病院でのサッカー観戦「こういうのいいな」 クラブや医師らが全面協力…新潟サポーターの底力【インタビュー】
FOOTBALL ZONE / 2025年1月26日 8時30分
■新潟県発の画期的なサッカー観戦方法“病院ビューイング”
スタジアムに足を運ぶことが難しい入院患者のために、病院でパブリックビューイングを行う。アルビレックス新潟サポーター有志の女性が、画期的なサッカー観戦方法を11年前に立ち上げた。“病院ビューイング”と呼ばれる活動はその後、隣県でも行われるなど広がりを見せている。特殊な環境下でのJリーグ観戦はいかにして生まれたのか。背景にはクラブを中心にホームタウンで育まれた信頼と絆があった。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治/全2回の1回目)
◇ ◇ ◇
ゴールが決まった瞬間、Jリーグを観戦するべく一堂に会した面々から大きな拍手が上がり、笑顔の花が咲いた。よく目にするパブリックビューイングの一コマ。しかし、会場がひと味違う。ここは新潟県立中央病院(上越市)の会議室。2024年6月29日、“病院ビューイング”がコロナ禍の中断を経て約5年ぶりに再開された。
「一緒に手を叩いて声援を送ることで、病院内の一室が本当にスタジアムのような雰囲気になります。一番嬉しいのは、患者さんが笑顔になる、声を出せることなんです」
スタジアムに足を運ぶのが難しいなら、病院をスタジアムにする――。この先進的な取り組みの立ち上げに尽力した、アルビレックス新潟のサポーター有志「えがお応援団」の小山厚子さんは活動の意義をこう語る。
観戦する患者は車いす姿や点滴スタンドを側に置いている者などさまざまだが、長期入院を余儀なくされている人たちが多い。そうした状況下ならではの課題も、病院ビューイングは解決の一助となる。
「患者さんって入院中に『頑張ってください』と言われることはあっても、自分から『頑張れ』と言う機会はなかなかありません。でも、病院ビューイングを行っていると『アルビ、頑張れ!』と言えるわけですよ」
入院生活で抱えてしまいがちな孤独や閉塞感を和らげると同時に、発散や感情を共有する機会も提供する。ファン・サポーターとクラブ、医療機関の三者が力を合わせ生まれた病院ビューイングは、まさに地域に根差すというJリーグの理念を体現する成功事例だ。
イベント実施にあたってはマスコットも同行し病室の患者へ声かけを行う【写真:アルビレックス新潟】
■仲間のサポーターから提案「俺たちが病院に行こうぜ」
病院ビューイング誕生のきっかけは、2012年まで遡る。ホームタウン活動の一環として小山さんはこの年、新潟大学医歯学総合病院(新潟市)に入院していた少年とその家族をデンカビッグスワンスタジアム(通称:ビッグスワン)に招待する活動を開始した。背景にあったのは新潟サポーターの親友が闘病生活中に呟いていた「ビッグスワンに行きたい」という一言。また、その10年ほど前に自身が癌を患って入院した病院の近くで目にした光景も着想につながった。
「新潟まつりの日に、花火を見られるようストレッチャーに乗った患者さんが外出を手伝ってもらっている姿を見たんです。ご家族の希望だったと思いますが、やっぱりこういうのっていいなと」
1人じゃないんだよ――。そのメッセージを伝えたい一心で実施した病気の少年をスタジアムに招待する活動は、医師や病院スタッフの協力を得て大成功。翌年には入院ではなく、通院している子供を対象に活動を継続した。症状が軽いため、本人の体力的負担だけでなく、病院スタッフのサポートも少なく済むためだ。とはいえ、病気の子供をサッカースタジアムに招待する活動は実現のハードルが高い。ある時、仲間の男性サポーター数人に悩みを吐露すると、思いがけない言葉が返ってきた。
「だったら、俺たちが病院に行こうぜ」
そうして生まれた病院という特殊環境でパブリックビューイングを行うアイデア。周囲に考えを共有すると、意外にも荒唐無稽だと難色を示されることは「まったくなかったんです」。むしろ、病院側にも理解者がたくさんいたことが分かった。
「医師だけでなく、事務スタッフにもホームゲームは必ず観戦に駆けつけるほどの超サポーターがいたんですよ。病院内に仲間がいたことは大きかったですね」
クラブも協力を惜しまず。マスコット「アルビくん」の派遣に加え、選手の等身大バナーも貸与し観戦ムードを盛り上げた。さらに、地元大学のサークル「新潟大学アルビレックスプロジェクト」からもボランティアが参加。総勢30名以上の協力の下、初となる病院ビューイングが2014年4月26日に新潟大学医歯学総合病院で行われ、成功裏に終わった。
その後、新潟サポーター同士のネットワークも手伝い病院ビューイングは県内で広がりを見せている。昨年6月までの時点で7つの病院にて計24回が開催。小山さんは活動継続の鍵を“信頼”だと強調する。
「1回目から参加させてもらっている私たちボランティアに主催者であるクラブはとても理解があり、お互いが固い信頼関係で結ばれていると感じています。また、院内の公式イベントとして運営する立場の病院も、外部からたくさんの人が来て大変な状況ですが、それでも私たちに活動を続けさせてくれています。これもきっと、サポーター同士のつながりによるものではないでしょうか」
アルビレックス新潟サポーター有志「えがお応援団」の小山厚子さん【写真:本人提供】
■病院ビューイング普及における課題
病院ビューイングは2018年に富山でも開催されるなど、新潟県内だけに留まらない広がりを見せている。初開催から今年で11年。コロナ禍で休止を余儀なくされた時間が長かったとはいえ、活動はより広範囲な展開を見せていても良さそうである。普及を阻む要素とは何なのか。
まず、病院ならではの課題として挙げられるのがノウハウの継承だ。病院内に旗振り役となるスタッフが現れても、特に公立病院の場合は定期的な人事異動制度がある。そのため、病院ビューイングを実施しても運営方法が引き継がれなかったという問題が起こり得る。この課題に、新潟県立中央病院呼吸器内科診療部長の石田卓士氏は、開催運営のマニュアルを作成し公表することで対処しようとしている。
パブリックビューイングの実施に当たっての映像使用料もつきまとう障壁だ。法人契約を年間で結ぶとなれば決して安くない金額が発生し、これをどのように賄うか。新潟の病院ビューイングでは現在、クラブのホームタウン活動「スマイルプロジェクト」を通じて集められた協賛金が原資となっている。ほかのホームタウンでも行うとなった場合、地元企業などからの協力が欠かせないことになる。
新潟の成功例に見るようにクラブ、病院、ファン・サポーター、この三者間の関係性が十分に構築されていることも必須だ。これについては、小山さんも「サポーター側から積極的に(クラブや病院に)働きかけ、理解を得ることが重要です」と指摘する。一朝一夕に進む話ではないが、輪を広げていく地道な努力が求められる。
小山さん曰く、これまでに「他クラブに話をしに伺っただけでなく、長野県の病院にも活動について説明するべく足を運びました」とのこと。また、石田氏によって「全国自治体病院学会」で病院ビューイングの取り組みに関する発表もされてきた。活動の知名度にも課題は残るが、それでも少しずつ全国へと種は蒔かれている。
■活動の発展へ選手からも提案
活動を継続してきたことで健康への関心が高まり、病院ビューイングはもう1つの活動へと派生した。簡易型の心肺蘇生の普及と突然倒れた人を救命できる地域づくりを目指す「新潟PUSHプロジェクト」だ。2017年に発足した同プロジェクト。23年からはクラブとの協同で、ホーム試合前にサポーターを対象とした胸骨圧迫とAED(自動体外式除細動器)使用方法に関する講習会が開催されている。
また、病院ビューイング自体も新シーズンへ向けて新たな動きを見せようとしている。小山さんは新潟の選手と交わしたこんなやり取りを教えてくれた。
「ある時、別のボランティア活動で選手と会う機会があり、そこで病院ビューイングについて話をしました。すると、選手のほうから『病院ビューイングの次の日に僕たちから患者さんたちに会いに行ったら喜んでもらえますかね?』と驚きの提案をしてもらったんです。今シーズンはその話をぜひ実現できたらいいなと思っています」
応援するだけでなく選手との直接的な交流ができるとなれば、前向きに治療へ取り組むためのこの上ないアシストとなるだろう。サッカーの力を通じて、地域の絆がさらに深まろうとしている。(FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治 / Ryoji Yamauchi)
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