選手が冷静なのに…「ベンチが熱くなり火を注ぐ」 審判を悩ます“ピッチ外のマナー”【インタビュー】
FOOTBALL ZONE / 2025年1月7日 7時40分
■扇谷健司JFA審判委員長が振り返る2024シーズンのJジャッジ
日本サッカー協会(JFA)審判委員会は2024年12月19日にメディアブリーフィングを開催し、2024年シーズンのJリーグにおけるジャッジについて各種のデータを公表した。
チーム数が増えたことで試合数も増え、その分、キーインシデント(試合を左右する重大な事象)の件数はJ1では2023年の149件から193件と約30%増加。その一方でピッチ上のレフェリーの判定の精度は52.3%から59.6%(プロフェッショナルレフェリーに関しては53.5%から62.8%)に上昇。VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)を含めた判定の精度は85.2%が91.2%になったという報告があった。
そして、そのレフェリーの判定基準については、日本代表の森保一監督が2024シーズンJ1開幕戦の東京ヴェルディ対横浜F・マリノスの試合後にこんな話をしていた。「(レフェリーが)試合を止める回数を最少限に抑えて、バトルというか、サッカーの激しさと厳しさの魅力をレフェリーがコントロールしてくれた、素晴らしい試合だったと思います」。森保監督は厳しい接触プレーを審判がしっかりと見極めたことを評価していた。
もちろん、個々にはまだ問題点もある。PKの前にボールに水を掛ける行為をどう判定するかなどがSNS上で大きな議論になった。こうした昨年の判定シーンを振り返って扇谷健司JFA審判委員長はどう考えるのか、話を聞いた。(取材・文=森 雅史/全3回の1回目)
◇ ◇ ◇
――まず今年の判定で良かった例を教えてください。
「そうですね。第2節の川崎フロンターレ対ジュビロ磐田で良いシーンがありました。この試合は4-5の打ち合いになり、PKも3回あった激戦です。4-4で迎えた後半45分+1分、磐田が入れたロングボールをマテウス・ペイショット選手がヘディングで落とし、そこにジャーメイン良選手がDFともつれながら入っていってシュートを決めました。
しかしこれが非常に難しい判定でした。ペイショット選手が落としたボールがジャーメイン選手とDFの両方の手に当たっていたからです。VARが介入し、飯田淳平主審がオンフィールド・レビューを行った結果、PKとなりました。(※ジャーメイン選手のシュートは手に当たった直後のゴールなので得点にならなかったが、ジャーメイン選手の手に当たる前にDFの手に当たっているのでPKとなった)
あの場面はごちゃごちゃしていて、何が起きたかのすべてをスタジアムにいたみなさんに知ってもらうのは非常に難しかったと思います。それをどう表現するか。その時にVARの木村博之レフェリーが非常に落ち着いてアドバイスをして、オンフィールド・レビューからの判定になりました。その連係が良かったと思っています」
――森保一監督もおっしゃっていましたが、今年はアプローチやチャージに関する部分の激しさを、酷い怪我をさせるものかどうかしっかり見極め、プレーを流す場面も目立ったと思いました。
「そうですね。そこは影山雅永技術委員長や森保監督とも話をして、選手目線、指導者目線の見方、考え方っていうのを吸収して、判定基準に生かそうとしています。今年もしっかり見極められた場面もありましたが、我々はまだ、もっとできるのではないかと思っている部分もあります」
――ヨーロッパのリーグのような判定基準になっていました。
「スモールコンタクトのファウルをどこまで許容するかですね。ファウルと言われても仕方がないプレーなんだけれども、でも続けさせてもいいんじゃないかということは、ディテールのところなのですが、そこをもっと突き詰めていかなければいけないと思っています。試合が止まらなければ何でもいいということではないのですが、些細なもので止まるのは避けたいと思います。
実は試合が止まらないほうが選手も我々も大変なんです。止まらなければ、どんどん次のプレーにフォーカスして集中しなければならない。ですがプレミアリーグのチェルシーとアーセナルの試合を見ていると激しいプレーの連続ですし、そういうところを目指さなければいけないと思っています」
■サッカーの魅力の1つは判定に対する議論「白黒つけたら面白くない」
――どんどんプレーが続いていく試合のほうが見るほうも集中できます。
「当然、危険なプレーや相手を傷つけるプレーを流すということではないのですが、本当に細かいところを見極めていくことだと思います。フェアなプレーが続いてサポーターの人たちが見入っていくようなことにしなければならないと思っています。
選手たちもすごく理解してくれて、昔は誰かが倒れたらすぐにみんなでアピールするような場面がありました。ですが今は、ひどい怪我の場面を除いて、選手たち全員がすぐ次のプレーに移ってくれていると思います。今は選手と審判が一緒になって素晴らしいゲームを作ろうとしているのが伝わっているのではないでしょうか」
――それでは今年の判定で改善の余地があると思ったところはどこでしょうか。
「それは判定の正確性をもっと上げていくことに尽きます。これは私の経験論なのですが、ポジショニングや見る角度は重要だとしても、その意識が強くなりすぎると、今度は逆に事象が見えなくなってしまうのです。それを改善するにはさらに経験を積むしかありません。その経験を積む作業を続けていきたいと思っています。
それから今、コントロールを少し考えなければいけないと思っているのはベンチマナーのところですね。選手は冷静にプレーを続けていてもベンチが熱くなって火を注ぐ場面が何度かあったと思います。
すぐにカードを出して抑えつけるということではないにしろ、観客のみなさんが見たいのはピッチの上であってその外ではないはずです。ですからベンチのマネジメントについてはどうコントロールしていくのか、少し課題があると思っています」
――今年は審判に明確な基準を定めるように求める声がありました。例えばPKの前にボールに対して水をかける行為に対して、必ず主審がアクションをしたほうがいいのではないかという意見がありました。
「10月にサッカーのルールを決めるIFAB(国際サッカー競技会)のテクニカルディレクターであるデヴィッド・エラレイ氏が来日して語っていました。彼は競技規則を作る側の人間として、サッカーの魅力の大きなところは判定に対して議論することだと言うのです。
試合が終わってパブや居酒屋に行ったり、今だったらSNSでいろいろ議論したりするのもこのスポーツの魅力。そこにあまり白黒を付けるようにルールが細かくなると面白くない、と。それをみんなにどう理解してもらうかということを考えていかなければならないと思っています。ただ、観客のみなさんの審判に対する理解は非常にいただけるようになってきたと思っています」(森雅史 / Masafumi Mori)
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