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東大の大学院でサッカー研究 挫折から転身…社会人クラブに新風「必ずJFL昇格を成し遂げたい」【インタビュー】

FOOTBALL ZONE / 2024年12月18日 12時30分

■テクニカルスタッフを始めたきっかけ「学業への意欲とサッカーへの知的好奇心を両立」

 ベルギー1部シント=トロイデンとの提携など、データ分析チーム(以下、テクニカルユニット)を中心に先進的な取り組みでたびたび話題を呼ぶ東京大学運動会ア式蹴球部(体育会サッカー部。以下、東大ア式蹴球部)。そんな東大ア式蹴球部の先進的な取り組みは、社会人サッカーにも影響を及ぼそうとしている。

 そのチームのうちの1つが関東1部に所属するエリース東京FCだ。エリース東京FCは昨年関東2部から1部昇格を果たし、今シーズンは10月に行われた全国社会人サッカー選手権大会で関東勢最高位となるベスト8進出を果たすなど、近年成長を遂げているクラブである。そんなエリース東京FCの成長を支えるのが東大ア式蹴球部テクニカルユニットOBの木下慶悟さん(大学院2年)。木下さんはテクニカルコーチとして2023シーズンからエリース東京FCに加入し、チームの躍進の一因となってきた。また生粋のマドリディスタとして、分析記事を各種媒体に度々寄稿するなど、活動の幅は多岐にわたる。

 テクニカルコーチとして社会人サッカーに加入したきっかけとはなんだったのか。そして木下さんの社会人サッカーに対する思いとはなんなのか。インタビューを行った。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部)

   ◇   ◇   ◇   

 木下さんは2019年に東京大学に入学し、東大ア式蹴球部へ入部。当初は選手として入部をしたが、大学2年生になるタイミングでテクニカルスタッフへの転身を決めた。

「東大には2年生の時に3、4年でどの学部に行くのかを決める進振り(進学振り分け制度)という制度があるのですが、進振りについて考えるうちにデータサイエンス的な学問に興味が出てきました。その時、自分は怪我が重なっていたことや実力が通用しないことに挫折し、部活を辞めて学業に専念しようかと思っていたのですが、どうしてもサッカーへの情熱を消し去ることができず、複雑なサッカーというスポーツをもっと知りたいという知的好奇心とデータサイエンスを学ぶ意欲を両立できる場所はないかと考えた結果、ア式蹴球部のテクニカルスタッフに転向しようと思いました。

 テクニカルユニットでは、基本的に試合前、試合中、試合後の3つの業務をサイクルとして回していました。試合前には相手校の分析・スカウティングを行い最適な戦い方を指導陣や選手に提示し、試合中にはリアルタイム分析で試合の状況をリアルタイムで把握しながらチームの戦術を修正し、試合後には試合を振り返ってフィードバックを行います。こうした3つの業務を軸にしながらも、ほかのテクニカルユニットのメンバーと協力して膨大なデータをパスマップやヒートマップのような目で見て分かる形に、分かりやすく変換するシステムの開発など、データ活用にも取り組んでいました」


東京大学大学院で「チームの配置や選手のポジショニングの良し悪しを定量化する」というテーマを研究しながら、現場経験も積んでいる木下慶悟さん【写真:東京大学運動会ア式蹴球部】

■テクニカルコーチとしてエリース東京FCを活性化…「分析特化」の強み発揮

 そんな木下さんは部活の引退後、エリース東京FCに加入することになるが、それには元ア式蹴球部の監督で現在エリース東京FCの監督を務める山口遼氏の存在が大きかったという。

「もちろんア式にいる時から遼さんとは関わりがあったというのと、指導者としてのサッカーの見方や執筆した記事の内容などについて何回か相談に乗っていただいた関係で、私が部活を引退したタイミングにエリースへと誘っていただいたのがきっかけです。私は大学院での研究テーマも『チームの配置や選手のポジショニングの良し悪しを定量化する』というサッカーに関するもので、大学院生になって研究に専念する人が多いなかで、研究と現場の両方を経験できる機会は貴重だと思い、エリース東京FCへの加入を決めました。部活を引退してからもサッカーへの情熱が冷めることはなく、定性的にも定量的にも、もっともっとサッカーへの理解を深めていきたいと思っていた自分にとって、ぴったりな機会でした」

 そうして加入したエリース東京FCで、木下さんはテクニカルコーチとして存在感を発揮。チームは年を経るごとに大きな成長が見られるという。

「エリースではテクニカルコーチという役職で、東大ア式蹴球部の頃よりも現場に近い、選手との距離が近い立場としてチームに関わっています。東大でやっていたような3つの主業務(試合前スカウティング、試合中リアルタイム分析、試合後フィードバック)も引き続き行っていて、分析に関するものは自分ともう1人のテクニカルコーチですべて担当している感じです。社会人チームでは、そもそもテクニカルコーチ自体がいないクラブやほかのコーチが分析の役割を兼任しているクラブも多いなかで、大学生の時から分析に特化してきた人材がテクニカルコーチとして在籍しているというのは、チームの強みの1つかなと感じます。

 テクニカルコーチという仕事は多くの人が想像するよりも泥臭くて、動画の撮影やアップロード、切り抜きなど雑務も多いです。ですが、選手にとってみればその動画の見やすさがプレーの振り返りの質やモチベーションに直結しますし、そういった泥臭い仕事を愚直に、真面目に、高い質でできるかがとても重要で、そうした意味でも東大生というのはテクニカルコーチにマッチしているのかなと思います。例えば、僕がエリースに加入してからは、お手本になるような選手のプレーをコツコツ自分で保管するようにしていて、今では1000を超える膨大な数の動画がストックしてあります。選手から何か質問されたり要望を受けたりした時にも、動画という形でお手本や解決策を提示でき、選手たちの理解度もグッと上がったなと感じます。選手が元々持っている技術レベルや能力は十分に高いので、そこに戦術を浸透させていくことで、チームとして着実に成長できていけると感じています」

■ミクロなデータ活用の強化とJFL昇格へ

 テクニカルコーチという新たな立場からチームを活性化させる木下さん。この先に見据える目標とは一体なんなのか。

「来季の目標は主に2つあります。まず個人の目標としては、よりミクロなデータ活用に力を入れたいと思っています。今シーズンはマクロなデータ、チーム全体に共通して言えるデータに関しては十分なものを提供できたと思うのですが、ミクロなデータ、選手個人に着目したデータに関しては、人手不足などもあり注力できませんでした。なので、来季はこのミクロなデータ提供に着手し、本領を発揮したいです。選手個人個人の成長が指導者としての一番の喜びですし、それがチームの成長につながると信じています。そのチームの目標としては、純粋にもっともっと『フットボール』のクオリティーを上げていくこと。今シーズン関東1部で戦うなかで、特徴であるビルドアップやボールを掌握するといった部分では十分に通用したものの、守備の強度や崩しの完成度といったところで課題が見つかりました。結果としても満足できるものではなかったので、来季は自分自身のサッカーや選手への理解をさらに深めてそういった内容を突き詰め、必ずJFL昇格を成し遂げたいです」

 社会人サッカーに新たな風を吹き込む木下さんの活躍から今後も目が離せない。(FOOTBALL ZONE編集部)

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