欧州で選手兼指導者…25歳日本人の奮闘 渡欧前から仕事探し「自分で稼いで整えないと」【インタビュー】
FOOTBALL ZONE / 2025年1月22日 10時20分
■オランダのデンハーグで働き、選手兼指導者としても奮闘する桝田花蓮
オランダのデンハーグで仕事をしながら、選手兼指導者として奮闘している女性がいる。現在25歳の桝田花蓮だ。早稲田大学ア式蹴球部女子部から在学中にコスタリカへ飛んで活躍し、その後は将来的に指導者になりたいと渡欧を決意。欧州挑戦の経緯と現在の思いを聞いた。(取材・文=中野吉之伴/全3回の1回目)
◇ ◇ ◇
海外に活躍の場を求める日本人は今も昔も少なくはない。トッププロ選手だけではなく、下部リーグで悪戦苦闘しながら夢を追いかける選手のほか、指導者やフィジカルトレーナーとして将来への道を切り開こうと奮闘している人たちがいる。
一昔前に比べたらネットを駆使した現地の情報収集に加え、自動翻訳で現地の人と直接コンタクトを取ることも可能とはいえ、日本とは言葉も習慣も文化も環境も異なる場所で暮らすことへの不安が頭をよぎるのは無理もない。アマチュアの「サッカー選手」「サッカー指導者」としてでは現地で滞在許可を得ることができないわけで、大学に行くか、研修プログラムで経験を積むか、あるいは就職先を見つけるなど「真っ当な滞在理由」が明確になければ受け入れてはもらえない。これは当たり前のことだ。
ただ多くの選手や指導者として夢をつぶやく若い日本人は、こうした人生設計に疎かったりする。サッカー以外への努力や行動力が圧倒的に足りない。斡旋業者を頼る人がいつも一定数以上いる。グレーゾーンを超えるほどあくどい魔の手に苦しむ人から連絡をもらうこともある。根本的な解決にはならないのだ。
そんななか、長期的なビジョンで人生設計をして、日本にいる間に仕事先と住居を探したうえで欧州挑戦している日本人がいる。桝田花蓮、25歳。早稲田大学ア式蹴球部女子部から在学中にコスタリカへ飛び、同国1部リーグクラブのエレディアで活躍。その後、将来的に指導者になりたいと決意し、サッカーの本場欧州で経験を積むため、23年からオランダへ渡っている。長期的な滞在になることを考えた時、そこで暮らしていくための土台作りは欠かせないと、日本から仕事を探し出した。
「コスタリカでの経験を経て、自分でちゃんとお金を稼いで、生活環境を整えないと、自分のやりたいことには本当にチャレンジできないなっていうのをすごく感じたんです。住むところとか、仕事とかを自分でちゃんと整えられるようになりたいっていうのがあった。『指導者になりたい』とか『そのための資格を取りたい』というのは『私』がやりたいこと。もちろん親にサポートを求められるかもしれないけど、海外に行きたいというのは自分自身の選択だから。そこにちゃんと責任を持ちたかった」
■日系企業で募集されていた事務、住まいも目星「安心感は大きかった」
オンラインでアクティブに動き、最終的にオランダを拠点にする日系企業で仕事を得ることになった。日本食のフードストアを持ち、IT関連の部署もある。そこの事務が募集されていたのを見つけて応募。住まいも企業の紹介で目星をつけることができた。
「安心感はそりゃ大きかったですね。海外で暮らすということはビザも申請しないといけない。こっちに来てから家を探して、仕事を探して、ビザを申請してもできるだろうけど、すごく大変というのは現地の人の話で聞いていました。先に仕事とか家があったからこそ、オランダのデンハーグに来て、すぐサッカーチームも探せたし、そこで友達もできたし、すごくいいスタートが切れたんです」
2シーズン目となる今季はUEFAのC級ライセンスも獲得し、指導者としての活動もスタート。アフタースクールケアの会社でサッカーのアクティビティを担当し、7~10歳までの女の子を対象に、毎週1回サッカートレーニングを行っている。また現在選手としてオランダ3部にあたるフォーラムスポーツクラブでプレーをしているが、そこのU-17セカンドチームでコーチとしても関わっている。
「まずやっぱりコミュニケーションのところが難しい。メインのコーチはオランダ語でやるけど、私は英語でやっています。ただ選手同士はもちろんオランダ語で話すから、最初はなかなか。最近は徐々に打ち解けてきたと思います。指導者を始めてみて、そのためにコーチングの知識などを勉強してきたけど、実際現場に立ってみて、自分がやらなきゃいけないことや気にしないといけないことっていうのが、思っていた以上にもっとたくさんあるんだなっていうのに気づきましたね」
アフタースクールサッカーの子どもたちも、U-17セカンドにくる選手たちも、みんなモチベーションやサッカーへの思いはバラバラだ。サッカーが嫌いなわけではない。でもどこまで本気でやりたいかと言ったら、その日の気分もあるだろうし、友達と遊んでいたいという日だってあったりする。そうしたなかでトレーニングを準備し、実行していくやり方は、教科書には載っていない。子どもたちそれぞれで対応は違うのだから。
「いろいろ探りながらやっています。こっちの子って『コーチや大人に従わなきゃいけない』ってふうに育てられていない。寒いから嫌とか、帰りたいとかばっかりだったりする(苦笑)。でも練習メニューを工夫して、競争形式を増やしたり、ボール扱いにチャレンジして、成功体験を増やすところにもフォーカスしたり、あとは単純な鬼ごっこみたいな練習にしたりすると、ガーッと没頭してくれるんですね。言うこと聞いてやらされているんじゃなくて、練習をちゃんと楽しんでくれている」
■現地指導で感じた「大人から子どもへの押しつけ」問題
日本では「厳しさ対楽しさ」という図式で指導者からのアプローチで語られがちだが、サッカーを楽しむというのと、本気でサッカーをするのは矛盾しないというのに気づかされると桝田は語る。
「こっちの子どもたちを見ていると勝負事への貪欲さが、レベルや性別、年齢に関係なく強いんです。勝ったら本当に嬉しそうだし、負けたら本当にすごく悔しがる。でも試合後にみんな気持ちを切り替えて次へと進んでいく。大人がそのためにうまくサポートしてあげているんだなって。日本で勝利至上主義は良くないというのがすごく言われるようになって、ポジティブな子どもたちへのアプローチは前提条件として間違いなく大事なんだけど、大人が子どもに変な価値観を押しつけるのが良くないのであって、子どもたち自身が持っている勝負へのこだわりみたいのは大事にしないといけなんじゃないかとすごく思いました。
勝利至上主義の反対って『勝ち負けにこだわっちゃダメ』とか、『仲間と協力して楽しもう』とかばっかりになりがちだと思うんですけど、子どもたちが本気で夢中になって向き合うトレーニングや試合があって、その中でやっぱりサッカーなんだから、いかにチームとして、仲間と協力して、ポジティブに一緒になって、勝負にこだわることが必要なのかなって感じます。ちょっと視点が変わった気がします」
勝ってうぬぼれたり、負けて相手を誹謗中傷したりするのはNGだ。勝ち負けをずるずると引きずるのではなく、試合が終わったら、気持ちを切り替えて、次に向かって歩いていく。うまく心境を整理して課題を明確にし、気持ちを落ち着ける。そのために指導者がいるべきなのだ。勝てなかったら人生終わりなんてことはないし、勝てば人生すべてうまくいくなんてこともないのだから。
※第2回へ続く(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
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