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仮契約中のJクラブから「行っていい」 寝ずに悩んだ欧州移籍…19歳が捨てた慶応ブランド【現地発コラム】

FOOTBALL ZONE / 2024年11月22日 7時30分

■ズヴォレとのカップ戦でGKの逆を突いてニアサイドをぶち抜く初ゴールを決めた

 NECに移籍して2か月。オランダ1部NECナイメヘンのU-19日本代表FW塩貝健人が10月30日、KNVBカップ1回戦のズヴォレ戦(4-3)でチームを勝利に導く勝ち越しゴールを決めてヒーローになった。2-2で迎えた延長前半13分、ドリブルで敵陣右ハーフスペースを突いた19歳のストライカーは、クロスを上げるような姿勢からノールックでシュートを放った。完全に裏をかかれた相手GKヤスパー・スヘンデラールは、ニアポストへ吸い込まれていくシュートを見送るしかなかった。

 本人が「ファーストタッチの時点で『打てるな』と思ってました。コースが空いていたので思いっきり打ちました」と語った、狙い通りのゴールだった。その豪胆さに、後半33分から2トップを組んだ日本代表FW小川航基は「中にクロスを入れるキックの体勢をしていたから『クロスを上げるのかな』と思ったらシュートを打ったんで、逆を突かれましたね。みんな『えっ!!』と思った」と驚いていた。本人は、オランダ初ゴールを報告するインスタグラムに「#狙った」と投稿した。

 塩貝は、延長戦で雌雄を決することになったズヴォレ戦で44分間というまとまった出場時間を手にしたものの、オランダリーグでは6試合に出場して平均12分間のプレーに留まっている。それでも、ほぼ毎試合見せ場を作っているのは、塩貝の非凡なところ。10月19日の対ヘーレンフェーン戦では、得意の走力でマークを引き離して右ハーフスペースを突き、完璧なクロスをFWロベールのヘッドに合わせた(ロベールのシュートはGKの好セーブにあった)。

 このとき、MF佐野航大は塩貝のビッグプレーにこう賛辞を送っていた。

「“あのプレー”をオランダリーグで自分の強みとしてどんどん出せているところに僕はもうリスペクト。すごいなっていう思いしかないです。(NECに入団して最初の半年間)俺は全然、試合に出てなかったですし。ああいうプレーを、ピッチに入ってから平気でやっちゃうところが、健人は凄いと思います」

■NECナイメヘン移籍の秘話「早慶戦の1週間、2週間くらい前に話が来て」

 ズヴォレ戦の後、塩貝に「もう少し出場時間が欲しいのでは?」と聞いてみた。

「いや、自分の練習の調子が良ければちゃんと機会をもらっているし、逆に悪かったら全然出してもらえない。出番は本当に自分次第なんで」

 しかし、練習でのパフォーマンスは良い、という情報もある。

「間違いなく波がありますし、監督の信頼をまだ得られてない。言葉のところもそうです。ここからいろいろなことをやらないといけない」

 塩貝が成田発アムステルダム行きの飛行機に乗ったのは、8月25日に行われた早慶定期戦に出場した2日後のことだった。NECナイメヘン移籍目前の早慶戦出場は、彼なりのケジメだったのだろうか? 彼の答えは思わぬところへ飛んだ。

「あの期間はめっちゃ悩んでいたんです。早慶戦の1週間、2週間くらい前にここ(NEC移籍)の話が来て……。急な話だったし、ホント、いろいろ大変なことがあって、寝ずにずっと考え込んだりしてました」

 人生で一番悩んだ時期かと問うと、即答した。

「間違いなくそうです」

「NECに来てよかったですね、今日はヒーローです」と声をかけると、塩貝は「いやいや」と言って、2ゴールを決めた小川に目配せした。さらに「プレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたのは塩貝選手ですよ」と続けると、彼は「そうなんですか? いろいろ手放すものが多かったので」と口にした。そして、話は「早慶戦前の悩みの時期」に戻った。

 塩貝が日本で手放してきたものとはなにか?

■「マリノスで結果を残してから行きたい気持ちもありました」

「それこそ自分は大学生だったので、慶応大学というブランドを捨ててこないといけないし、(特別指定選手だった)横浜F・マリノスとの仮契約もあった中で、最初から『海外クラブからオファーがあったら行っていいよ』と言われてました。それでも、マリノスで結果を残してから行きたい気持ちもありました。かといって、こういう話がいつ、どこで来るかも分からない」

「目の前のチャンスは掴め」というサッカーの格言もある。

「そうです。『どっちが後悔しないか』と考えてこっちに来ました。言葉の壁とか、家族や友だちと会えないとか、いろいろなことがあるんですけれど、そういうことがあるから頑張れます。こっちに来て良かったです」

 移籍を決断する前には、2歳年上の佐野からアドバイスをもらった。

 佐野はこう明かす。「『サッカーに集中できる環境だし、ファンは温かいし、みんなが優しく受け入れてくれる。最終的には自分で決めることだから、自分のしたいようにしてほしい』というのは言った。自分が若くしてここに来て良かった部分も伝えた。それが、健人が決めるきっかけになったんであれば良かったと思います」。

 今、日本人ルーキーはロヒール・マイヤー監督のもと、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を実戦で積みながら、オランダのサッカーに馴染もうとしている。『言葉の壁』に関しては小川と佐野が通訳をすることもあるが、小川はこう証言する。

「健人は準備してきたからすごく喋れますよ。シャイなだけで(笑)」

 確かに塩貝の人間像はシャイに思える。しかし、ピッチの上では相手DFの群れの中を、直線的なドリブルで切り崩したり、思わぬタイミングでヒールキックを繰り出し局面を打開したり、迷いなきプレーで人目を引く。

 ズヴォレ戦では塩貝がピッチに入ってから小川の2ゴールと塩貝自身のゴールが生まれた。小川は言う。

「点が欲しいところで健人が入って2トップになって、あれだけ点が生まれたというのは監督にすごくいい印象を与えることができた。2トップというオプションが今後たくさん出てくると思ってます」

 小川との2トップ――。塩貝にとって、これこそ何ものにも代えがたいOJTになるだろう。(中田 徹 / Toru Nakata)

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