昨季躍進した町田の“方向転換” 初日練習で意外なメニュー…「戦える選手」で目指す改革【コラム】
FOOTBALL ZONE / 2025年1月15日 21時10分
■1月8日に初日のトレーニングを開始した町田
チームが始動する時、そこには明確なメッセージが込められる。「次はこうプレーするぞ」という方向性を選手に提示するのだ。初日だから簡単にフィジカルメニューだけをこなして終わり、ということはほぼない。
新監督や新コーチが就任した時は特にその特徴がハッキリする。FC町田ゼルビアの初練習にもその意図が明確に表れていた。
1月8日、町田は初日のトレーニングを開始。新加入の菊池流帆が「初日でこれはきつい」というメニューをこなし、2月15日に開幕するシーズン(町田の初戦は2月16日のホーム・サンフレッチェ広島戦)に向けたスタートを切った。
昨季の町田はシーズンの半分である19節を終わって12勝3分4敗、得点31失点16と一時は首位を走っていた。だが後半に失速。後半戦に限れば7勝6分6敗、得点23失点18で9位。それでも最終節まで優勝の可能性を残していたが、結局3位に終わった。
これは必然だったと言えるだろう。というのも、町田には戦術のバリエーションがなかった。あえて幅を広げなかったというのが正しい。黒田剛監督は昨シーズン中にこんな決意を語っていたのだ。
「まずはJ2からやってきたことを変えずにやる。いろいろと手を出して、それがうまくいったとしても、来シーズンになった時どこが通用して、どこを修正しなければいけないか分からなくなる。そちらのほうが怖い」
いくら切れ味が鋭いとはいえ、一本のナイフだけで乗り切れるほどのJ1ではなかった。システムを変更して対応したが、基本的にはボールを奪うと多少苦しくても前線を狙う、サイドから仕掛けるという形は変わらなかった。シーズン途中で平河悠がブリストル(イングランド2部)に移籍したが、平河が残留し好調ぶりに引っ張られたとしても、それだけでシーズンを乗り切れたかというとそうではないだろう。
町田はリーグ5位以内を目標に2025年を戦う【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
■新ヘッドコーチが指揮した意外なメニュー
どこを変えていくのか。まずヘッドコーチが変わった。金明輝コーチはアビスパ福岡の監督となり、代わって有馬賢二ヘッドコーチが就任したのだ。
初日のメニューで最後から2番目だったのは、三田光コーチによる守備の強度と攻守の切り替えの速さを思い出させるためのトレーニングだった。ここまでは非常に町田らしかったと言えるだろう。三田コーチが町田の守備について、どういうポイントがあるのかを動きで説明していた。
そして最後に有馬ヘッドコーチが指揮する、意外とも言えるメニューになった。選手全員がハーフコートに入り、3つのグループに分かれてボールキープをする。1つのグループはフリーマンとなり、ボールを持っているグループのサポートをする。
去年の町田はポゼッション率が極端に低かった。ボールをつないで相手にパスカットされるようなリスクを冒すくらいなら、スペースにめがけて蹴っていたのだ。例えば町田が初めて首位に立った第4節、アウェーの北海道コンサドーレ札幌戦は、札幌のボール保持率が59%、町田は41%しかない。そして町田が2-1と勝った。
しかし、今年の最初のトレーニングの締めはポゼッションだった。そしてこれが町田らしいと言えるのだが、ポゼッションしながら時折ロングボールを織り交ぜる。見えてくるのはボールキープしながらも、相手のラインを見て長いパスを供給したいという意図だった。
有馬ヘッドコーチは町田が去年、唯一シーズンダブル(2敗)を許した広島のコーチを2022年から務めていた。当然町田の弱点は十分に研究したはずだ。そして何が広島の強みだったかも分かっている。
そういう人材をライバルチームから連れてくることで、町田は客観的に見た弱点を補おうとしている。そのための第一歩が、ポゼッションをしながらロングボールを織り交ぜていくということになったのだろう。
もちろん、去年までのスタイルに加えて新しい戦い方が加わっただけでJ1をフルシーズン乗り切れることはないはずだ。前シーズン3位だったのに、今シーズンの目標が5位以内というのも、1年経験してリーグの怖さを味わったからだろう。
原靖フットボールダイレクター(FD)は今シーズンの目標が低すぎるのではないかと聞かれてこう答えた。
「多分マークもすごいと思うんです。スタートダッシュがどうかということはあるんですけれど、謙虚すぎるというより、まだ(J1)2年目なので、そういった目標設定なりました」
それでも町田は確実に一歩前に進もうとする姿を初日に見せていた。補強についても原FDは「実際に戦える選手を揃えたのが今回の力点で、黒田監督のサッカーに合う選手を揃えた」と満足感を見せる。
あとはこの変革がうまくいくか。残り1か月余り、急ピッチでチーム作りが行われる。(森雅史 / Masafumi Mori)
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