撮影禁止エリアに進出…聞かれた「フォロワー何人?」 影響力を持つ新時代のメディア【コラム】
FOOTBALL ZONE / 2025年1月23日 7時50分
■「インフルエンサー」と呼ばれる人たちが選手との2ショットを撮る場面も
今、サッカー界ではSNSとどのように向き合っていくのか、いろいろな試行が行われている。この点においてもっとも「ラジカル」なのはアジアサッカー連盟(AFC)かもしれない。2024年カタールアジアカップでその方針がはっきり見えた。(文=森雅史)
試合後、報道陣が取材するエリアはだいたい大きく分けて2つに分けられている。カメラを回しながら取材するテレビや配信関係の報道陣のためのエリアと、映像は撮影せず選手の話を聞いて文字として発信する記者のエリアだ。さらに、映像を撮影しながら取材するエリアは、放送権を持っているメディアのためのエリアと放送権を持たないメディアのためのエリアにも分かれている。
2024年のアジアカップで大きくエリアを広げていたのが「放送権を持たないメディア」で、その人たちの中で多かったのが、SNSを主な情報発信地とする記者だった。取材現場で彼らに挨拶をすると、判を押したように「インスタグラムのフォロワー数は何人だ?」と聞いてくる。彼らは何十万人という単位でフォロワーを持ち、スタッフが携帯を構えてずっと撮影を行っている。実際、彼らからインタビューを受けた動画は一晩で数万アクセスを記録していた。
正直に言えば、彼らに「エリア」の概念はなかった。記事を書く記者のためのエリアは撮影が禁止されているはずなのだが、そこまで彼らは進出して動画を撮影する。選手を撮影しながら話を聞くだけではなく、自撮りの構図の中に選手を入れ込んでいたりもする。さらに「インフルエンサー」と呼ばれる人たちも取材エリアに現れ、選手との2ショットを撮る場面もあった。
エリア分けには熱心なAFCだが、この撮影行為はすべて容認されていた。むしろ、このSNSを主な活躍の場とするメディアの人たちをAFCは積極的に活用としているように見えたほどだ。その傾向は2019年のアジアカップでもあった。2019年アジアカップでグループリーグ終了時点での最優秀選手を決めるユーザー投票の際に、AFCがエントリーした選手はSNSのフォロワー数が多い順だと噂されていたのだ。
確かにSNSの拡散力は大きい。テレビの影響力には負けるかもしれないが、SNSの力はサッカーにとって重視しなければいけない存在になった。もしかすると「インフルエンサー」はサッカーそのものに対して興味がないのかもしれないが、それでもイベントについての情報は拡散してくれる。フォロワーの興味は移ろいゆくとしても、瞬間的な興味は間違いなく引くはずだ。
日本でも「インフルエンサー」に対して積極的にアプローチしたこともあった。あるチームのユニフォーム発表会で報道陣の前にインフルエンサーを座らせ、彼らをより重視しているという形でイベントを進めたこともあった。インフルエンサーの力はもう無視できない。
もっとも問題点がないとは言えない。たとえば11月に中国で開催された2026年アメリカ・カナダ・メキシコワールドカップのアジア最終(3次)予選では、海外のSNSを中心とした記者が日本の記事を書くメディアが日本代表選手に取材しているところにカメラを突っ込み、さっとアップロードするということもあった。
たぶんその記者は日本語が分からなかったはずだ。それでも日本の人気選手の動画を上げることでアクセス数を稼ごうとしたのだろう。これが横行するようになれば、日頃から取材を続けて選手と信頼関係を築き、より深い部分を話してもらおうとする丁寧な取材の努力は報われない。
確かに今も選手と親しい記者が話しているところを録音して記事にすることはある。だが一応の礼儀として一番深い部分の話は自分の記事に入れないという、何となくの「合意」のようなものがある。これは同じ「記事を書く記者」というカテゴリーにいるから成り立つものだ。SNSに映像を載せるために取材する記者と同じ場所にいたら成立しないだろう。
日本では現在SNSでのみ発信を行っている記者は取材できない。そのため取材を行っているところを動画で撮影されて、それを記事より先にアップロードされるという心配はない。では今取材している報道陣が動画にとってアップロードできるようにすればいいかというと、それだけではアジアカップやアウェーのワールドカップ予選で起きたような問題も出てきてしまうだろう。
またSNSは拡散力が強いぶん、ハレーションも起こしやすい。簡単に引用や切り抜きなどができてしまうため、タイトル詐欺のような記事も産みやすく、またあえて真実とは違う方向にねじ曲げられることも、今の時点でもよくある。
それでもSNSの力の大きさを利用しない手はない。実際のところ、SNSの反応を入れている記事が多いことも、その影響力を認識しているから相互作用を狙っているのだろう。
そういう状況を考えると、近い未来にSNSをメインの活躍場所としている記者がJリーグや日本代表の取材現場に入って来る流れではないだろうか。どうすればそういう新規参入がスムーズに行くのか、リーグも既存メディアも考えるべきときが来たと思う。そしてこうやって整理していく途中で痛感したのは、自分のインスタグラムのフォロワーを増やさなければいけないことだ。今年はキラキラした写真をどんどんアップロードしなければいけない。盛り盛りで。モリなだけに。(森雅史 / Masafumi Mori)
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