1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. スポーツ
  4. サッカー

「これは凄い」…何気ない会話で助っ人のパフォーマンス激変 Jリーグ通訳が授ける言葉の魔法【インタビュー】

FOOTBALL ZONE / 2024年12月16日 7時50分

■Jリーグで働く外国語通訳の仕事とは?

 Jリーグでは、ピッチ上で華々しい活躍を披露する選手を数多くのスタッフが支えている。外国籍選手のサポート役となる通訳もその1人。酒井龍氏は2021年から3季、2つのJ1クラブで英語通訳を務めた。中継などで存在を目にすることがある通訳は、実際にどのような仕事をしているのか。また、“貴重な戦力”として勝利に貢献する場面もあるという。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治/全3回の2回目)

  ◇   ◇   ◇   

 2021年にサガン鳥栖、22年から23年にアビスパ福岡で選手の英語通訳として活躍した酒井龍氏。本人曰く「英語力がほぼゼロ」という状態からオーストラリア留学に踏み切り、帰国後はJリーグクラブ関係者らとの関係性を構築しながらスタッフの立場でプロの世界に立った。

 念願の通訳になってからは、常に勝利を目指すプロの現場の高い基準に圧倒されるも、着実に経験と技術を積んで23年には福岡でルヴァンカップ優勝を経験。この職業を目指すにあたって掲げた「日本一のサッカー通訳になる」という夢を見事に叶えた。そんななかで、酒井氏はどのような仕事をしてきたのか。

 選手の通訳と聞いて、まず思い浮かべるのは試合中にピッチサイドで指示を伝える姿や試合後のインタビューなどを手助けする様子。しかし、それらはカメラが捉える表面的な部分にすぎない。通訳について酒井氏は「24時間体制の仕事」と一言。むしろ、仕事の本質はピッチ外でのサポートにある。

「夜中に子どもが熱を出したと助けを求められたことがありました。とはいえ、緊急事態は昼夜問わず起こり得るので、いつでも動けるよう通訳は準備しておかなければなりません」

 緊急事態に限らず、些細に思えるようなことにもサポートを怠ってはならない。「選手の配偶者をネイルサロンに連れて行ったこともあります」。選手がピッチ上で見せるパフォーマンスの成否を左右するそうだ。

「外国籍選手が家族と一緒に来日した場合、彼らも苦労しながら日本の生活に適用しようとしています。なので、自分のプレー以外にも考えないといけないことが多い。そんななかで、些細に思えることでもそれが選手の中で引っかかってしまうとプレーに影響を及ぼしますし、選手の調子が良くないなと思う時は大抵何かプライベートで問題を抱えています」

■マイナスに思えた性格がプラスに

 また、酒井氏がほかに通訳ならではの苦労として挙げたのが「常に中立を求められる姿勢」だ。指導者やチームメイトとの間に立つ選手通訳。中立のバランスがわずかに崩れるだけで、「訳す言葉にどちらかの感情がより強く反映されてしまう」と力説する。

「例えば選手が大事となると、本来ならストレートに伝えなければならない監督からの叱咤を遠慮して伝えられなくなります。また、クラブ側に立場が寄ってしまえば今度は選手からの信頼を失いかねません」

 絶妙な匙加減を求められるなかで、酒井氏は一見マイナスに思えた自身の性格に助けられてきた。

「僕は人見知りで、周りの目を気にしてしまう性格なんです。生きづらさを抱えやすいので、本当は直したい、もっと楽に生きられたらと思っています。しかし、実際に通訳になってみるとこれがプラスに働いていると感じたんです。

というのも、言葉を伝える第三者は監督や選手、トレーナーなど多岐に渡り、担当選手だけでなくそれぞれの気持ちも理解できなければ現場を上手く回すことができません。そんな状況で、自分の周りを無意識に考えすぎる、相手の反応を深読みしてしまう性格は良い形で気遣いになり、担当選手と第三者の双方に対する深い洞察力として機能し得られた情報もありました」


福岡に在籍するベテラン・ポルトガル語のマルコ・グスタボ氏(左)【写真:avispa fukuoka】

■通訳が勝利の鍵となった瞬間

 外国籍選手のパフォーマンスの鍵を握る通訳。では、チームの戦力として勝利をアシストするような場面はあるのか。これについて、酒井氏は福岡在籍時の興味深いエピソードを教えてくれた。

 それは、昨年4月9日にホームで行われたJ1リーグ・京都サンガF.C.戦でのこと。この試合に先発出場したFWルキアンと後半34分から途中出場したFWウェリントンはチーム内の誰の目からも明らかなほど調子を落としていた。そんなブラジル人にハーフタイム、ポルトガル語を担当する2人のベテラン通訳のうちの1人、マルコ・グスタボ氏が動いた。

 この時の様子について、「傍から見ているとずっと話し込んでいた」と酒井氏。戦術や戦う気持ちを鼓舞させる内容かと思いきや、後から知った“真実”は想像からかけ離れていた。

「『お前、昨日何か悪い物でも食べた?』『あそこのバーベキュー、美味しくないよな』など、ひたすら与太話をしていたそうなんです。もちろん、ハーフタイム中に監督が話した指示など押さえるべきポイントはインプットしていました。それ以外は前半の流れやチーム状況などをまったく話さず。でも、結局その試合は彼らの活躍もあって2-1と劇的な逆転勝利を果たしたんです。これは凄いと思いました」

 このほかにも、グスタボ氏はブラジル人FWたちがリーグ戦での出場機会を減らすと「お前、またカップ戦要員になったのかよ」と励ますどころかイジっていたという。ただ、酒井氏は「こうしたやり取りを見ていてすごく勉強になった」と話す。

「ポイントは、あえてピッチ上の話をしないことなんです。特にオフの場ではプレーに関する話をしません。それとは別のツッコミどころとなる話題を上手く選手に振って、本人の気づかないうちに雰囲気を良くする言葉をかけてあげている」

 さらに、酒井氏は通訳というプロフェッショナルをこう説明する。

「どの方も基本的に高い洞察力や分析力を備えています。目の前の状況をスキャンして、それに対しどのような行動を取り、担当する選手にどう言葉をかけて雰囲気を変えていくべきか、その答えを瞬時に導き出すことができる人たちです」

 日常的なピッチ内外でのサポートはさることながら、外国籍選手の活躍の陰には通訳が授ける言葉の魔法がある。

[プロフィール]
酒井龍(さかい・りゅう)/1994年8月16日生まれ、茨城県土浦市出身。筑波大学で蹴球部に所属し、同大大学院へ進学後にサッカー通訳になることを志す。大学院在学中にはオーストラリアのビクトリア大学へ留学。現地ではAリーグのメルボルン・ビクトリーとの共同研究を行ったほか、ビクトリア州2部クラブで選手としても活動した。卒業後の2021年J1サガン鳥栖、22年から23年にJ1アビスパ福岡英語通訳として活動し、福岡では23年のルヴァンカップ優勝を経験している。福岡退団後は7人制サッカー、キングス・リーグ日本代表「Murash FC」代表責任者を務め、現在はプロバスケットボール「EASL(東アジアスーパーリーグ)」の日本マーケティングマネージャー。また、YouTuberとしても活動し、「りゅうの留学英語チャンネル」登録者数は14万人超に上る。(FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治 / Ryoji Yamauchi)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください