元日本代表の異例キャリア…史上初の大役、ともに戦った選手の肩を叩くのは「一番つらい」【インタビュー】
FOOTBALL ZONE / 2025年1月3日 6時50分
■元日本代表MF細貝萌の半生、社長代行兼GMという驚きのセカンドキャリア
2024シーズン限りで現役を引退したザスパ群馬の元日本代表MF細貝萌は、クラブ経営のトップである社長代行と、強化部門のトップであるゼネラルマネジャー(GM、強化責任者)の兼務へ転身する驚きのセカンドキャリアをスタートすることになった。その未来に向け、「中央にある1本のどっしりした柱を構えられることを大事にしたい」とビジョンを語る。(取材・文=轡田哲朗/全6回の6回目)
◇ ◇ ◇
日本代表で30試合に出場し、国内では浦和レッズや柏レイソル、ドイツ、トルコ、タイでのプレーも経験した細貝が、地元クラブでもある群馬に加入したのは2021年の9月だった。条件面などには目もくれずにキャリアの最後を過ごす場所として選んだが、38歳になった今季で引退を決断する。
「そろそろなのかなと思っていたし、家族ともそういう話をしていた。正式には10月に入ったくらいにチームと今後を話し引退の方向でと伝える中で、そういう話をもらった」というセカンドキャリアこそ、社長代行とGMの兼務という選手を終えた直後としてだけでない大きな立場へのオファーだった。
「即答というわけではなかったけど、すごくポジティブだった。そのような立場をそのまま与えてもらえるのは簡単なことではないし、重要な場所で考えてもらっている。間違いなく自分にもプラスになる。クラブも苦戦していて難しいからこそ、自分がやることでより群馬が一体となってクラブをいい方向に導くと考えれば、自分がやる意味はある」
もとより指導者の道へ進む計画はなく、「経営に関するような本を読むのも好きで読んでいたけど、そのために準備していたわけではない」という状態で、いきなり大きな立場になった。「先を見るなら、まずは会社の現状を把握しないといけないし、クラブの内部、クラブとスポンサー様など周りとの関係もそう。今まさにシーズンが終わって時間が経っていない中で、状況の把握に時間を使っている」というスタートになった。
経営のトップと強化のトップを兼務することについて「本来なら各クラブを見ても、GMにしっかりした人がいて、社長にしっかりした人がいるというのが普通の体制。その2つを1人でやるので、時間に関してもやれることをやらないといけないと思っている。強化部長がいるのでメインで動いてもらいながら、しっかり連動して、数字に関しても予算をどこにいくら使うも含めて話をしている」と、難しさも実感している。
それでも、「クラブの規模も大きくしたいし、大きくなるようにできることをやっていく。選手だった僕がやったことが良いこともたくさんあるでしょうし、去年は全く違う立場だったので比較もできない。分からないことはしっかり聞きながら、間違いなく近くにいてくれる方の存在が大事なので、一緒に働く方との関係性も大事にしながら前進したい」と未来に目を向けている。
海外クラブとのやりとりも視野に入れている【写真:(C) THESPA】
■「海外クラブともいいコネクションを作りながらやりたい」
強化のトップであるGMとしてはJ3への降格が決まってしまったチームを来季から再建していくことが求められる。沖田優監督の就任が発表されたが、「しっかりと強化、現場、アカデミーも含め全体の哲学を持って進もうという話をしている。当然、上を目指してJ2、J1と、早ければ早いに越したことはないけど、クラブとしての幹を持った中で強化部としてチームの哲学を持ちながら結果を求めていく」と話す。
現役時代の財産の1つを「世界各国にサッカーを通じた友人がいて、連絡を今でも取れる。それも各国の代表選手なので、自国で名の知れたコミュニティーを持った人たち」と話す細貝は「予算やクラブの規模感もあるのでやれることも限られる。ただ、海外クラブともそうだけどいいコネクションを作りながらやりたい」と話す。
そして、経営の側面からは「クラブがより大きな規模になることを目指すのは当然だけど、ベースとしての幹がしっかりしたものがないといけない。強い風ですぐに倒れてしまうようなものではなく、サッカークラブは生き物なので良い時も悪い時もあるからこそ、しっかりしていないといけない。ピラミッドの土台もそうだけど、中央にある1本のどっしりした柱を構えられることを大事にしたい」というのが大きな方針になる。
そして、クラブ名や呼称が変遷してきた経緯もある群馬でのビジョンを「県民の方にもっと応援していただけるクラブにしたい。サッカーを好きな方はもちろん、あまり今まで興味のなかった方、知らなかった方に振り向いてもらう努力をしたい。クラブの拠点は前橋にあるけど、高崎も伊勢崎もあるし、前橋だけでない周辺にも目を向けながらやりたい」と話した。
社長代行としてもGMとしても、特にGMとしては選手時代をともにした選手の肩を叩くことも仕事になる。「今シーズンは選手だったので、2024年に戦った選手の誰が2025年に残るかには関与していない」という細貝だが、「選手をコントロールする立場なので、決断をしなくてはいけなくなる。それはつらいことだと素直に思う。強化部は1人ではないので、みんなで共有してGMである僕とみんなで話し合って決断していく。1人の決断でないとはいえ、そこでやらないといけない時が来るのは正直つらいこと。社長としての立場でもあることで、仕方ないことだけど、この職業で一番つらいことかなと思う」と、覚悟も決めている。
「クラブの規模も大きくしたいし、大きくなるようにできることをやっていく。選手だった僕がやったことが良いこともたくさんあるだろうし、去年は全く違う立場だったので比較もできない。分からないことはしっかり聞きながら、間違いなく近くにいてくれる方の存在が大事なので、一緒に働く方との関係性も大事にしながら前進したい」
Jリーグが始まって30年あまりが経ち、元選手がクラブ経営のトップに立つことも、強化責任者になることも見られるようになった。だが、両方の立場を兼務するのは史上初のこと。それも、選手を終えたセカンドキャリアの1年目なのだから簡単なことであるわけがない。
それでも、現役時代と変わらぬ爽やかな笑みを見せつつも、地に足を着けながら将来のビジョンを語った細貝には、新たな歴史を作るパイオニアとしての期待も大きくかかる。今後、群馬がどのような成長を見せていくのか注目される。(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)
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