“史上初”の一戦「目立つのがテーマの1つ」 観客どよめき…真剣勝負と違った醍醐味【コラム】
FOOTBALL ZONE / 2024年12月24日 8時50分
■元日本代表GK南雄太の引退試合は大盛り上がり「GKの引退試合は初だった」
サッカーをエンターテインメントとしてどう楽しんでもらうのか。昨季限りで現役を引退した元日本代表GK南雄太が12月21日に引退試合を実施したが、そのピッチには技術とユーモアとファンへの思いを合わせた幸せな空間があった。
南は日本サッカー界の“黄金世代”と言われる1979年生まれで、1999年にU-20日本代表としてワールドユース(当時名称)で、世代別も含め日本サッカー初の世界大会決勝進出のチームで守護神を務めた。
そのチームの中心には天才と呼ばれた小野伸二がいて、高原直泰がストライカー。稲本潤一や中田浩二、翌年の早生まれ遠藤保仁といったこの引退試合に出場した選手たちだけでなく、南が「呼びたかった」と話した小笠原満男や本山雅志、曽ヶ端準もいる。前後の世代には中村俊輔や中村憲剛、松井大輔や鈴木啓太らの日本代表で活躍した名手もそろう。
そうした選手たちが一堂に会するだけでもワクワクさせるものだが、それと同時に高いサッカーの技術をベースに「笑顔になってほしい、楽しんでほしい」という思いがあふれる場面が随所にあった。
例えば前半、コーナーキックがあるたびにGKの位置から南が攻撃参加をしていく。ゴール前で南が合わせて決められるかどうかの盛り上がりがあり、シュートを外せば観客席にも聞こえる大きな声で周りの味方がツッコミを入れて笑いも起こる。ただ、それもこれも南が「良いボールすぎて緊張しましたよ」と笑ったほどキッカーの中村俊輔が毎回ピタリとボレーシュートを打てるボールを蹴り込んでいるからだった。
松井はパスが回ってくるたびに、トラップ際で公式戦ではやらないような魅せテクニックを出して客席から「おー」という声が漏れる。李忠成は途中で飲水タイムを設けた際、バックスタンドの子どもたちを中心にしたファンにボールを触らせてあげながら触れ合っていた。
加地亮はゴールすると“カジダンス”としてカズこと三浦知良のパフォーマンスを真似するも、ベンチにいる“本家”を向くことを周囲に求められると急に動きが小さくなり、大きな笑いに包まれていた。
いじられキャラでもある播戸竜二や、年齢を重ねて少し丸みを帯びた体型を突っ込まれていた北島秀朗がシュートチャンスになった時は、GKやDFたちがガチで止めにいって決めさせない。その緩急をつけながら、大きな声やちょっとした所作でスタジアムの笑いを誘っていた坪井慶介は「ああいうのがあった方がね、(中澤)佑二とか僕とか、やることちょっとやりながら騒いで」と笑う。
そして、坪井が「もう、全てを分かっている引退試合のベテランですから」と笑顔で話したのがレフェリーを務めた家本政明氏。ファウルを取るかどうかでも客席を盛り上げながら、フリーキックの位置を蹴りやすい場所に変えてみたり、大げさなVARシグナルをしてみたりと、プレーヤーと一緒になって盛り上げた。
公式戦なら認められないキックオフを認めるなど、試合終了間際に南が伝説のオウンゴール再現を行うことで同点にしてPK戦を行うように持っていく一連の流れが見事に組み立てられていた。彼もまた、この空間を作るのに欠かすことのできない1人だった。
南は最後にPK戦を行うことにしたかった理由を「(Jリーグで)GKの引退試合は初だったので、何かを残せたらいいなと思った。今日はGKが目立つのがテーマの1つだった」と話す。川口能活と楢崎正剛の日本サッカー史に残る名手がゴールを守る姿も見せ、最後に三浦とのガチ勝負を南がストップして大団円の幕切れになった。
三浦は「みんなで楽しくやれましたし、お客さんが喜んでくれて何よりですよ」として、今月に各地で行われた中村憲剛や松井、槙野智章の引退試合にも触れて「サポーターがこれだけ集まるのは、それだけ地元に根付いてきているということ。素晴らしいですね」と話した。
全てが終わった後の記者会見で南は「本当に今日感じたのは、みんなエンターテイナーだな、上手だなって。なんかもう、後ろから見ていて感心してました。これだけお客さんを楽しませて、笑わせてくれるのは誰もができることではないですよね。芸人じゃないんですから。サッカー選手なのに、こうやってできるのは本当に凄いしありがたいなと感じましたね」と、穏やかな表情で振り返っていた。(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)
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