J1強豪から突如オファー「びっくり」 デビューわずか1年…J2なのに「見られているとは」【インタビュー】
FOOTBALL ZONE / 2024年11月25日 6時50分
■鹿島MF三竿健斗が振り返る幼少時代とプロ入りまでの過程
東京ヴェルディの下部組織育ちで2015年にトップチームに昇格した元日本代表MF三竿健斗は、高校卒業後に当時J2だった東京Vでプロデビュー。その後、鹿島アントラーズへ移籍した。鹿島でも台頭してクラブ史上最年少でキャプテンも任されている。約1年半の欧州でのプレーを経て今夏、鹿島に復帰すると、本職のボランチやセンターバックだけでなく、右サイドバックでもプレーしてマルチロールぶりを示している。そんな三竿はどのような幼少期を過ごしてきたのか。その半生を辿る。(取材・文=河合 拓/全5回の1回目)
◇ ◇ ◇
三竿がサッカーを始めたのは、日本ではなかった。父の仕事の関係で5歳までカナダで生活をしていた。サッカーを始めたのはちょうどその頃だ。「父が大学までサッカーをやっていて、その影響で5歳上の兄・雄斗(現京都サンガF.C.)もサッカーをしていました。僕も気づいたらサッカーを始めていたんです。カナダは結構、サッカーが盛んで僕も2歳頃からチームに入ってやっていましたね」。
日本に帰国してからも常にサッカーは身近にあった。自身もサッカーをプレーしながら、試合がない日にはJリーグ観戦に出向いた。「鹿島アントラーズの試合をよく観に行っていました。天皇杯の決勝も、5歳で帰国してからは毎年、家族行事で行っていました」。これだけでも十分にサッカー好きの家庭ということが伝わる。だが、三竿家の場合は4年に一度のワールドカップ(W杯)の観戦も恒例行事だった。
「1998年のフランスW杯と2002年の日韓W杯は家族で観て、2006年のドイツW杯は父と2人で行きました。フランス大会の時は、僕はまだ2歳くらいだったのでスタジアムには入っていないと思うんですけど、父が熱心でチケットに応募して買ってくれていましたね。日韓W杯の時はグループステージの日本戦全部、あとナイジェリア対アルゼンチンとか、何試合かを観ました。父は1人で決勝トーナメントの日本対トルコも観戦して、決勝戦も父と兄が行っていましたね」
ドイツW杯では、ジーコジャパンが衝撃的な逆転負けを喫したオーストラリア戦をゴール裏で観戦。三竿は、「そういう機会をたくさん与えてくれていたので、学校の課題で将来の夢を絵で表現する時には、大体アントラーズのユニフォームか、日本代表のユニフォームを描いていました。小さい頃から自然と将来はプロサッカー選手になるという意識があったのかなと思います」と原点を振り返る。
東京都武蔵野市で育った三竿。幼少期から贔屓にしていたのは地元のクラブではない。「東京ヴェルディの下部組織に入るまでは、夏休みに父と2人でカシマスタジアムまで行ってゴール裏で応援していた」と公言するほど、“鹿島贔屓”になった経緯をこう振り返る。
「天皇杯の準決勝とか、決勝を見に行くと、大体、鹿島が勝っていましたからね。自然と見に行く機会が多かったんです。やっぱり子供ながらに強いチームに対する憧れがありました」
三竿がカナダから帰国したのは2001年。そこから東京Vジュニアユースに入る2009年までの鹿島は常勝軍団として席巻。特に帰国直後の2001年、02年、鹿島はすべての大会で上位につけており、自然と惹かれていったのだという。
スタンドで「ただ応援して鹿島が勝ったら嬉しい、負けたら悔しい」という感情を抱くいちサポーターとして試合に熱中する傍ら「観ている人は応援するチームの勝つ試合を見たい。勝つことの大切さ、サポーターが何を望んでいるかっていうのは、観戦を通して感じました」と、当時へ思いを馳せる。
兄・雄斗とは鹿島でも同じピッチに立った【写真:Getty Images】
■「プロ選手になる」夢追う過程で大きかった兄の存在
2015年にプロデビューを飾り、そこからちょうど10年目を迎えた。いつしか自然と抱いた「プロサッカー選手になる」という夢を叶える過程で、5つ上の兄・雄斗の存在は大きかった。
「兄が中学生になるまで、小さい頃はずっと兄のうしろにくっついて行っていました。兄の試合を見に行って、試合中は端っこでボールを蹴ったり、兄のチームメイトの弟と一緒に遊んでいました。兄ができることは、自分もできるだろうっていう感じで、ずっとうしろを追いかけていましたね」
兄と1対1をしたり、人数がいる時はミニゲームもし、時には父と公園に行って3人でボールを蹴っていたという三竿は、「兄がいたから自分も意識高くやれていた。すごく良い背中を見せてくれた」と感謝し、漠然とした憧れを明確な目標に変えてくれた存在だったと語った。
「常に先を行ってくれていたので、兄が行くレベルが自分にも身近にあって自分もそこを通るのが当たり前というか、そうやって進んでいくものだって認識させられていました。兄がヴェルディのユースに入った時に、ちょうど僕もジュニアに入れさせてもらいましたが、ヴェルディっていうのは僕らからしたらもうトップ・オブ・トップでした。兄がそこに入ったことで自分も『行きたい。行けるかな』と思わせてくれましたし、プロになった時も『やっていればプロになれるんだ』、プロに入ってからも『十分やれるんだ』というのをお手本になって見せてくれていたので、そのおかげで意識高くやれていたかなと思います」
大学を経由した兄が湘南ベルマーレに加入してプロになった2年後、三竿も東京Vユースからトップチームへの昇格を果たしてプロサッカー選手になった。「やっと1つの目標を達成できた」という感慨がある一方で、「ここから海外移籍を含めてステップアップを視野に入れて、やっていこうという感じでした」と、プロになることは最初の第一歩であることも強く認識していたという。
「ヴェルディのジュニアに入った時から、プロになるのは通過点というか、トップでプレーして海外に行くことが、僕らの中では当たり前でした。それをいかに早く達成できるかを逆算して、練習だったり、自主練だったりをやる環境ができていたので、プロになれたことも、ちょっと嬉しかったですけど『別にそうだよな』っていう感じでした」
東京Vはスクール、ジュニア、ジュニアユース、ユース、トップチームのすべてが、同じ施設に入っており、時間を分けて練習を行っていた。下部組織の選手たちは、自分たちが使うロッカールームからトップチームの練習を見ることができたり、ユースの選手がトップチームの練習や試合に参加したりする環境がある。それが下部組織の選手たちにとっては、大きな刺激になっていた。
鹿島移籍の決め手はレジェンドの存在だったという【写真:徳原隆元】
■J2で39試合に出場したプロ1年目、届いた驚きのオファー
そしてプロになって、わずか1年。J2で39試合に出場した三竿に、待望のオファーが届く。鹿島からのオファーだった。
「びっくりしましたね。カテゴリーも違ったので、そんなに見られているとは思っていなかったので。とにかく『試合に出る』『一生懸命やる』『自分の武器を出し続ける』というのが1年目の目標でした。シーズン終わりにかけて、いくつかオファーはいただいたのですが、『鹿島からもオファーがありそう』ということを聞いた時は意識していなかったのでびっくりしました」
2015年、鹿島はJリーグカップを制覇。MVPには36歳となっていた元日本代表MF小笠原満男が選出されていた。すでに鹿島からの視線を強く意識していた三竿は、MVPに選出された小笠原の姿を見ながらこう思った。
「すごいな。そういう選手たちとやれるチャンスがあるなら行きたい」
タレント揃いの鹿島へ移籍すれば、出番が限られるかもしれない。そんな思いもよぎったが、判断に迷いはなかった。
「厳しい環境に身を置いたほうが成長できる。やっぱりトップクラブなので、毎日、毎日、学べることはたくさんあるだろうし、そこで試合に出ることができれば日本代表にも選ばれるかもしれない」
正式オファーが届いた際には「ほとんど即決」で移籍を決め、小さい頃から憧れていた深紅のユニフォームに、ファンとしてではなく、選手として袖を通すこととなった。
[プロフィール]
三竿健斗(みさお・けんと)/1996年4月16日生まれ、東京都出身。東京ヴェルディ―鹿島アントラーズ―サンタ・クララ(ポルトガル)―OHルーベン(ベルギー)。中盤から最終ラインのポジションをそつなくこなすユーティリティ性が持ち味。キャプテンシーも備え、鹿島ではクラブ史上最年少キャプテンにも抜擢された。(河合 拓 / Taku Kawai)
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