サッカーファンは「内輪になりがち」 新競技で課題発見…人気上昇への“鍵”「引き上げられる」【インタビュー】
FOOTBALL ZONE / 2024年12月19日 7時50分
■従来とは一線を画す革新的なサッカー「キングス・リーグ」
Jリーグで選手が活躍できるようサポートに尽力する数多くのクラブスタッフ。その1人として、酒井龍氏も3季にわたりJ1の2クラブで英語通訳を務めた経験がある。ただ、その語学力は今年、“新機軸”の7人制サッカーの世界で生かされることに。既存の競技から離れたことで感じた日本サッカー界の課題や可能性があった。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治/全3回の3回目)
◇ ◇ ◇
Jリーグクラブの英語通訳として2021年にサガン鳥栖、22年から23年にアビスパ福岡で活動した酒井龍氏。大学サッカーの名門・筑波大学に進学しプロを目指すも、同大の大学院1年次に受けたJクラブのトライアウトに不合格だったことで夢を諦めた。
「サッカーが嫌いになりました」。人生のすべてと言えるほど情熱を注いできた競技での挫折。しかし、その後はJクラブのサッカー通訳だった人物との出会いを機に、「日本一のサッカー通訳になる」という新たな夢が生まれ、スタッフとしてプロの世界を目指すことに。「英語力がほぼゼロ」の状態もオーストラリア留学で語学力を磨き、留学中からサッカー関係者とのコネクションを築き上げた末に目標としていた場所へ漕ぎつけた。
福岡ではルヴァンカップの優勝を経験するなど3年にわたってプロの現場で貴重な経験を積んだが、今年は「キングス・リーグ」の道へ。人気ゲーム配信者・加藤純一氏がオーナーの日本代表チーム「Murash FC」で責任者を務め、5月26日から6月8日にかけてメキシコで開催された第1回の国際大会「キングス・ワールドカップ」に参戦した。
キングス・リーグとは、元スペイン代表DFジェラール・ピケ氏がチェアマンを務める7人制サッカーの大会で、2021年に発足。20分ハーフの試合には交代無制限、警告で2分間の退場などに加え、「シークレットカード」と呼ばれるエンタメ性アップの独自ルールも存在する。試合前に各チームのコーチがランダムに選び、内容によって即PK獲得や1分間の得点が2倍といった効果を発揮することが可能。まさに従来の11人制とは一線を画す、革新的なサッカーだ。
このキングス・リーグの国際大会にチーム結成から現地帯同まで関わった酒井氏。日本代表として世界で戦うなか、まず感じたのは観戦者の違いだった。
「既存のサッカーファンはキングス・ワールドカップをあまり観ていなかったのではないでしょうか。逆に誰が観ていたかと言うと、今まで日本代表にすら関心がなかった層の人たちです」
キングス・ワールドカップ開催期間中、オンライン上での平均視聴者数が64万4000人、最大同時視聴者数は120万人を記録したとされている。もちろん、一部サッカーファンも関心を持っていたはずだが、「ライトにも及ばない『無関心層』と呼ばれる人たちだが一定数いると感じました」と酒井氏。サッカー人気の成長余地について、考えをこう続ける。
「日本でサッカーは国民的スポーツであらゆる人に関心のあるものだと認識していましたが、キングス・リーグ(ワールドカップ)に携わったことは従来のサッカーについてまだまだ知らない人や興味のない人たちもたくさんいるんだという現実に直面するきっかけになりました。一方、この新競技を通じて『サッカーって意外と面白そうじゃん』『Jリーグや日本代表を観てみようかな』と思った人たちも一定数いたと聞いています。今後の日本サッカー界に可能性が残っていると思えました」
大会期間中の帯同だけでなくチームの結成にも関わった【写真:本人提供】
■コアなファンがライト層へ「オープンになろうよ」
ただ、受けたのはポジティブな印象ばかりではない。「サッカーに長く関わってきた人間」だからこそ新鮮かつ客観的な目で受け止めた課題がある。
「(既存のサッカーは)どうしても“内輪になりがち”な競技になっているのかなということ。戦術などに詳しいコアなファンがどんどん出来上がってきた一方で、ちょっとサッカーを観てみようかという新規のファン、ライト層に対して厳しい雰囲気があるかもしれません」
キングス・リーグのような新機軸の競技が門戸となり新規ファンが増えたとしても、サッカー界で醸成された空気が一朝一夕で変わるわけではない。コアな層も「(日本で)サッカーが成熟してきた事実の裏返し」と酒井氏は理解を示す。そのうえで、重要と指摘するのはこれまで競技人気を支えてきたファンの“開かれた姿勢”だ。
「新規のファンをより詳しい層へと引き上げられる存在は、長年サッカーをフォローしてきたコア層で間違いありません。なので、オープンになろうよという思いがあります」
酒井氏は「Murash FC」で代表責任者を務めたあと、現在はプロバスケットボール「EASL(東アジアスーパーリーグ)」の日本マーケティングマネージャーとして活動している。長く関わった競技の世界から離れたことで、改めて実感していることがある。
「サッカーの熱はサッカーでしか生めませんし、Jリーグの熱はそこにしかありません」
と同時に、有料放送への移行による露出減少などで人気低迷がささやかれる日本サッカー界についても、今後の発展を信じて止まない。
「現在はSNSを中心に見て分かりやすいものが支持を集め、“タイパ”(タイムパフォーマンス=かけた時間に対する効果)といった言葉に代表されるように効率の良さも重要視されています。
かたや、サッカーは一見難しいかもしれませんが、どしんと構えられる、世の中の傾向に簡単に揺らがない奥深さや魅力がある競技だと思っています。日本でサッカーはどんどん成熟してきていますし、観れば観るほど面白く、味わい深い。なので長期的なスパンで、面白いなと感じる人たちは増えていくでしょうし、一度離れてしまったとしても必ずサッカーに戻ってきてくれるファンはいると信じています」
キングス・リーグに加え育成年代に向けた4人制の全国大会も開幕するなど、新たな形態を見せているサッカー。既存の競技との相乗効果による進化が期待される。
[プロフィール]
酒井龍(さかい・りゅう)/1994年8月16日生まれ、茨城県土浦市出身。筑波大学で蹴球部に所属し、同大大学院へ進学後にサッカー通訳になることを志す。大学院在学中にはオーストラリアのビクトリア大学へ留学。現地ではAリーグのメルボルン・ビクトリーとの共同研究を行ったほか、ビクトリア州2部クラブで選手としても活動した。卒業後の2021年J1サガン鳥栖、22年から23年にJ1アビスパ福岡英語通訳として活動し、福岡では23年のルヴァンカップ優勝を経験している。福岡退団後は7人制サッカー、キングス・リーグ日本代表「Murash FC」代表責任者を務め、現在はプロバスケットボール「EASL(東アジアスーパーリーグ)」の日本マーケティングマネージャー。また、YouTuberとしても活動し、「りゅうの留学英語チャンネル」登録者数は13万人超に上る。(FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治 / Ryoji Yamauchi)
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