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移籍話まさかの破談「そんなの言った?」 “ちゃぶ台返し”で2年無所属…元J選手のアジア挑戦【インタビュー】

FOOTBALL ZONE / 2024年12月13日 6時50分

■【海外組アウトサイダー】ヤングエレファンツFC(ラオス1部)所属・前田凌佑

 欧州1部リーグを中心に数多くの日本人が活躍し、日本サッカーの進化を印象づけている昨今。かたや、海外のほかの地域にも目を向ければ、独自の道を切り拓く日本人プレーヤーの姿がある。FOOTBALL ZONEでは「海外組アウトサイダー」としてそんな選手にフォーカス。今回はラオス1部で新たな挑戦を始めたばかりのMF前田凌佑に新天地決定までの経緯を訊いた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治/全2回の1回目)

   ◇   ◇   ◇

2024年10月27日、MF前田凌佑が約2年ぶりに立った公式戦のピッチは国際試合だった。アジアサッカー連盟(AFC)が主催する第3層のクラブコンペティション「AFCチャレンジリーグ」でシャン・ユナイテッド(ミャンマー)と対戦(ホーム/0-2)。思うように身体が動かず、前半のうちに交代を告げられるほろ苦い新天地デビューだった。

 それでも、「2年分の溜まっていたものを全部出そうという気持ちでした」と前田。東南アジアからの再出発にこみ上げてきたのは、不甲斐なさとは別の感情だ。「サッカーができる喜びを一番に感じています」。

 とはいえ、なぜ競技人生に2年近くのブランクが空いたのか。日本で10年のプロキャリアを築いた。カテゴリーさえ選ばなければ国内のどこかから声はかかっていただろう。

 ヴィッセル神戸ユース出身の前田は、2013年にトップチームに昇格。最初の2シーズンはリーグ戦出場がなくJリーグU-22選抜で試合経験を積んでいたが、15年に就任したネルシーニョ監督(現ポンチ・プレッタ=ブラジル2部)に抜擢されると頭角を現した。

 2017年から2シーズン、大分トリニータへ期限付き移籍すると、19年からは1部へ返り咲いた同クラブに完全移籍で加わった。21年からJ3の愛媛FCに活躍の場を移すも、翌年11月10日に契約満了が発表されている。

 と、ここで前田は国内の選択肢を排し、海外へ渡ることを決断。大分に完全移籍した頃から抱いていた“憧れ”をこう語る。

「オフに海外でプレーする選手から現地の話をよく聞く機会があり、大きな影響を受けたんです。当時20代半ばでしたし、残りのキャリアを考えるとチャンスがあれば挑戦したいと思っていました」

 目指した先は東南アジア。神戸で同期入団だったMF和田倫季(タンジョン・パガー・ユナイテッドFC=シンガポール)ら現地でのプレー経験がある選手たちと連絡を取る度に、生活面も含め興味は増すばかりだった。

■一筋縄ではいかないアジアの海外移籍

「アジアでの海外移籍に関しては、きっちり話が進むケースは稀だと思います。調整した内容も『そんなの言ったっけ?』みたいな返答をされる場面が結構ありましたね」

 代理人が尽力するも、アジアの新天地探しが難航し続けた理由を前田はこう語る。チーム強化にあたり現場とフロントの認識不一致やコミュニケーション不足は往々にしてあるようで、“ちゃぶ台返し”のような目に遭わされたこともあった。

「一度、シンガポールのチームに契約締結を前提に練習参加したことがありました。10日ほどチームとトレーニングし監督やコーチから評価してもらい好感触を得ていたのですが、移籍が決まる直前でオーナーからストップがかかったんです」

 練習参加さえ叶わなかったケースも、一度や二度ではない。日本でプロだった10年のうちに蓄えた貯金を切り崩しつつ、ジムで身体を動かし公園で1人ボールを蹴る。そうやって移籍話を待つほかなかった。

 岩波拓也や藤本憲明といった元チームメイトに加え友人が「(新しいチームは)どうなった?」と気にかけてくれるも、良い報告ができない。心苦しさが募り、人と直接会いづらくなった。そんな状況でも、実家でともに暮らす両親は決まらない去就に気を揉みつつも、普段どおりに接し我が子を支えた。

 そんな状況が2年目に突入すれば、さすがにメンタルは限界を迎え、日本での所属先探しに気持ちは切り替わらなかったのか。

「諦めようとはならなかったですね。とういうのも、海外の話を聞けば聞くほど新しいチャレンジへの思いが強くなったので。サッカー選手として悔いは残したくない。そうした思いが強くありました」


愛媛の契約満了から再び公式戦ピッチに立つまで約2年の時を要した【写真:クラブ提供】

■「今は本当にサッカーができる幸せを噛みしめています」

 チームが決まらなければ、もうサッカーを辞めよう……。そんな考えが頭をよぎり始めた今年9月、ついに運命が微笑む。ラオス1部ヤングエレファンツFCが前田の獲得に興味を示した。

「代理人から話をもらった時、僕には行先を選ぶ権利なんかないと思ったの2つ返事でオファーを快諾しました。アジアの大会に出場すると聞いていましたから、エレファンツに行くのは面白そうだなという気がしました」

 この時も最初のステップはチームへの練習参加。「これってシンガポールの時と同じパターンちゃうん?」。苦い記憶がフラッシュバックした。それでも9月18日に現地へ渡りトレーニングが3日目を終えた頃、無事にオーナーを交えチームとの契約を締結。長い空白期間に終止符が打たれた。

 シーズンはすでに始まっていたものの、外国人選手の登録枠が埋まっていたためリーグ戦には出られず。年明け1月から始まる後期日程での出場を目指すもどかしい状態だが、気持ちは晴れやかだ。

「今は本当にサッカーができる幸せを噛みしめています。守備的MFですが、助っ人としてここにいるわけなので数字に残る得点やアシストを求められていますし、後期のリーグ戦で結果を残してステップアップできるよう頑張りたいと思います」

 アジアを舞台に紡ぐ新たなサッカー人生。ここからは、蓄えたエネルギーを全力でぶつけ突き進んでいくだけだ。

[プロフィール]
前田凌佑(まえだ・りょうすけ)/1994年4月27日生まれ、兵庫県姫路市出身。ヴィッセル神戸Jrユース-ヴィッセル神戸U-18-ヴィッセル神戸-大分トリニータ-愛媛FC。アンダー世代(U-15、17)では日本代表も経験。ボランチを主戦場とし、積極手にボールに絡んで攻撃を組み立てるプレーを持ち味としている。(FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治 / Ryoji Yamauchi)

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