高校選手権決勝5万8347人の大盛況も…夢舞台48校が抱える課題と「天と地の差」【コラム】
FOOTBALL ZONE / 2025年1月16日 20時10分
■最優先に考えるべきは「育成」…好機をできるだけ提供するため迅速な対応が必要
全国高校サッカー選手権決勝は、プレミアEASTで高体連最上位の流通経済柏(4位)と前橋育英(6位)の対戦となった。
昨年度は今大会の全48参加校の中で、半数が2部も含めたプリンスリーグで戦ってきたから、日常の経験値の優位性は明確に証明されたことになる。プレミアリーグファイナルを制して日本一になった大津は流経柏に敗れたが、プレミアWESTの高体連では参加校中で2番目の成績を残した東福岡は準決勝に進んでおり、JFA(日本サッカー協会)が全国的にリーグ戦を整備したことで着実に序列化は進んだ。
しかし毎年メンバーが入れ替わる高体連の序列は絶対ではない。今大会でも神奈川県(K1)リーグで7位だった東海大相模は、流経柏に挑んだ準決勝前半は堂々と主導権を握り「この舞台でもワンタッチ、ツータッチで相手を剥がし躍動。心の中で拍手を送っていた」と、同校を率いる有馬信二監督を感銘させた。また昨年度も東京都リーグ(T1)を抜け出せなかった堀越も、2年連続でベスト8に進出。2年生の三鴨奏太が得点王に輝いた。
またその三鴨に4ゴールを許した松山北は進学校で3年生が1人だけのチームだったが、日常のリーグでは体感できない未知との遭遇は貴重な経験になったはずだ。長野県リーグ3位の上田西にしても、2勝したからこそ流経柏の大きな壁を感じ取れたわけで、これも選手権が創出する成長機会と言える。
ファンは選手権の「負けたら終わり」という刹那性を愛し、それが人気の秘訣なのかもしれない。だがJFAや高体連が最優先に考えるべきなのは育成である。例えば昨年ベスト4に進出した堀越の佐藤実監督は語っていた。
「大会を通して選手たちが伸びている。それが選手権の素晴らしいところです」
なんらかの契機を味方にした、この年代の選手たちは瞬く間に変貌を遂げてしまうことがある。都リーグにも塩貝健人のように卒業とともにJリーグから欧州へ飛躍していく選手がいるし、最近は堀越からもJリーガーが巣立っている。それなら主催者側は、せっかくの好機をできるだけ多くのチームや選手たちに提供するために迅速に対応する必要がある。
■全国から48校が首都圏集結、せっかくの夢舞台も半数が1試合で去っていく
高体連の選手たちは、3年間の集大成として選手権に挑む。その意識は、日本代表選手たちが4年間の集大成としてワールドカップに臨むのと、あまり変わらないかもしれない。
ところが熾烈な予選を勝ち抜いて首都圏に集結してくる48チームのうち、半数が1試合で去っていく。世界を見渡しても、これほど育成の要諦から外れた大会はない。せっかく夢舞台の切符を手にした選手たちが、集大成のゲームを最低3試合経験できるのか、1試合で終えてしまうかでは、その後の選手生活のみならず人生を考えても天と地ほどの違いがある。
すでに選手権にグループリーグの導入を望む声は、20世紀末にもあちこちから漏れてきていた。ところがJFAや高体連は、依然として本来喫緊の重要課題を放置したままだ。もはや論外の域に到達している真夏のインターハイの開催是非も含めて、育成年代の環境見直しは待ったなしの状況に差しかかっている。
1月13日、関東同士の決戦ということもあり、東京・国立競技場には5万8347人の大観衆が詰めかけた。しかし機構側は、この盛況ぶりに浮かれて快哉を叫んでいる場合ではない。選手権の成否が決まるのは未来だ。それを見据えて、この年代にこそ、プレイヤーズ・ファーストの理念を愚直に貫くべきである。(加部 究 / Kiwamu Kabe)
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