18歳で南米挑戦も「なんだこの小さいGKは?」…突然の解雇通告、救われたコーチの「可哀そうだ」【インタビュー】
FOOTBALL ZONE / 2024年12月5日 8時30分
■「日本のサッカー文化っておかしくない?」…マリンボブ氏が若くして感じた違和感
若くして南米に渡り、異様なサッカー文化を経験した選手がいる。日本代表戦士たちが数多く在籍するヨーロッパとはまた違った“競技”に触れ、現在はピン芸人として活躍するマリンボブ氏(本名:松本磨林/吉本興業)。これまで辿った異例のサッカー人生を紐解いていく。初回は南米の国へ単身で渡った理由について迫る。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也/全4回の1回目)
◇ ◇ ◇
「なんか日本のサッカー文化っておかしくない?」
マリンボブ氏が最初に感じた違和感。それが異国でのサッカーキャリアの始まりだった。埼玉県狭山市出身のマリンボブ氏は、川越初雁高校のサッカー部に所属していた当時、“控え”のGK。「元々海外のサッカー文化がある。そこに日本のサッカー文化をねじ込んでいるというのがしっくりこなくて……。交代のお辞儀もそうですね」と、疑問を抱く。横浜国際総合競技場で行われた2004年トヨタカップ、FCポルト(ポルトガル)対オンセ・カルダス(コロンビア)の決勝戦を見て、コロンビア人GKファン・カルロス・エナオに衝撃を受けた。
「色々調べたら誕生日が一緒だったんですよ。これはもう運命だなと」
そうして憧れの選手に触発され、南米への挑戦を決意する。ただ一方、「コロンビアはさすがに危険すぎる」。そう思ったマリンボブ氏は、18歳でパラグアイへと渡った。
「現地で迎えに来てくれた人の車がまずボロい。左ハンドルですが、タコメーターは右に付いているんです。日本車を改造したものだからですね。最初に、そうした貧富の差に衝撃を受けました。エンジンもかからず、うしろから一緒に車を押したのを覚えています。その一方で、高級車に乗って練習場に来る選手もいました」
そんな国だったが「差別とかはしない。みんな仲良し」な雰囲気だった。「『お金持ちなんだから飯おごって』『やだやだ』というような冗談も飛びます。貧富の差はあっても意外と楽しんでいるんだな」と状況を受け入れた。
パラグアイに行き、GKとしてオリンピアU-20チームのテストから始まる。この日絶好調だったマリンボブ氏は、当時の監督から「日本からアルド・ボバディージャが来た」と絶賛された。2010年南アフリカ・ワールドカップ(W杯)メンバーではあるが、「誰だよ」と、マリンボブ氏は頭の中で突っ込んだ。そうして早速入団が決まったが、出番はそうそう訪れない。U-20チームの第4GKという立ち位置。1つ上のサテライトチームから、若い控えGKが経験を積むためにU-20の試合に出るという厳しい環境が待っていた。
実質5番目のGK。危機感を持ったマリンボブ氏にさらなる試練が起こる。成績不振で監督が退任し、新たにエンリケ・ビジャルバ氏が監督に就任。かつて選手として1979年に同クラブで世界一を取った実力者だが、マリンボブ氏を見るや否や「なんだこの小さいGKは? 日本に帰るか、フットサルチームに行くか選べ」と、突然の解雇通告を言い渡した。
GKからフィールドプレーヤーに転向した【写真:本人提供】
■フィジカルコーチのホセ・オルティス氏へ感謝「わくわくしました」
その状況を見かねたフィジカルコーチのホセ・オルティス氏(現在も同クラブユースのコーチを担当)が「あまりにも可哀そうだ」と、監督に1つ提案を持ちかける。
「日本から1人でパラグアイへ乗り込んで来て、そんな処遇はあんまりだ。俺が面倒を見るから、1か月後、こいつのフィールドのプレーを見てチームに残すか残さないか決めてくれ」
そうして、GKからフィールドプレーヤーへの転向が決まった。「迷いは全くなかった」。元々フィールドが苦手でGKになったマリンボブ氏。「あんなに下手くそだった僕にもできるんだと。わくわくしましたね」と決断の経緯を語る。オルティス氏の家で朝から晩まで、南米パラグアイのサッカーを、ホワイトボードを使って講義を受けた。サイドバック、センターバック、ボランチの基礎を教わる。約半年でGKの夢は途絶えたが、新たなポジションで挑戦を続けた。
監督にも認められチーム残留が決まると、そこから活躍の場を広げる。リーグ4部ウマイタ・フットボール・クラブ、3部ヘネラル・カバジェーロ・デ・カンポグランデとチームを変えながら、南米サッカーに染まっていった。(第2回へ続く)
[プロフィール]
マリンボブ(まりんぼぶ)/本名、松本磨林(まつもと・まりん)。1988年12月30日生まれ、埼玉県出身。オリンピアU-20(パラグアイ)―ウマイタ・フットボール・クラブ―ヘネラル・カバジェーロ・デ・カンポグランデ―サンマルティン(ボリビア)―ラ・マキナビエハ・ミルトン・メルガール―デポルティーボ・アレマン・デ・スクレ。18歳で単身南米へ。GKから半年でフィールドプレーヤーに転身。南米サッカーを8年経験し帰国。現在はピン芸人“マリンボブ”として、スマイラーズ(芸人で構成されたサッカーチーム)に所属する。日々自身のSNSで発信する“南米サッカーあるある”が人気を博す。(FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也 / Kenya Kaneko)
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