駅の広場で行われる、日系人たちのイベントに参加する前のこの日、カズが話を聞かせてくれるから来ないかと誘いを受けた。指定された場所はカズの知り合いだったのか、東洋人街にある日系人が店主を務める土産屋で、その2階で話を聞くことになった。
当時のカズはブラジル、イタリアに続く海外でのプレーとなったクロアチアの地から帰国し、京都サンガのユニフォームに袖を通していた。年齢は32歳。いま振り返ると、純白のシャツに黒のジャケットを羽織って現れたカズ(翌日の日系人のイベントではジャージ姿だった)との会話で、もっとも興味深いものになるのは、彼のサッカー選手としての行く末について語った言葉だ。
「レベルを落とせば37、38歳くらいまではできると思う。でも自分のなかでイメージしているサッカーがある。トップレベルのサッカーができるのはあと2、3年くらいかな」
そう、カズは話していた。このときのカズは自分の現役生活は、長くても30代後半までと考えていたことになる。たとえ30代で幕を閉じたとしても、15歳から始まったサッカーで世界を目指すカズの挑戦は、十分に成功の物語を紡ぐことができたと思う。
「15歳でブラジルに来たとき、日本人がサッカー選手の格好をしているだけでよく笑われた。24時間バスで移動したり、デコボコのグラウンドで試合をしたり、19歳でサントスでプレーしたときも全然ダメで、メチャクチャ批判された悔しさとか、世界レベルでプレーした自信とか、ブラジルは色々な意味で自分のプロサッカー選手としての原点だよね」
ジュベントスに始まりキンゼ・デ・ジャウーでのプレーを経てサントスFCへ。それからマツバラに移籍し、そしてCRBにキンゼ・デ・ジャウーと渡り歩きコリチーバでもプレーする。そして、再びサントスFCへと返り咲く。カズがサンパウロ州の名門サントスFCでプレーしていたことは良く知られているが、彼は実に多くのクラブを渡り歩いている。
カズがブラジル各地でプレーしたことを実感する出来事を、自分も経験している。2000年のオリンピック・シドニー大会の南米予選は、ブラジルのパラナ州ロンドリーナ市で集中開催されたのだが、この激戦を取材したときのことである。
最終日の取材を終えて、ホテルに帰るために乗ったタクシーのドライバーから「カズはいまどこでプレーしている」と聞かれた。どうしてそんな質問をするのかと尋ねてみると、ドライバーはかつてカズが所属していたコリチーバで一緒にプレーした元選手だった。
■プロとしてのあるべき姿を体現
そして、カズは多くの困難とも向き合ってきた。ブラジル時代のカズの写真を撮り続けていた、サンパウロ在住のカメラマンの方から色々なカットを見せてもらったことがある。ピッチ、練習でのプレーや、プライベートなものまでさまざまなポジフィルムを見せてもらった。そのなかにはホテルのフロントだろうか、所属チームが決まらずこのときばかりは写真に撮られたくなかったのか、ソファに深く座りサングラスをかけたままの笑顔のないカズが切り取られていた。
そうした挫折や困難を「我慢、チャンスを絶対に掴むという気持ち」を持って乗り越え、選手として成長していく。サントスFCに帰り咲いたときのプレーをライブで見たブラジル人からは、パルメイラスとのクラシコで相手DFに尻もちをつかせる鋭いフェイントで観衆を沸かせ、1得点1アシストを記録した試合(2-1でサントスFCが勝利)のことを何度も聞かされた。
クラシコという特別な試合での熱狂のなかで、日本人プレーヤーがブラジル人DFをきりきり舞いさせたプレーに思いを馳せ、実際に目にしたわけではなかったが、その言葉に興奮した。
「プロとしてお金は結果として求めないとダメだけど、なによりサッカーを愛する気持ちがないとダメだと思う。サッカーを愛する気持ちがあれば、どんな苦しいときでも頑張れる」
この約四半世紀前にカズが口にした、サッカーに対する情熱はいまでも不変で、彼の心のなかにある。あるからこそ、選手としてのカズがいる。
世界でも例外的なこの年齢まで、現役のサッカー選手を続けることには賛否がある。ピッチに立つために肉体的な衰えを厳しい自己管理で乗り切ろうとする絶え間ない努力と、強い精神力を持って現役であり続ける姿に感銘を受ける人間がいる。しかし、その一方で、日本サッカーの発展に大きく貢献した、キングカズの衰えは見るに堪えないという人もいるだろう。
日本サッカーが発展する黎明期を牽引した全盛期のころと違い、いまのカズがピッチでできることはほとんどない。だが、サッカー選手としての限界はほかの誰でもなく、自らが決めればいいことだ。
あくまでも個人的な評価だが、これまでのすべての日本人プロサッカー選手のなかで、もっともプロとしてのあるべき姿を体現しているのは誰かと問われれば、迷うことなく三浦知良だと答える。
この自分のなかに宿る評価は、きっとこれからも不変であり続けると思う。(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)
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