青赤の現場に充満する「ほどよい緊張感」 スペインからJ復帰、上位進出のキーマンが示した“水準”【コラム】
FOOTBALL ZONE / 2025年1月22日 18時20分
■エイバルから復帰した橋本拳人が早速チームに貢献
FC東京は1月18日、今年初の対外試合となる30分×3本の練習試合に臨み、合計10-0の勝利を収めた。昨年の九州大学リーグ2部12位の名桜大学が相手とはいえ、終始圧倒しての完勝は見事なものだった。
スペイン2部エイバルからの加入で人々の耳目を集めている橋本拳人もさっそく出場。奢った様子は微塵もなく静かに溶け込み、チームに貢献した。
目についたのは試合前のアップだった。ボール回しの質が高い。橋本が蹴るボールはまったく浮くことがなく、速く強く真っ直ぐに転がっていく。チーム内で比較しても明らかに水準が高い。そして試合が始まると、その質が練習で取り組んできた攻撃の再現に役立ち、テンポを掴むことにつながった。
松橋力蔵監督は、前所属のアルビレックス新潟でやっていたことをそのまま移植するのではなく、FC東京での最適解を見つけるという意思を既に表明しているが、だからと言って新潟的な要素が皆無というわけではない。起点となるのは、相手を揺さぶるかのような中盤でのボール回し。前に出すところがなければ、相手がついてこられなくなるまで何度で徹底してやり直す。そのくらい、ボールを動かすことにこだわっている。その時、中盤の質が重要になる。
実際、この試合の4点目はボランチを経由したところからのラストパスが決め手となった。やはり技術力の高さと連動性の高さが不可欠だが、今キャンプ中のトレーニングを通じて足もとの基準は昨シーズンよりも上がってきている。その点で橋本の貢献は明白だ。
一方で、縦の速さを活かした攻撃は元々FC東京が備えている特長。松橋監督はここを活かそうともしている。現有戦力やクラブの歴史を尊重した結果だが、実はここに松橋イズムが表れているのではないだろうか。
松橋監督はじつにコミュニケーションが豊かだ。川岸滋也社長、小原光城GM、時崎悠コーチ、奥原崇コーチ、そのほか多くのスタッフ、選手と接し、意思の疎通を欠かさない。我々メディアに対しても腰が低く、どの取材者に対しても分け隔てなく対応し、扱いの差をつくらないよう心がけているように映る。他者を尊重する様子が見てとれる。
諸条件があるなかで、必ずしもスカッドは満点ではないかもしれない。クラブで働く人々も、能力や性向は様々だろう。それらひとつひとつに対して不満を述べているだけでは、事態は前に進んでいかない。
■選手も感じ取った松橋監督の人間力「この人のために」
松橋監督の言葉を聞いていると、否定的な表現はなかなか出てこない。前向きにフットボールに取り組み、その過程でマイナス面を包み込むように克服していく感触がある。自身が所属するチームやクラブにその人柄で己を浸透させ、様々な人々の間をつないでいく、その調整力が松橋監督のストロングポイントなのだと感じさせられた。
ある選手は松橋監督を日本代表の森保一監督に例えていた。「人間力がすごいんです。とにかく誠実。だから、誰もが『この人のためにやろう』という気持ちになる」。
自分が前に出るわけではない。常に控えめ。そこまでは傍目で取材する立場からもわかる。それでいて、いまいる人々を認め、その力を引き出すことにかけてはとても熱心なのだろうということも、選手の言葉からほぼ確信出来る。
クラブ、あるいはチームの状態が悪いと、ややもすると戦犯探しが横行し、誰が悪いと、人を責め立てる論調が目立つ。しかし、松橋監督はそういう後ろ向きな姿勢とは正反対なのだろう。世間からよく思われている存在であろうとなかろうと、同じ場に集った人に対して差別をすることは、おそらくないのではないか。
周りを巻き込み、真摯にフットボールに立ち向かう気風をつくり上げてきている成果か、東京の現場には、これまでよりも大人びた、プロフェッショナルな空気が漂ってきている。このまま無心に、課題の解決と成長に取り組んでいけば、上位進出も夢ではない。そう思わせるほどよい緊張感が、青赤の現場に充満していた。(後藤 勝 / masaru goto)
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