甲子園を観戦「ああいう風になれよと」 変わった目の色…刺激になった“野球部の姿”
FOOTBALL ZONE / 2025年1月12日 19時50分
■東海大相模は準決勝で流通経済大柏に敗戦も手応え
初出場の快進撃は、惜しくも4強でストップした。第103回全国高校サッカー選手権大会は1月11日に国立競技場で準決勝が行われ、東海大相模(神奈川)は第2試合で流通経済大柏(千葉)に0-1で敗れ姿を消した。
高校の部活動では野球部が名門として知られ春夏とも甲子園の常連校だが、サッカー部が激戦の神奈川を勝ち抜いて全国選手権に辿り着いたのは今回が初めてだった。首都圏4都県開催の今大会、地元の後押しも得て準々決勝まで快進撃を見せた。第88回大会で山梨学院が果たして以来、史上11校目になる初出場校の優勝という快挙も視野に入ってきていた。
しかし、この日は前半に大きなアクシデントに見舞われてしまう。前半30分にDF佐藤碧が負傷交代となってしまったのだ。佐藤は超ロングスローの持ち主で、今大会でも話題の1人に。この試合でも披露する場面があったが、まさかの事態になってしまった。有馬信二監督も試合後会見で「非常に痛かったというのが率直な感想」と悔やんだ。さらに、前半42分にはPKを献上して先制点を与えてしまった。
初の国立で相手は全国優勝経験のある名門。それでも東海大相模はギリギリまで粘りを見せた。大ピンチで相手のシュートがクロスバーに当たるような幸運もあったものの、1点差を維持して試合終盤までどちらに転ぶか分からない勝負を演じた。有馬監督はハーフタイムに「このチームになり練習試合も合わせて86試合目だけど、今までで一番いい」と伝え、後半にパスワークで突破した場面では「この場で自分たちのプレーが出せたことに、選手たちに拍手していた」のだと話した。
■敵将も感嘆「層が厚いなと感じました」
佐藤を欠いても後半10分から途中出場の2年生FW戸川昌也がロングスローを投げ入れ、何かが起こりそうな場面も作った。敵将の榎本雅大監督には「相手のロングスローは警戒して1週間準備してきて、対策できたと思います。ただ、(佐藤が)交代しても途中から出てきた選手もすごいロングスローを投げて、選手もビックリしていまして。層が厚いなと感じました」と、驚きの表情もあった。しかし、最後はそのロングスローがクリアされたところで無念のタイムアップになった。
有馬監督は「淡白なゲームをする、子どもだなと思っていたチーム」だったところからの成長に、今夏の甲子園大会に出場した野球部の姿があったことを明かした。
「オフだった日に野球部の甲子園、準々決勝の試合を応援していたんですが、ファインプレー、いいプレーをしてもガッツポーズも笑顔もなく、淡々と甲子園でプレーしている。これが強さなんだな、と。地に足が着いて、野球を真摯にプレーしているなと感じた。選手たちに聞いたら、みんな試合を見ていた。お前らも、ああいう風になれよ、と。地に足を着けてサッカーに真摯に向き合おうよと話した」
それからのチームは、目の色や姿勢が変わったという。「負けても良いから、夏は強度と切り替えのところをしっかりやろうと伝えた。そして、涼しくなっていくごとに守備の強度が上がり、メンタル的にも強くなった。彼らは修学旅行先の沖縄にもランニングシューズを持っていって走っていた。この能力の子たちがこれだけやるんなら、県予選で勝てるんじゃないか」と、自信を深めた。
そして、全国の舞台では初戦で草津東(滋賀)に逆転勝利。それによって「かなりの成長を感じた。準決勝で流経か大津(熊本)と戦いたいという手ごたえを感じた」と、国立の舞台で強豪に挑むイメージができたのだという。
■「野球部を超えられたので良かった」
準決勝こそ無念の交代になった佐藤だが、「選手権を戦うことで成長して、試合を重ねることでみんな技術も上がった。自分たちのサッカーをできるようになった」と話す。その言葉の通り、初出場で失うもののないチームは勢いに乗り、ピッチ内でのプレーの質も試合ごとに高まっていった。その結果がベスト4進出となり、銅メダルを胸に「結果的に、野球部を超えられたので良かった。みんな悔しい思いはあるけど、ここまで来られてうれしい。堂々と帰りたい」と笑顔を見せていた。
有馬監督はすでに「いきなり飛び抜けてここまで来たので次のハードルが高くなったけど、1年生、2年生も面白いし、新入生も今までで一番いい選手が入ってくる」と先を見据える。そして、サッカーの質にこだわりながら少しずつ結果を残してきたことで「現場の指導者たちやJリーグ下部組織の指導者から中学生に練習を見にいけと言ってもらっているとも聞くし、それを見てうちに決めたという選手もいると言っているので、今後に良い影響を与えてくれればと思う」と、好循環が発生していることへの思いも話した。
東海大相模と言えば、甲子園のタイガー軍団。そして、高校サッカー選手権のタイガー軍団と言えばこの日の第1試合で決勝進出を決めた前橋育英(群馬)が君臨してきた。今大会の快進撃により、2つの意味で新たなタイガー軍団が誕生しそうな気配だ。(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)
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