出番なく「俺を使えよ」と反骨も…定位置ライバルへ助言 元日本代表が驚き「すごく魅力的」
FOOTBALL ZONE / 2024年11月27日 11時10分
■引退発表の浦和ベテラン宇賀神友弥に見えた相反する人間性
浦和レッズのDF宇賀神友弥が、11月26日に今季限りでの引退発表記者会見を行った。キャリアの始まる前から抱いてきた反骨心と、ライバルにも惜しまずアドバイスを送る相反する人間性もまた魅力だった。
宇賀神は中学から浦和の下部組織に入ると、ユースからのトップ昇格は果たせず流通経済大へ進んだ。その際に、同じさいたま市のライバルである大宮アルディージャに加入して浦和を倒すと公言していたのは有名な話だ。すでに現在まで続くメンタリティーの片鱗を垣間見せながら、古巣の浦和へ練習参加すると、当時のフォルカー・フィンケ監督に絶賛され入団が決まる。正式デビューイヤーの2010年は、いきなり開幕スタメンも勝ち取った。しかし、キャリアの多くはポジション争いの日々だった。
12年から浦和を率いたミハイロ・ペトロヴィッチ監督の指揮下で実力を伸ばし、多くの試合に起用され日本代表に選出されるまでに至った。しかし、クラブは毎シーズン必ずと言っていいほど左ワイド、宇賀神のポジションの選手を補強した。よりアタッカー型のタイプから、代表経験のあるようなサイドバック、技巧派ドリブラーにアップダウンを厭わないスタミナ型、日本トップクラスの左足キック精度を持つ選手と、これでもかというほどだった。それでも、宇賀神はいつも開幕から5試合から10試合くらいでレギュラーを確立し、毎年ポジションを守った。
それだけでなく、同学年のMF柏木陽介やDF槙野智章へのライバル意識は「とにかくその2人に負けたくなくて、2人が日本代表に入るだけで悔しかったし、2人が活躍すれば嬉しい反面、悔しいという思いが常にふつふつと湧き出ていた」というもの。近い世代のDF森脇良太やMF梅崎司、FW興梠慎三も同じく今季限りで現役を引退するが「刺激を与えあえる人たちの存在で僕は、そういう状況を乗り越えてポジションを守り続けることができた」と話す。
ただし、そのような言葉から想像されるような光景、同世代の選手やポジションを争うような新加入選手たちとピリピリした空気を練習で作ることはなかった。むしろ、柏木や槙野との関係は「周りにはただ本当に仲がいいって思われているだけかもしれない」というものだったし、ライバルに対してペトロヴィッチ監督の戦術やトレーニングの進め方など、積極的にアドバイスを送るほどだった。
左サイドで連携を組んだ関根貴大【写真:徳原隆元】
■仲間であり、競い合える関係を周囲と作り上げたベテラン
浦和ユース出身の後輩でもあるMF関根貴大は、左右の逆サイドに入ることが多かったが時には左サイドで競合した。「ポジションが被っている選手に、これだけアドバイスできるのはなんでだろうとすごいと思っていた」と当時を振り返ったが、「チームのため、その選手のことを思ったらこうしたほうがいいというのがあったのかなと。それは今になったら分かるし、そういったことをしてもらっていなかったら、今も自分はそういう気持ちになれてないのかなと思う。ウガ君の人の良さというか、浦和に対する思いはすごい」と話した。
今夏10年ぶりに浦和へ復帰した元日本代表MF原口元気もまた、出場機会がなくとも練習から100%を出す姿とともに、「まだまだ俺を使えよっていう空気も出しながら、何か選手が困っていたらフランクにアドバイスをする姿、そのバランス感覚がすごく選手として僕は魅力的だと感じた。どっちかに偏っても良くないと思うけど、彼は非常にそこのバランスを取るのがうまい選手だなと最後まで感じていた」と話した。
数年前、宇賀神にその理由を聞いた時の答えは「彼らに実力を発揮してもらえばチームのためになるし、それを乗り越えれば自分がもっと成長できる」というものだった。まさに、それを繰り返してキャリアを積み上げてきた。
そのバランス感覚は、熱狂的で知られる浦和サポーターとの向き合い方でも同じだった。仲間でありながら、厳しい批判を受けたあとの試合でゴールを決めて耳に手を当てるポーズをしたこともある。将来の夢を「浦和のGM(ゼネラルマネジャー/強化責任者)になること」と宣言しているが、会見で「矢面に立つ職業だが、覚悟のほどは」という趣旨の質問を受けると、「何年、浦和でやっていると思っているんですか」と笑った。
宇賀神は「勝手にライバルを見つけるのもちょっと得意かもしれない。この人に負けなくないなとか、それは成長する糧になる」と話す。次の夢に向かう過程でも、こうやって仲間であり、競い合える関係を周囲と作り上げながら歩みを進めていくのだろう。(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)
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