欧州移籍は「怖いと思うのが普通」 ベンチ生活、降格…それでも「必ず海外挑戦してほしい」【インタビュー】
FOOTBALL ZONE / 2024年12月27日 8時30分
■大津氏が過ごした海外での3年間「価値観を変えてくれた」
元日本代表MF大津祐樹は21歳で欧州に渡った。ドイツの名門ボルシアMGの扉を叩いた1年後、当時オランダ1部のVVVフェンロへと移籍。ベンチ生活、降格……3年間に及ぶ海外挑戦は、決して順風満帆な道のりではなかった。それでも「これからキャリアを描いていく選手たちには、海外からオファーが届いたタイミングで、必ず挑戦してほしい」と言葉に熱を込め、欧州で培った自身の経験談を語る。(取材・文=城福達也)
◇ ◇ ◇
大津が欧州へと渡った2011年当時は、若手選手の海外挑戦が定着しているわけではなかった。A代表は欧州でプレーする選手が着実に増えてきている段階ではあったものの、五輪代表ではまだまだ国内組が大半を占めていた。ドイツで快進撃を見せていたボルシアMGではベンチから試合を見守る生活が続いていたものの、元ドイツ代表MFマルコ・ロイスらトップタレントと鎬を削る激しいトレーニングの日々が、ロンドン五輪での大活躍へとつながった。
「1年間ブンデスリーガでやって、強度の面でも自分のレベルアップに手応えを感じていたタイミングだった。その手応えを、ロンドン五輪の舞台でパフォーマンスとして証明できた。大会が終わった後、この経験を出場機会に活かしたいという思いが芽生えた。たとえリーグのレベルが落ちたとしても、ピッチに立ちたい思いからフェンロに移籍した」
2012年8月、かつてMF本田圭佑、DF吉田麻也を筆頭に歴戦の日本人選手がプレーしてきたフェンロを新天地に選んだ。ボルシアMG時代とは異なり、主力として毎試合のように出場できる充足感はあった一方、チーム自体には残留を勝ち取る力が備わっていなかった。加入初年度にしてリーグ戦22試合に出場したものの、フェンロは降格の憂き目に遭った。
「正直、当時のフェンロはリーグの中でも明らかに厳しいレベルだった。自分個人のパフォーマンスと、クラブが置かれている状況に葛藤があった。どう勝たせればいいのか悩んだし、実際に勝たせ切れなかったことに責任も感じた」
移籍の選択肢もあったが、留まる決断をした。翌シーズンには背番号「10」を託され、クラブを牽引する存在として期待を寄せられた。しかし、シーズン途中に右足のアキレス腱を断裂する重傷を負い、長期離脱を強いられることに。さらに、クラブが深刻な財政難に陥る状況となり、移籍を余儀なくされた。
古巣の柏レイソルに帰還することになったが、「再スタートを切るという意味では、日本に戻ることに後ろ向きではなかった」と振り返る。海外挑戦に臨んだ3年間は試練の日々だったが、それでも大津氏は「これからキャリアを描いていく選手たちには、海外からオファーが届いたタイミングで、必ず挑戦してほしい」と言葉に力を込める。
■海外挑戦せずに「後悔していた選手もたくさんいた」
「サッカー選手は、オファーが届いたタイミングと、自分が実際に挑戦したいタイミングが異なるのがほとんど。そのタイミングでしかチャンスが訪れないこともある。様子を見て、もう少し待ってみて、結果的に機会を逃して海外にトライできなかった選手も数多く見てきた。あの時オファーが届いていたのに、行っておけば良かった……と後悔していた選手も、実際にたくさんいた」
とりわけ当時は、Jリーグで主力として活躍すればA代表の道を切り開くことができた。その環境を手放して海外挑戦に踏み切ることは、実際に大きなリスクでもあった。現在はA代表に定着するうえで海外挑戦はノルマとなりつつあるが、安泰がまったく保証されていない渡欧を「怖いと思うのが普通」としつつ、思い切って飛び込むことに背中を押している。
「適した環境にいて、そこで活躍できていて充実した日々を過ごせているからこそ、オファーが届く。それを手放すのは簡単じゃない。僕だって当時は、行かなくていいと思っていた。でも、五輪代表に選ばれたい一心で挑戦した。でも、経験者の身としては、行かなきゃ良かったという後悔はほとんどないんじゃないかと思う」
当然、海外挑戦のすべてが成功するわけではない。大津氏も「僕自身は海外で活躍することは叶わなかった」としながらも、「出場機会はもちろん重要。でも、出場機会よりも大切なものと感じたのが、自分の実力よりもレベルの高い環境に身を置くことだった」と語り、サッカー界の未来を背負う若手選手たちにエールを送った。
「少なくとも僕は、ボルシアMGのハイレベルな環境が成長させてくれて、その経験が五輪の本大会に活かせた。海外で過ごした日々が、価値観を変えてくれて、サッカーを離れた今にも活きている。当時は苦しい思いもしたけれど、今振り返ると、海外挑戦して心から良かったと思える。だからこそ、躊躇せず一歩を踏み出してほしい。経験に、失敗はないから」(城福達也 / Tatsuya Jofuku)
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