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アキレス腱に「石で殴られた衝撃」 有望なキャリアを襲った”残酷な瞬間”「もうダメだ、無理だ」【インタビュー】

FOOTBALL ZONE / 2025年1月3日 7時50分

■負傷と向き合い続けた大津祐樹氏のプロサッカー人生

 元日本代表MF大津祐樹氏の16年間に及ぶプロサッカー人生は、負傷と向き合い続けるキャリアでもあった。「突然、ふくらはぎを石で殴られたような衝撃が走った」と振り返るアキレス腱断裂は、ステップアップを見据えていた最中で厳しい現実を突き付けた。「もうダメだ、無理だ…」。絶望感に駆られた離脱期間、「正直、代表の試合を見たくなかった」と当時を語るなかで、いかにして苦難の日々を乗り越えたのか。「いい経験だったと、今なら思える」。笑顔でそう言葉にするまでの軌跡を辿る。(取材・文=城福達也)

   ◇   ◇   ◇   

 2011年7月にドイツの名門ボルシアMGへと加入した大津氏だったが、ブンデスリーガでトップ4入りするチームの元では、なかなか出場機会に恵まれなかった。一方、元ドイツ代表MFマルコ・ロイスらトップタレントの同僚たちと、毎日激しいトレーニングを重ねた。ハイレベルな環境で身につけた強度の高さを、大活躍したロンドン五輪で証明した。

 成長の手応えを、欧州のピッチでも示したいーー。五輪後に芽生えた思いから、当時オランダ1部だったVVVフェンロに移籍した。チームは同年に降格したものの、主力としてリーグ戦22試合に出場。クラブからも期待の表れとして、翌年に背番号「10」を託された。

 ここから結果を残してステップアップしていく。モチベーションは最高潮だった。しかし、描いていたキャリアビジョンは突然、狂わされることになった。2013年12月15日に行われたリーグ第21節MVVマーストリヒト戦で、利き足である右足のアキレス腱を断裂する重傷を負った。

「突然、ふくらはぎを石で殴られたような衝撃が走った。その瞬間、やばいやつだと絶望感に襲われた。足を確かめたら、グラグラになっていた。もうダメだ、無理だ…と感じた」

 突きつけられた現実は、あまりに残酷だった。

「ピッチを去る時は、頭が真っ白だった。そこから少し冷静になった時に、自分が置かれた立場、目指していた目標が現実的に厳しくなったことを悟って…コンディションが上がってきていた最中での出来事だったので、本当に落ち込みました」

 2013年2月にはアルベルト・ザッケローニ元監督の元でA代表に初選出されていた。五輪の勢いをそのままに、A代表でも地位を確立していく…そのはずだった。しかし、望まぬ形でキャリアの分岐点を迎えることになった。

「ケガの大きさやタイミングも含めて、あのアキレス腱断裂が自分のキャリアに大きな影響を与えたのは確か。代表にも選出されて、これからだという時だったので。同世代が代表で活躍し始めた当時は、正直、代表の試合を見たくなかった」


不運な怪我も「全て運命だと思っている」と受け止めた【写真:Football Assist】

■負傷に泣くキャリアも「いい経験だったと、今なら思える」

 日本で手術を行い、国立スポーツ科学センター(JISS)でリハビリに励んだ。そこではサッカーだけでなく、様々な種目の選手たちが、同じように先の長いリハビリ生活を過ごしていた。

「JISSでは多種多様なアスリートたちが同じようにリハビリしていて、一緒に取り組むようになった。そこにいる皆が、アキレス腱を切った、前十字靭帯を切った、など重傷を抱えた人たちだったので、リハビリ仲間の絆はとても深くなった。同じ状況で苦しんでいる俺らで、もう一度輝いてやろうと誓い合いながら取り組めたのは、精神的な支えになった」

 そして2014年8月22日、リーグ第3節デ・フラーフスハップ戦で再びピッチの芝を踏んだ。実に250日ぶりの出場となった。一方、クラブが財政難に陥ったことで移籍を余儀なくされ、同年12月に古巣の柏レイソルに帰還。日本でも負傷離脱に苦しむ時期が続いたが、2018年に加入した横浜FMでは、自身初となるJ1優勝を経験した。

 2021年にはジュビロ磐田に加入。キャリアタイ記録となる6ゴールを決めて、J2優勝、J1昇格に大きく貢献した。2022年に再び降格することになったが、大津氏は変わらず献身的にチームを支えた。しかし、2023年4月23日のJ2第11節ツエーゲン金沢戦で右大腿直筋腱断裂の重傷を負い、現役引退の決定打となった。

「フェンロでケガした時と違って、まず最初にチームのことを考えた。コンディションが100%でないままキャリアを続けるか、それとも、若手にチャンスの場を与えてもらう方が有益なのか。僕がプレーするよりも、若手に成長の機会を譲る方がチームのためだと自分の中で納得のいく決断に辿り着いた」

 現役生活16年間、才能とは裏腹に負傷に泣かされるキャリアを過ごした。それでも「全て運命だと思っている」と受け止め、「苦しい時にどれだけ努力できるか、自分との向き合い方を学んだし、1人の人間としての成長に繋がった」と振り返る。「もしあの時のケガがなければ、今の自分はなかったかもしれないという意味では、いい経験だったと、今なら思える」と笑顔を見せた。

「サッカーをしていれば、多かれ少なかれ誰しも怪我をする。10〜20年間プレーして、一度もケガをしないことなんてほぼありえない。だから、今ケガで悩んでいる選手たちも、これは誰もが通る道で、今そのタイミングが自分に訪れただけ、と受け入れて、その苦難を乗り越えれば、どんな形でも、それがサッカーという形でなくても、必ず成長して戻れるということだけは覚えておいてほしい」

 現在、経営者として活躍する大津氏は、今この瞬間に負傷で苦しんでいる選手、負傷離脱を繰り返している選手に対し、同じ道のりを歩んだ経験者として激励を贈った。(城福達也 / Tatsuya Jofuku)

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