勝ったら「ボコボコにされた」 南米スラムで“暗黙ルール”…現地にあふれる狡猾さ「Jはまだ甘い」【インタビュー】
FOOTBALL ZONE / 2024年12月21日 9時30分
■パラグアイで南米「マリーシア」のプレーを身に着けたマリンボブ氏の衝撃エピソードの数々
パラグアイ、ボリビアでプロサッカー選手として、南米サッカーを経験したピン芸人がいる。吉本興業に所属するマリンボブ氏(本名:松本磨林)は、現役時代アウェーで壮絶な体験を繰り返す。その一部を今回、当時を懐かしむように話してくれた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也)
◇ ◇ ◇
18歳で初めて渡った南米。元々GKだったマリンボブ氏は、監督の交代など紆余曲折ありつつフィールドプレーヤーへと転身する。パラグアイのオリンピアU-20で南米でのキャリアをスタートさせたマリンボブ氏は、同国4部ウマイタ・フットボール・クラブ、3部ヘネラル・カバジェーロ・デ・カンポグランデとチームを渡り歩いた。
オリンピアU-20時代には、チームの主軸選手が酒の勢いで傷害事件を起こしてしまったことも。まさに文化の違い……。そんなマリンボブ氏が約5年間いた国で身に着けたのは、俗に言う南米「マリーシア」のプレーだった。
「パラグアイでは、いい感じで相手の顔面殴るとか、身体を避けるふりして腕だけ残して顔面に当てるとか……。とにかく『何としても勝つ』という意識が高い。審判を見ながら、あっち向いているなと思った瞬間にヘディングする瞬間に肘を入れたりする。Jリーグとか見ていても、僕から言わせればまだ掴みは甘いですね。もっと掴まないと(苦笑)」
経験した4部は「アメフトみたいなサッカー」。芝はほとんどなく、「ドリブルできないくらいの環境」だった。3部は「少しだけドリブルができるようなグラウンド状況になりましたね」と、環境面で大きな差がある。そうしたリーグだからこそ「ファウルをもらってセットプレーから点を取る」のが主流。自然と空中戦の強さは身に着いた。次第にマリンボブ氏は、怪我も厭わない激しいプレーでチームの信頼を勝ち取っていく。だが危険な街も多いパラグアイのアウェー戦では、特殊ルールも存在したようだ。
パラグアイ4部でプレーしていた当時の様子【写真:本人提供】
■スラム街クラブのホームに乗り込む際は「暗黙のルール」…“勝ってはいけない”
そんなパラグアイにおける印象深い出来事は、ある日のアウェーマッチで起こった。4部リーグは“スラム街”にあるクラブも多く、危険にあふれている。「試合の日は警察官と一緒にスラム街に」。厳戒態勢で向かう。さらに敵地では「暗黙のルール」として“スラム街クラブのホーム戦は勝ってはいけない”というものがあった。
2000人以上の観客が見守るなかで行われたとある一戦。マリンボブ氏の所属するチームが勝利を収めてしまった。
「審判も『お前ら何やってんの』みたいな顔をしていて。勝利の瞬間にスラム街の人と選手から、追いかけまわされてボコボコにされました。ロッカールームに逃げても飛び込んできましたね。バスの中へ逃げ込むも、もう石とか発煙筒とかバンバン投げ入れられて窓ガラスも割れるわで…。翌日俺らのこと新聞に載っているのかなと思ったけど、結果しか載っていなかったんです」
命からがらに帰路に着いた。新聞には「観客動員数は2人」と書いてあり、あとから聞いた話によると、当日集まった人たちはほぼ“無券”の乱入者だったようだ。「彼らは壁からよじ登ってスタジアムに侵入してきて、俺らをボコボコにして帰って行ったということですね」とマリンボブ氏も笑ったが、相当怖い体験だったはずだ。
こうしてすっかりパラグアイで南米色に染まったマリンボブ氏。だがパラグアイは年齢制限が厳しく、「23歳以上の選手がサテライトリーグに出るためには3人しか出られなかった」のだという。この時引退もよぎったマリンボブ氏。一度日本への帰国を決意する。だが次のキャリアを考えている最中、両親が放った一言がマリンボブ氏を再び南米へ導くことになる。(第3回/ボリビア編に続く)。
[プロフィール]
マリンボブ(まりんぼぶ)/本名、松本磨林(まつもと・まりん)。1988年12月30日生まれ、埼玉県出身。オリンピアU-20(パラグアイ)―ウマイタ・フットボール・クラブ―ヘネラル・カバジェーロ・デ・カンポグランデ―サンマルティン(ボリビア)―ラ・マキナビエハ・ミルトン・メルガール―デポルティーボ・アレマン・デ・スクレ。18歳で単身南米へ。GKから半年でフィールドプレーヤーに転身。南米サッカーを8年経験し帰国。現在はピン芸人“マリンボブ”として、スマイラーズ(芸人で構成されたサッカーチーム)に所属する。日々自身のSNSで発信する“南米サッカーあるある”が人気を博す。(FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也 / Kenya Kaneko)
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