国立決戦で苦戦、選手も吐露「苦しかった」 “横綱相撲”ではないJ王者…V奪取成功の要因【コラム】
FOOTBALL ZONE / 2024年11月24日 18時10分
■天皇杯Vの神戸、G大阪との関西対決で強いられた苦戦
天皇杯のファイナルらしく、引き締まった試合展開のなかで、決勝点は実にヴィッセル神戸らしい形から生まれた。後半19分、ガンバ大阪陣内で得た左のスローインを初瀬亮がゴール前に入れる構えから、後方に向けて投げる。そのボールを左センターバックのマテウス・トゥーレルが受けて、右センターバックの山川哲史とのパス交換でG大阪のプレスを外しながら、GKの前川黛也に戻した。
「僕自身、すごくミドルやロングに自信があるので。ああいうところのキックは日々の練習からのところと味方との共有で、すごく良いボールが供給できた」
そう振り返る前川からのロングキックを受けに行ったのが、井出遥也に代わり、後半14分から投入された佐々木大樹だった。この局面ではFWの大迫勇也とMFながら空中戦に強い佐々木が、前線の中央でダブルターゲットのようになっていたが、佐々木は「基本的には途中から入ることが多いので、ああいったシーンでは僕が競ることが多くなるかなと思います。ボールの状況によって、サコくん(大迫)と目を合わせながらですけど」と語るとおり、G大阪DF中谷進之介と率先してバトルに行くことで、大迫が手前でフリーになっていた。
前川からのロングキックは結果として佐々木ではなく、ディフェンス側の中谷がボールを触ったが、佐々木の圧力によって下がりながら十分な形でクリアできず、大迫がボールを回収した。ここで経験豊富な大迫が見事だったのは、ただ単にボールをキープするのではなく、中谷と右サイドバックから中に絞ってきた半田陸に対して、スクリーンをしながらターンで、左スペースを走る武藤嘉紀に前向きなパスを通したことだ。
ここから武藤はファーストコントロールで角度のないシュートに持ち込もうとするが、GK一森純が素晴らしい対応でニアを切ってきたことにより、武藤のシュートコースが消されてしまった。それでも「正直フリーでしたけど、キーパーの出足が良く、コースがあんまりなくて。誰か(中に)いてくれ。こぼれたらいいな」という思いで左足を振ると、一森を破ってゴール前に行ったボールがカバーに入っていたDF福岡将太の左足に当たって、武藤の望みどおり、ファーサイドから走り込む宮代大聖のもとにこぼれてきた。
殊勲のゴールを右足で流し込んだ宮代は「最初、サコくんがヨッチくん(武藤)に出したあと、中でもらおうと思ったんですけど、ヨッチくんがシュートを選択したので。結果それがゴールにつながりましたし、そこで受けようとしたことで、ポジションを取れたと思う」と語る。佐々木が投入されたあとのスタートポジションは大迫が1トップで宮代が2列目の中央、左に佐々木、右に武藤という並びだが、攻撃的な選手が流動的にポジションを変えながらゴールに迫れるのが神戸の強みでもある。
この局面の直前、大迫の手前で宮代がうしろからのクリアボールをヘディングで前に落とし、ボランチの扇原貴宏が蹴ったボールに大迫と武藤が走るシーンがあり、直後のスローインからの流れで宮代が武藤に代わり右サイドに回るポジション取りをしていた。そこから前川のロングキックに合わせて、スプリントでゴール前に走り込んだ結果のゴールだったのだ。宮代は「感覚的な部分もありますけど、仲間を信じてどれだけ走れるかとか。サコくんだったらこういう動きするだろうなとか。そういう積み重ねで、自分は感覚的な部分で入っていく」と主張する。
チームの強みを活かしてゴールを奪った【写真:徳原隆元】
■迫力あるフィニッシュで決勝点、神戸が持つ大きな強み
結果的に宮代がこぼれ球を押し込む形となったが、前川のロングキックに潰れる形でボールをつないだ佐々木も体勢をすぐに立て直して、宮代のすぐ外側に入ってきていた。吉田孝行監督も「前半から自分たちのサッカーはそこまで出せなかったですけど、我慢強くやろうと。しぶとく、自分たちらしく勝負できた」と振り返る厳しい試合展開で、1つ違ったらG大阪側に勝利の女神が微笑む可能性も十分にあった。しかし、自分たちの流れにならない時間帯も耐えながら、ここぞという時に矢印をゴールに向けて、迫力あるフィニッシュを実現できるのが、神戸の大きな強みの1つだ。
「いやもう本当、我慢する戦いでした。ガンバも非常に良いサッカーして、非常に前半は苦しみましたけど、そこで焦れずに戦えたっていうのは良かったかなと思います。ゼロに抑えてれば、必ず自分たちのチャンスもきますし、そういうところで一発仕留められるか。そこで今年は勝ち点を積み重ねてきた」
天皇杯のファイナルという大舞台でヒーローになった宮代は相手の強さを認めながら、接戦をものにする神戸の強さをそう表現した。その宮代もJリーグ連覇という大目標が残されていることを認識しており、まだシーズンが終わっていないことを強調していたが、G大阪という好敵手を相手に1つ、神戸の強さを証明する形で、天皇杯のタイトルを勝ち獲った。(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
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