J監督が影の“MVP”に流した涙 メンバー外も腐らず…昇格の裏で示したプロのあるべき姿【インタビュー】
FOOTBALL ZONE / 2025年1月25日 6時50分
■藤枝MYFC戦後の会見で秋葉監督が涙「育成出身でクラブ愛がものすごくある選手」
清水エスパルスは、2024シーズンのJ2を制して来季は3年ぶりにJ1の舞台で戦うこととなった。チームを率いた秋葉忠宏監督は昨シーズン中、秋葉監督が感極まる場面があった。どうして感極まってしまったのか。「FOOTBALL ZONE」のインタビューで、涙を流した訳を明かしてくれた。(取材・文=河合 拓/全8回の5回目)
◇ ◇ ◇
それはJ2リーグ第32節の藤枝MYFC戦後の試合会見の時のことだ。先制点を許した清水だったが、後半7分にMF西澤健太のゴールで同点に追い付く。その後、後半13分にも西澤のコーナーキック(CK)から逆転ゴールが決まった。西澤の1得点1アシストの活躍もあり、清水は3-2で勝利。試合後のフラッシュインタビューで秋葉監督は感極まって涙を流しながら、5月に行われたトレーニングマッチで負傷し、約4か月ぶりに復帰してスタメン出場した西澤を称賛していた。
サッカー選手は、ほとんど例外なく、常にスタメンで試合に出たいと思うものだ。しかし、試合で先発起用できる選手は常に11人。スタメンに選ばれなかった選手たちは、悔しさや葛藤を抱えながら、次の試合に向けて準備をすることになる。選手出身の秋葉監督は当然、そのことを理解している。先発から外れる選手に「納得しなくていいけど、理解だけはしてくれ」「差別はしないけど、区別はするよ」と伝えることも、少なくなかったという。
先の言葉は、先発として出ることに納得してしまっては、選手としてそれ以上伸びなくなるからだ。また後の言葉には、実績のある選手とない選手、勢いのある選手とそうではない選手、調子の良い選手と悪い選手は、区別をするという意思表示でもあった。
とはいえ、選手としては簡単に受け入れられないだろう。それでも自分が試合に起用されない時でも、自身を犠牲にしてチームの勝利のために動くことのできる選手が、2024年シーズンの清水には揃っていたと秋葉監督は自信を見せた。
「紅白戦をやる時も、週末の試合を想定してやるので、試合に出られない選手たちに『相手チームを仮想してやってよ』と言わないといけません。対戦するチームによっては、バンバン後ろから蹴ってくることをする。そんなスタイルの選手は、うちには1人もいませんし、試合に出るために自分のプレーをアピールしたいはずなのに、そういうことであればと割り切って、協力してやってくれました。それは本当にありがたかったですね」
■メンバー外でもチームのために…ゴールで同僚も感涙「ウルウルきていた」
フォア・ザ・チームの姿勢を、誰よりも高く示してくれていた1人が、西澤だった。「仮想対戦相手のプレーをするだけではなくて、もっと言えばポジションも違うところをやってもらうことがありました。うちは左利きの選手が少なかったので、相手の同ポジションに左利きがいる場合は、そのポジションをやることも少なくありませんでした。その意味で、(西澤)健太は中盤の選手ですが、『僕センターバックやりますよ』とか、『若手がやるよりは、僕がやったほうがリアリティーが出ると思うので』と言って、常にやってくれていたんです。そんな選手が活躍してくれたら涙も出ますよ」と、会見での涙の背景を明かした。
また秋葉監督は、ほかのチームメイトたちも同じように西澤を評価していることを知った時に、同じくらい嬉しかったという。それはクラブ公式YouTubeチャンネルで、DF高橋祐治とMF矢島慎也が2024年シーズンのMVPを選んでいる動画。高橋が熱く西澤について語ったものだ。
「健太にとっては、正直悔しいシーズンだったと思う。俺もメンバー外の練習に何回か参加したけど、めっちゃ悔しくてみんながテンション下がっているなかでも、(西澤は)めちゃくちゃポジティブな声を出して練習に励んでいた。テンションが低い若手がいたら、声をかけているところも見た。淡々と、朝早く毎日トレーニングに来て、背中でも見せられる。プレーでも見せられる。かつ、声をかけてあげられる。全部ができる選手だと思う。
それで藤枝戦の時みたいに、試合に出たら結果としてゴールやアシストで応えられる。チームにとってプラスだったし、それを見た後輩もめちゃくちゃ嬉しかったと思う。秋葉監督が泣いてめちゃくちゃ出たけれど、俺も健太が(ゴールを)取った瞬間、めちゃくちゃ嬉しかったし、ウルウルきていた」
■MVPは「選手全員」、「試合に出なかった選手たち」も大きな功労者
当の西澤は、秋葉監督が涙していたことについて、照れもあったのか「なんで泣いていたのか分からない」と話していたが、秋葉監督は「もしかしたら、健太にとっては普通なことなのかもしれない。育成出身でクラブ愛がものすごくある選手なので、『エスパルスのためにやるのは当たり前ですよ』という感覚なのかもしれません。だから矢島や祐治も、強く感じるところがあったのかもしれませんね」と、下部組織出身選手のクラブを思う気持ちが伝わっていったことを喜んだ。
「MVPを挙げるとしたら全員ですし、特に試合に出なかった選手たち。彼らが常に100%でトレーニングをしてくれたから、競争力が高く、緊張感がありながらも、ギスギスしていない非常に良い空気感でトレーニングができました」
秋葉監督は、昇格を掴んだ選手全員をそう称える。指揮官がシーズン中に涙した西澤の背中は、高橋や矢島が吐露した選手目線でも色濃く映っていた。来季は念願のJ1の舞台へ……。だが、清水に西澤の姿はない。24年12月30日、サガン鳥栖への完全移籍が発表されている。西澤も昨年の経験を糧に、新たな地で挑戦することを選んだ。(河合 拓 / Taku Kawai)
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